第六話 逃走
そんなこんなで俺は何故か
もう一度言おう。
この平和を愛する清らかな青年がアビマに参加する。うん、おかしい!!
「アビマは今日の放課後だ。逃げんじゃねえぞ」
「そっちこそな」
マジであいつは何のために食堂に来たんだ?問題を起こすために食堂に来たのかな?意味分からんな。俺は
「てことでよろしくな!!」
「よろしく!」
「よ……く!」
「ああ!よろしく!……って言うと思った?」
「言わないの?」
「言わない……よ?」
突然ひょこっと
反応しているという事は一通り話の内容を知っているのだろう。
「いたのか
「後ろからひっそり後ろをついてたの。
「……すいませんでした」
「そんな事より……」
その顔は呆れているようにも見えた。
「あなた達は相手が誰か分かって喧嘩を売ったの?」
「「「???」」」
「はぁ……」
「ええー……」
まさか知らないとは思ってなかった。
知っててなおやってるのかと思ったが、全くそんな事頭に入ってなかったのか。
「相手は新宮町一の不良よ。そんな彼にあなた達は喧嘩を売ったの」
「いやいや大丈夫だろ!!俺だって中学じゃ
「僕達なら出来るって!数の利もあるし!」
「だ…………ぶ!」
「何も大丈夫なのでは無いのだけれど……」
相手はほぼ確実に喧嘩が強い。
町一番なら数人相手でも軽く締めれるだろうし、この学校に来たってことは相手はもちろん能力者だ。
アビマじゃ普通に能力を使うことが出来る。新井島の能力がオリジナルかベーシックなのかも分からず戦うのは負けに行ってるに等しい。
正直に行って
「俺たちゃオリジナルだぜ!!なあに心配はいらねえよ!」
「僕達は絶対勝つ!!」
「そ……だ!」
「赫賀谷君も参加するんでしょ?それなら勝ち目があるかも……」
「ちょっと待ってくれ」
俺は自然と会話の間に入る。ここで止めなきゃ俺の意見を伝えることは出来ない。
俺は真剣な面持ちで自身の気持ちを語る。
「なんで俺がアビマを参加する流れになっているんだ?悪いけど俺は参加しないぞ」
「いや……ほらあの」
「俺は思うんだ。別に俺なんかいなくてもいいんじゃないかって。俺がいなくてもそっちには三人いる。しかも全員オリジナルだ。善戦とまでは行かないが勝てないとも言い切れない。その中に俺がいたって足手まといでしかない」
「そんな事ないわよ。あなたは彼の拳を止めていたじゃない」
「何度も言うがあれは偶然、まぐれ、奇跡だ。同じことが二回も続く保証もないし、起きた所で何も出来ないさ」
俺は
「だからすまん。俺はアビマには出来ない」
「待っ……」
待たない。俺は
本当にこれは正しかったのか?…………いや正しいはずだ。
このままアビマに入った所で足手まといになるだけ。
あいつらの事を考えた
(あれがお前の
頭の中に声が聞こえる。もう驚きはしない。もう日常の一部だ。
(ああそうだ)
(よくそんな見え透いた嘘をつけるな。何が
(…………)
(さっきのはお前の本音ではない。自身を肯定するためのホラだ)
(…………)
お前に俺の何が分かるんだ?と言い返せばよかった。
でも何故だろう。言い返せなかった。図星を突かれた?
さっきのは俺の本心ではなかった?胸がムズムズする。気持ち悪い。
「ちょっと待って!」
後ろから声を掛けられる。相手は
俺は後ろを向かず、前を歩き続ける。
「……何だ?」
「あなたも分かってるでしょ。あのままじゃ
「いやあいつらなら勝てる。
「……そうは思わないわ。彼らは喧嘩慣れしてると言っているけれど相手は格上よ」
「だから……?」
「あなたの力を貸してほしい」
俺は
先程あんな事を言って、自分がいなくても大丈夫だと主張をした。
でも
客観的・合理的に見て、
最後の頼みの
……なるほど、これが……俺の……本音。
今俺は理解した。自分自身の本当の気持ちに。
案外あの声は的を射た事を言っているのかも知れない。
「嫌だ。俺はアビマに出たくない」
「えっ?」
「俺はどこにでもいる普通のボッチ高校生だぞ。そんなやつに町で一番の不良に戦えと?」
「…………」
「……さっきも言った通り、俺は普通の高校生だ。普通の高校生は不良が怖いんだよ。関わりたくもない。喧嘩もやったことない。俺はベーシックだ。アビマに出た所で相手にボコボコになる未来しか見えない」
「そんな事……!」
「ないか?いやあるだろ。
「え……」
「それに思うんだ。これってさ結局あいつらの問題だよな?俺は別に関わる必要なんて無いんじゃないのか?」
「今から酷いと重々承知した上で言うぞ………………。
俺は後ろをチラッと見る。
俺は立ち止まらない。そのまま教室に向かった。
後ろから俺を追いかける靴の音は聞こえない。
廊下に響くのは俺の靴の音だけだった。
(それがお前の本音なのか?)
