第八話 負け確?
放課後になり、
教室を出る際、
まさか一緒に来てくれる、なんて事はなかった。
今回のアビマは完全プライベートマッチで、任意の人しか観戦することが出来ない。一応赫賀谷の分も許可を出したが、この調子じゃ意味はなさそうだ。
「意外と緊張すんなー……」
「大丈夫だ
「ぶ……と……す!」
山田達はあの後、教室で
同時に緊張もしているらしく、こういうのにはあまり慣れていないのが霧智には理解できた。
「何度も言うけど油断は禁物よ」
「分かってるよ!最初から能力全快だ!!」
山田達・
ハンデもない、最初から能力をお互い使うことが出来る。
霧智は山田達の能力の詳細を聞いた。
聞いた感じでは新井島が相当な能力を使わない限り、勝算はこっち側にある。
「……着いたわよ。じゃあ私はこれまで。観客席で応援してるわ」
「任せとけよ!」
「行くぞ。三郎」
「お……!」
霧智は山田達を選手専用入り口に案内し、観客席に向かう。
道中新井島の姿を見なかった。先に入って、待っているのだろうか。
予想は的中していた。
新井島はフィールドの
「遅かったな」
「「「……」」」
「あん?あのクソ野郎はどこだ?」
「……てめえには関係ねえだろ」
「はっ……なるほど。
「違う!元々委員長は僕達の間とは関係なかったんだ!」
「か…………い!」
「まっ、どうでもいい」
新井島は立ち上がり、山田達に面と向かう。
適度な距離を保ち、一朗は拳を握りしめる。
「かかってこいよ!クソ雑魚共!!!!」
「行くぞ!次郎・三郎!!」
「「おう!」」
一朗が動く。コンクリートの地面を一蹴りし、加速していく。
新井島は動くこともなく、軽く体を動かしていた。
一朗はここで能力を発動すると
能力を発動したことにより、更にスピードが上がる。
まずは試しの拳を一発。
かなりのスピードで放たれた拳だが新井島は慣れたように体を横にそらし、ステップで後ろに下がる。
「なんだ?逃げてんのか?」
「…………」
「……
合図とともに三郎が一朗の近くに移動する。
三郎は能力で一朗の体に
纏われた炎は熱を上げられたことにより、勢いを増す。
「さっきの拳はちょっと試しただけだ。今度は本気でぶん殴る!!」
一朗の
炎の熱を両足の
それによって推進力が発生し、一朗は物凄いスピードで滑るように移動する。
一瞬にして、新井島の懐に潜り込む。
「くそがっ!」
新井島は自前の運動神経により、逃げることに成功……はしなかった。
新井島の足に炎の
「ナイスだ!
「オッケー!」
炎の
炎の
一朗はもう一度スライド移動をし、最後の一撃をお見舞いする。
「これで……終わりだーっ!!!」
「……あ……」
新井島の腹に一朗の拳はクリーンヒットした。
一朗の
「よっしゃー!俺らの勝利!」
「一朗!」
「ナ……ス!!」
霧智も思わずグッとガッツポーズをする。
まさか勝てるとは思っていなかった。
新井島が
いやあれは山田達の功績だと霧智は納得することにした。
「くくくっ……痛えじゃねえか……」
「あん?……まじか」
驚くべき光景だった。
あれほどの速さで放たれた拳は想像以上にダメージが大きいはずだ。
普通なら起き上がれるほどの痛みでは無いはず。
「最後の一撃は良かったなー。まあ
「チッ!」
一朗は再度、次こそノックアウトする勢いで能力を発動し殴りかかる。
その拳は受け止められた。新井島が
その板状の物体は
その物体はいとも簡単に一朗の拳を止めた。
衝撃が伝わっているはずなのに、ヒビも入っていない。
「これが俺の能力だ……。
「……!」
新井島はもう一つ板状の物体を出現させ、一朗に襲いかからせる。
一朗は急ぎ能力を使い、後ろに避難する。
物体の攻撃は当たらなかったが、
その瞬間、
足の炎が消えた事により、急ブレーキがかかってしまい、一朗は派手に転ぶ。
「能力が
「ああ、そうだ。この物体が能力作用物に触れるとよ、
新井島はその物体を
一朗は能力で受けようとするが意味がない。何も出来ず盛大に吹き飛ぶ。
それを眺める次郎と三郎が何もするわけがない。
「三郎!」
「お……!」
次郎は一朗のほんの
三郎が「炎の熱を操作する」能力でその火種を炎に変える。
次郎はその炎を点状に集め、三郎に更に熱を上げてもらう。
それで出来たのは一種のレーザー光線のようなもの。
それを新井島に向けて
「食らえや!!」
「無駄なのによ!!」
