第五話 臆病者

何故だ。何故俺がこんな目に合っているだ。

俺はただ委員長として当たり前の事をしただけだぞ。

こんなの委員長がやるべきじゃないでしょ!!

「かかってこいよ!お前達、すぐに片付けられるってことを体に覚えさせてやんよ!!」

「いいぜ……!上等だ!!ゴラ!!」

「僕達に喧嘩を売ったこと、後悔させてやる!!」

「そ……だ!そ……だ!」

「……お、おー……」

「「「「アビマで勝負だ!!」」」」

何故俺がこの四人の中に入っているんだ!!

何故俺がアビマをやる事になっているんだ!!

(はははっ!!面白くなってきたな!!)

(どこが!?)

……事は数十分前に遡る。





















「……では今回は前回やったASRについて復習しましょうか」

四時間目・化学

俺は黒板に板書している物をノートに移しながら、先生の授業を聞く。

では早速だが今教鞭きょうべんをとっている先生について紹介しようと思う。先生の名は三谷島智識みやじまちしき

科目は前に書いた通り化学・物理といった理科の科目を取り扱っている。

三谷島先生は能力研究の第一人者であるらしく、時々アメリカとかに行って研究の手伝いとかもしてるんだとか。

授業の合間合間に少し専門的ではあるが、豆知識的なことをボソッと言うことがある。まあ、理解は出来ないんだけどね。

「まずASRとは皆さんの頭から発せられている特殊電波であり、能力を使用する際に必要なのことです。人によってASRの量や質は違います。その量や質によっては精神干渉・身体干渉の影響を受けないとアメリカの論文に出ていましたね」

はい出ました。三谷島みやじま先生の豆知識。論文とか一概の高校生なんて読まないから、知識が増えて嬉しいね!小難しい話は理解できないけどね!!

「これはヨーロッパの方で見つかった物なんですが、ASRはエネルギーであるから酸素と同じ体の燃料として量によっては身体干渉の能力よりも身体を強化することが出来るとのこと。まあここらへんはテスト範囲でも無いので」

(何を当たり前のことを言っているのだ?このチビは)

(タイミングが悪いわ!!授業中に喋るんじゃねえよ!)

ちなみに声は健在している。授業中・飯を食っている最中だろうと話しかけてくる。本当に心臓に悪いし、うるさい。

(当たり前ってなんだよ。お前は知ってるのかよ)

(普通は子供の頃に遊び感覚でやるものだろ?)

(ASRで身体強化を遊び感覚で!?お前大丈夫か?いや俺大丈夫か!?)

この声は自分の想像上のものだと認識しているのだが、このように時々俺が思ってもないような事を発言してくる。

まあ、これも後少しの辛抱だ。今週末というか明後日には精神科に行く予定だ。

なのでこの声との生活もあと二日間程度!勝った!第三部完!!

(無駄なことを……)

(人の思考を読むのをやめようか)

二日間だけでも相当長いと思ってしまう。

でも急に頭の中が静かになっても、それはそれで違和感があるのでは?