(きっと……そうだ)
(……我からのアドバイスだ。少しは自分に自信を持て)
「何言って……」
その頃にはもう声は聞こえなくなった。
教室に着くと、先程
俺はその中を通り、自身の席に座る。町待った弁当だ。
弁当と言ってもそこまで手の込んだ物ではない。昨日の残り物を詰めただけの物だ。俺は皆より少し遅れていただきますをする。一口パクリ。
冷めているが特に気にする物でもない。味も昨日と同じだ。
でもなんだ少し苦い。黙々と食事をしていると……。
「今は一人でご飯?」
「えっ、ひゃい」
横から歩いてきたのは皆さんご存知の美少女・
突然すぎるのもあって、変な声が出てしまった。
「あはは!変な声!」
「ゴホン……で、どのような要件で?」
「えっと、それは……」
なにやら歯切れが悪い。何か言いにくいことなのだろうか?
これはさり気なくフォローするべき!
「言いにくいなら言わなくてもいいぞ」
「いや、そういうのじゃないんだけど、ほら、さっきの」
「さっきの?」
「私のことを助けてくれたやつ。本当にありがとう!!」
「ど、どういたしまして」
こういう場面は
思わずどういたしましてなんて……うん言葉選び苦手か!?
「いや〜さっきの
「……あ」
「どうしたの?」
「いやなんでもない……」
主に男子から。
美少女に言われたいランキング余裕で十位以内に入る言葉を言われたのだ。
そりゃ人を殺したくなるよな。
「そうだ!丁度私もお昼まだだったし、一緒に食べない?」
「ゴホッゴホッ!!」
「大丈夫!?」
「オールオッケー」
「声小さいよ!?」
まさかこうなるか普通!?なろう系主人公みたいになってんじゃん!
俺みたいな最低クソボッチに美少女がお昼を誘ってきた?
ははははっ!わりぃー!俺死んだ!
俺はヒョンとしたことから野見中と昼食を食べることになった。
息が苦しい。周りの圧に押しつぶされそうだ。
「さっきの件でお昼が遅くなっちゃってさ」
「そうなのか……まあ大変だったよな」
「ホントホント!まさか、ああなるなんて!」
「……そうだな」
「……………………何かあったの?」
「え?」
「なんていうかこの前みたいに元気がないからさ」
どうやら露骨に態度に出てしまっていたようだ。見せびらかしてるみたいで嫌だな。俺は少し崩して話す。
「ちょっと喧嘩みたいなことをしちゃってよ。その時に自分自身が
自分で話してると、なんというか恥ずかしくなってくる。自分のやったことにまだ自身が持ててないのだろう。
「んー……むずかしいねー」
「ああ、デリケートな問題だ。だから……」
「シー」
「!」
だが可愛げの中に真剣さが見えた。この人は本気で考えてくれている。
「そうだねー。
「…………まあな」
「じゃあ、
「いやそうでもなくて……」
「多分だけどね、その出来事は相手も悪いし君も悪い。お互いの意見がぶつかり合ってるんだと思う。でも君は自分の意見を貫き通した。その事に疑問を抱いてるんだよね?」
「ああ」
「
「……!」
俺は自分自身の本音の本音が見えてなかった。
自分でも自分の気持ちが見えてなかったんだ。
「
「俺は……相手の事なんかどうでも良くて、勝手にやってれば良くて……」
「いや
「俺は……嘘をついてた?自分の気持ちに?」
「うん。
「……なんでそれを」
「女の勘ってやつかな?」
きっと教室にいなかったやつが俺らぐらいしかいなかったから把握できたのだろう。人気者だけあって、周りを見ている。
「だから私が
この瞬間、俺の心にかかっていた霧が一気に晴れた。
俺は自信が無いから、あいつらを見捨てた。
自分の力は自分が一番知ってる。
それも
でもそれを理由に逃げていただけなんだ。
本当は山田達のアビマに参加して負けるのを止めたい。
あいつらがボロボロになる姿は見たくない。
……なんでこんな簡単なことにも気づかないんだろうか。
キーンコーンカーンコーン
「あちゃあ、結局ご飯食べれなかったー」
「あの、本当にありがとう」
「いいよ、これでさっきの借りは返せたし!」
(あの小娘も何やら抱えてるらしいな)
(何のことだ?)
(そんな事よりお前は行くのか?)
(もちろんだ。俺は
(お前のような
(…………)
(図星か。……いいか。お前は助けれなかった。たとえどんな手段を用いようと助けれなかっただろう。だからお前は自信を失った。自分に人助けは無理だと。でも今回は違う。お前の手の届く範囲に助けられる人間がいるんだ。それを手放してどうするつもりだ?)
(俺は……)
(お前はいつまで
ガララッ
前の扉が開く。五時間目のスタートだ。
そして放課後
授業は耳から耳へと通り過ぎていって、記憶に残ってない。
今は放課後から少し経った教室の中。きっとアビマは始まっているだろう。
俺はまだ考えていた。自分の
俺は出来るのか?勝てるのか?頭の中にいくつもの邪念がまとわりつく。
どんどん積もっていく。
俺は深呼吸をして、荷物を取り、ダッシュで校舎を
もう!考えなくて良い!考えなくていい。邪念?うるせえ!自信が何だ?
負けるとか勝つとか関係ない!
俺は
俺はスタジアムの前に着く。ギギギとスタジアムの重い扉を開く。
前の方に光が見える。俺は荷物を放り投げ、その光に向かって走った。
フィールドに着くと、そこには
「おいおい、こんな所に何のようだ?
「……なあに少しトイレが長引いただけだ」
「委員……長」
「ゴメンな、一朗。遅れちゃって」
俺は腕を構え、
「何ぼさっとしてんだ?さっさとかかってこいよ!バーカ」
「……はっ!ぜってえ殺す!!」
二人の拳がぶつかる。
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