一瞬にしてその光線を物体で防ぎ、次郎と三郎を迎撃する。
この二人は戦闘向きの能力ではない。
一朗同様防ぐことが出来ず、物体によって上から押さえつけられる。
「ガッ……!」
「…………!!!」
「次郎!!三郎!!」
「ははははッ!兄弟愛か?泣けるねえ!」
それを見て怒らないわけがない。
何も考えず、怒りをただ鎮めるために拳を振るう。
そんな中でも一朗は工夫した。
能力が防がれるのならば、
「考えたもんだな……。意味なんかねえけど」
「まじかよ……」
物体は能力以外にも人間の拳くらいなら軽く受け止められる耐久を持っていた。
一朗の腕の骨に衝撃が伝わってくる。新井島は能力を使わず腹を殴る。
それに追い打ちをかける様に蹴りを二発くらわす。
「ゲホッ!グハッ……!!」
「どうだ?痛いか!?弱いやつが強いやつなんかに挑むからだぜ!!」
「新井島君!!」
霧智は大きく声を荒げる。勝負はすでに着いた。正真正銘山田達の負けだ。
今新井島がしていることはオーバーキル。死体で弄んでるのとそう変わらない。
「見れば分かるでしょ!!あなたの勝ちよ!!だから……もうやめて……」
「何を馬鹿なことを言ってんだ?これは!勝者の特権だよ!!」
「は?」
「負けたやつは地面を舐めて強者を見上げる!!勝ったやつは負けたやつを好き勝手出来る!それがこの勝負だ!!それに勝負を仕掛けたのはそっちだ……。悪いのはそっちだ。お前らにいいことわざを教えてやる。自業自得だ」
それを言いながら一朗に蹴り続ける。その姿はとても痛ましかった。
普通の高校生がやる所業には見えない。霧智は身を乗り出そうとする。
能力に必要な種も何もない。でもこれ以上見てるわけにはいかない。
「ゴホッ……!」
一朗はベチャッとフィールドに血を吐く。
それだけで一朗がどれほどダメージを受けてるか分かる。
すると新井島は攻撃をやめる。
「少し趣向を変えよう。……くく、知ってたか?人間は自分の大切なものを傷つけられると悲しんだり、怒ったりするんだぜ。だから……今からあそこの次郎?三郎?を痛めつける。家族を目の前でボコボコにされるのは……ほんっっっっっっっっっと悔しいよな!!!」
「やめ……ろ」
「残念ながらやめれませーーん」
次の矛先は今もなお物体押さえつけられている次郎と三郎になった。
このことで一朗が怒らないわけがない。
一朗は自分の残り少ない体力を使い、起き上がろうとするが、すぐに阻止される。
次郎三郎同様、新井島によって生み出された物体に押さえつけられる。
その時だった。選手の入場口から一人の生徒が走ってくる。
霧智には見覚えがある。いや見覚えしか無い。
彼、
新井島もその人物に気づいたようでニッと笑い、皮肉が効いた言葉を言う
「おいおいこんな所に何のようだ?臆病者」
「……なあに少しトイレに遅れただけだ」
「委……員長」
「ゴメンな、一朗。遅れちゃって」
一朗の目に希望が映り出す。赫賀谷は腕を構え、新井島に向けて言う。
「何ボサッとしてんだ?さっさとかかってこいよ!バ〜カ!」
「……はっ!ぶっ殺してやる!!」
二人の拳がぶつかる。
俺と
手に衝撃が走るが、そんな事気にしてる暇なんか俺にはない。
俺は一度後ろに下がり、体制を図る。
相手の能力も何もわからない今、無闇に手を出すのは良くない。
俺は
物体。それだけ。あの物体に何かしらの能力があるのだろうか?まじで分からねえ。その物体は俺に一直線で向かってくる。
……とりあえず
俺は掌を出し、ASRを展開する。俺の頭の中ではまずあの物体をキャッチ。
そのまま
予定通り
「ほわっ?」
だが一瞬で俺のアイデアはぶっ壊れる。
展開したはずの
時間が経てば
今回は俺の体内に
つまり……能力がなかったことにされた?解除された?気のせいの場合もある。
分からない。データが足りない。
俺は
避けたはずの物体はすぐさまこちらに向かってくる。
勢いのまま後ろに飛んでいくのかと思っていたが、結構細かく動かせるらしい。
俺は走ってそれを避けてを繰り返す。……このままじゃ
「
「……!」
「ふん」
能力解除……。あの物体は能力を解除させるのか!あくまで解除。
能力をなかったコトにするわけじゃない。
だから俺の中に
………………いや待てよ。
「それだと……俺……負け確じゃね?」
よく考えろ、俺
物体を受け止められないよ?打開できる能力なんて無いよ?