いや、ないな。

「で、ここはこのような理由があり……」

三谷島みやじま先生の言葉で現実に帰る。

そうだそうだ、授業はちゃんと聞かなければ。俺はまたノートに書き込みを始める。すると……ガララッ!と後ろの扉が開く。

せっかく授業に集中しようとしていた矢先に邪魔が入る。

うんうん、とりあえず皆も後ろを向いてることだし後ろを見るか。

後ろということは先生とかでは無いのか?そこには大柄な生徒がいた。

大柄というか体格が良いと言うべきか。目つきも悪く常に上から目線。

その生徒は生徒全員(先生も含める)から見られてるのが気にさわったのか、軽くチッと舌打ちをして、俺の列の一番後ろに座る。

そういえば後ろの席は入学式以降、ずっと空いてたような……。

新井島あらいじま君!あなた今まで何してたんです!?」

「……チッ。お前には関係ないだろ」

「関係あります!この一週間程度だったんですから!」

「うっせえな……。関係ねえって言ってんだろ!!チビ!」

「チビ……!」

三谷島みやじま先生は床に手を付き、明らかに落ち込んでいた。

理由を教えよう。

三谷島みやじま先生は……本当に簡単に言ってしまえばチビなのだ。

身長は約140cm程度。黒板に板書している時には土台を置いてやっている。

ほんの前に生徒が三谷島みやじま先生に向かって「背小さいですねw」と言ったら、今のように落ち込んでしまった。

最終的には生徒が謝り、クラスではその事に触れるのはタブーとなった。

白衣などを着ているからか、外では流石に子供に間違えられないらしい。

相当なコンプレックスなんだろう。

キーンコーンカーンコーン

「……それでは授業はここまで……。新井島あらいじま君はこの後職員室に着なさい……」

「誰か行くかよ。チビ」

「グハッ……!」

三谷島みやじま先生は見えない言葉の刃にズカズカと刺されている。

可哀想すぎるだろ。

その状態で三谷島みやじま先生は自分の席の前にやってくる。

「……あの様子なので委員長である君にお願いしたいのですけれど……」

「はい……分かりました」

三谷島みやじま先生はトボトボと教室を出ていった。

できればあんな不良むき出しの男と関わりたくないのだが、今回ばかりは素直に仕事を受け取った。不憫ふびんだから。

俺は鞄から自身の弁当を取り出す。仕事は飯を食ってからでもいいだろう。

登校初日(入学式を除く)に問題なんて起こさないだろうし……。

「さっきのはどうなの!流石にダメだと思わなかったわけ?」

「あん?んだよ、お前」

後ろが何やら騒がしい。この声は霧智きりさと

俺は後ろを振り向く。

机に足を置く新井島あらいじま霧智きりさとが向かい合っていた。

クラス全員が呆気あっけにとられている。

霧智慈きりさとめぐみ。このクラスの学級委員よ。で、さっきのはどうなの?先生に対して「チビ」なんて暴言を吐くなんて」

「事実を言ったまでだろ。それに委員長様に関係なんて無いだろうに」

「あるわよ。私達に授業を教えてくれる先生なのだから」

「……うぜぇんだよ。クソ委員長。俺は女でも殴れるぞ」

「やってみなさいよ」

新井島あらいじまは立ち上がる。

明らかに霧智きりさとの事を殴るつもりだ。

それでも霧智きりさとりんとして新井島あらいじまの前に立っている。

俺は立ち上がり二人を止めようとする。

……立ち上がる。……立ち上がる?立ち上がらない。俺はまだ座っていた。


助けなくてもいいんじゃないか?周りには人もいる。いやいやダメだ。

俺が止めに行かなきゃ。俺は学級委員だぞ。

学級委員だから行かなきゃいけない理由は何だ?

そもそもあんなのあの奈加河クズが決めたことだろ。行かなきゃ……。

行った所で何が出来る?行かなきゃ……。

ただ殴られるだけだぞ。行かな……。

痛いのは嫌だよな?行か……。

行かなくても……。行かなくてもいい?



は?は?何いってんだ?俺。行くだろ。行かなきゃいけないだろ。

なのに……なんで体が動かないんだ?

臆病者おくびょうものだな)

(今は黙っていてくれないか?)

(じ……)

(黙・っ・て・ろ)

俺が考えている間、もう殴りそうになっている新井島あらいじま

それをなんとも思ってない霧智きりさと

それを傍観ぼうかんする臆病者おくびょうもの

それをかんがみてか、間に人が入った。

「ねえ新井島あらいじま君。流石にやめようよ」

野見中のみなかが止めようとしている。

だが、あんな華奢きゃしゃな女子が止められるとは到底思えない。

「邪魔だぞ?」

「邪魔してるからね」

新井島あらいじまは腕を振りかざす。野見中のみなかは思わず目をつむる。

「あん?」

「……」

バシッ!

気づいた時には俺は新井島あらいじまの拳を掌で止めていた。

てのひらには殴られていた衝撃が残っている。

俺はそのまま拳を包み込み、後ろに押し込む。

新井島あらいじまは思わずよろける。

「……殴るのはやめようぜ」

「……チッ」

俺はそう言うとチラッと新井島でも分かるように目を逸らす。

なんと周りの男子に女子が新井島に向けて殺気を放っていた。

このまま野見中のみなかを殴っていたら、あらゆる方向からボコボコになっていただろう。

新井島あらいじまは俺の手を弾き、教室を出ていった。

「大丈夫か!!野見中のみなかちゃん!!」「怪我してない?」「良かった!!!」

野見中にはたくさんの人がやって来て、心配されていた。

野見中もまさかここまで心配させるとは思わなかったのか、感謝と困惑を隠しきれていなかった。……俺への感謝とかはないのか?