頑張ればあいつに近づけるかも知れないけど、あの物体結構速い。
殴ってたりで止まったら、あの物体がこちらに襲いかかるぞ。
しかも俺の体力は無限じゃない。いつかは走れなくなる。……無理じゃね?
勝てない。こんなのあいつとっちゃ作業ゲーだ。俺がどれだけ早く倒れるか。
もしかするとあいつが
この調子だったら俺が倒れるほうが先だ!クソクソクソクソ!!何か……何か……。考えてる時間も無限にあるわけじゃない。その間もずっと攻撃を受け続けていた。
ドンッ!足元のなにかにぶつかって、転びそうになる。
足元には
ここに俺は誘導されていた?この状況正しくピンチだ。
後ろからも物体が追ってきている。体制が崩れた今俺はアレを避けれるか?
不可能に近い。踏み込むと同時にあの物体に当たる。しかも場所が場所だ。
ここでやられれば、追い打ちで場外になる。これは一応アビマだ。
ルールのない喧嘩じゃない。あいつはどう思ってるか知らないが……。
(ヒントをやろうか?)
(ちょっと黙っててくれ!今……)
(今日の四時間目の授業だ)
(!!!)
『……
そうだ、四時間目!化学の授業で
ASRを血液に紛れ込ませ足に溜める。イメージしろ。イメージ。
目を
物体が俺に触れる寸前、勢いよく足を踏み出す。流石に驚いた。
思わず体がスピードに反応できず、今度こそ転ぶかと思った。
「まじかよ……!」
「何しやがった?」
「気になるか?雑魚の姑息な手段が?」
「ほざけっ!!」
一気に二つの物体が俺を襲う。
体全体に
二つの物体を
所々にフェイントを入れ、細かい動きをさせない。
さっきとはまるでスピードが違う。
俺は速やかに
新井島もここでは能力は無意味だと分かったのだろう。
能力を解除し、こちらの事を拳で待ち受ける。相手からの先制。
背の高い新井島は俺の頭に向かって蹴りを入れる。
俺はそれを左腕で受け止め右手で返す。よろけた隙きを見逃さない。
右手の甲で相手の
新井島はヨロヨロしながら後ろに後退りする。流石に肘打ちが効いたらしい。
「……お前よく動けるじゃねえか。喧嘩慣れしてんのか?」
「いや俺も驚いてる」
事実驚いていた。まさか自分がここまで殴り合いの才能があったのかと。
格闘術とかも習ってないのにアレだぜ?俺って天才かも。さて、どうしたものか?
このまま能力を使われるのは面倒くさい。ここで場外されてもらったほうがいい。
俺は歩み寄る。俺ならこいつに勝てる。オリジナルに勝てる。そう思った。
「……さっさと俺の事をぶっ飛ばさないからこうなるんだぜ!!」
「やっべ……!」
その二つが至近距離で俺に向かってくる。一度後ろに避けるか?
いやそうすると新井島の能力が万全になる。
せっかく出来たチャンスを見す見す逃がすことになる。ならこのまま突っ込むか?
物体が迫ってくる。当たってダメージを負えば……。
「ははははははっ……」
(はははははっ!!)
思わず笑ってしまった。まさかこんな事を考えるとは……。そうだよ。
ダメージを負うかも知れない。痛いかも知れない。
なら…………その痛みやダメージが低ければいいよな?
痛くても目標は目と鼻の先だ。痛みが続いた所で関係ない。
自分が傷つこうと関係ない。目の前のチャンスはどんな事をしてでも掴むもんだろ?
「俺」
(お前)
満面の笑みで突っ込む。
「(イカれてんな!!)」
お互いがよほどのスピードを持っている。この物体にぶつかったら……。
俺は物体の合間に滑り込むように入る。もちろん当たらないわけがない。
左肩・右脇腹。激痛が走る。ズキズキと痛みが残る。左肩はもう上がらない。
脇腹も抱える暇すら無い。でも何故か笑っている。
何故だ?分からないが…………楽しいからいいか!!!
俺は右拳に力を溜める。精一杯の
「……イカれ野郎!!!」
「はははははっっっっはははは!!!」
右拳は吸い込むように
同時に俺の腹にも何かがすごい勢いで当たる。
「な……三つ目?」
「……残念だったな!」
俺は膝から崩れ落ちる。嘘だろ?負けた。相手はまだ立っている。
ふざけんな。クソクソクソクソクソクソクソ!!!!!なんで?ここまできたのに?ナ・ン・デ・マ・ケ・タ?
俺は上を見上げる。
「ははっ」
「いつまで笑ってんだ?気持ち悪い」
「勘違いしてるんじゃねえか?
「あん?」
「この勝負は俺とお前の戦いだったか?」
「実際そうだろう」
「違うなー。
「な……」
見上げた時、あいつが立ち上がったのが目に見えた。俺個人では負けた。
でも
俺は
目をそっと
負傷者:
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