まあ、さっきまであんな事考えていた人間には来ないか。

自分でも止めれるとは思わなかったし、動けるとは思わなかった。

俺は人混みから離れ、自分の席に座る。

この騒動でだいぶ時間が削がれたと思ったが、数分しか立っていなかった。

「流石ね。赫賀谷あかがや君」

「え?」

霧智きりさとが俺に話しかけてきた事に驚いた。

あの人混みの中に紛れていたと思ったからだ。

「流石って別に感覚というか、まさか止めに行けるとは思わなかったし」

「でも止めれたし、いいじゃない」

霧智きりさとはさも俺の実力で止めれたと思っているようだ。

実際は違う。ただの偶然の産物だ。

「ていうかあんな不良と同じクラスだとはな」

「ええ、しかもだしね」

?」

「知らないの?ここら辺じゃ有名な不良よ。確か新宮町の不良全員を手駒にしてるんだっけ?」

「俺そんな奴の拳止めちゃったの!?」

俺は今自分の過ちに気づいてしまった。

別に野見中のみなか達を助けたことではない。

そんな不良の拳を止めてしまったのだ。

どうしよう、後日俺の家に不良がたくさん来たら……?うん!絶望!

「あっ」

「どうしたの?」

「そうだ、俺。あいつの事先生に頼まれたんだった……」

「……」

不幸に不幸が重なる。よりにもよって新井島あらいじまとまた会うの?

これから関わりなく過ごしたかったのに!くっだらね!何だよそれ!

俺は重たい体を立たせる。

「行くか……」

「どこに?」

「あいつの所。頼まれたからしゃーない」

「お弁当は食べないの?」

きっと机の上の弁当が目に入ったのだろう。答えはもう決まっている。

「殴られると思うから、吐かないために食べない」

「大丈夫でしょ。あなたなら」

「いやいやさっきのはマジで偶然!!一生に一度も無いくらいの偶然だから!」

「そ、そう。まあ一応私も一緒に行くわ」

「来なくていい。ていうか来るな」

「え、いや私も……」

「いいから来るな」

新井島からのヘイトが溜まってる二人が来たら即喧嘩案件だろ。

普通に俺一人で行ったほうがいい。

「じゃ、また」

「ええまた……」

霧智きりさとは少々納得行ってないようだが、俺はそんなこと気にしないで教室をでる。だが、すぐ問題にぶち当たる。

新井島あらいじまどこにいる?どこいるんだ?

この学校結構広いから、いちいち探してらんないぞ。一番は食堂だろう。

昼休みだし行く可能性がある。でもあいつ四時間目の終わりスレスレに来たからな。昼飯を食ってきたかも知れない。……いや待てよ。あいつ行方不明だったんだよな。ならそのままこの学校に来た可能性も……。

俺は考えるのをやめ、食堂に直行する。

とりあえず行ってみる。それでいなかったら時間いっぱいまで探す!

俺昼飯食えないけど(泣)。

(自分の力と言わないんだな)

(……偶然だからな)

(確かに動いたのはお前じゃないが、止めたのはお前の技量だぞ)

(何いってんだ?)

(……)

意味分からん声を聞きながら、俺は食堂に着く。「ふぅー」と俺は息をはく。

あいつに会うのが緊張してきた。

いるかどうか分からないが、ここでいて欲しくないと思う。

俺を恐る恐る食堂の中を観察する。










「お前らがぶつかってきたんだろ?」

「はぁ〜!お前の方だろうが!お前のせいで三郎の飯が台無しじゃねえか!」

「弁償しろよ!弁償!」

「め……が」

運が良いのか、悪いのか。新井島を見つけることはできた。

だがそれと同時に山田達との間に問題が発生してしまった。

一郎と新井島は今にでも喧嘩を始めてしまうのかというぐらい近づいている。

流石に俺が間に入らないといけないらしい。

「あー、とりあえず離れろ」

「てめえは……!」

「「委員長!」」

「い……ち……!」

「どうも。で、何があったんだ?」

「こいつがぶつかってきて、三郎の飯が……!」

床をみると確かにカレーの残骸が落ちている。

これは一郎と新井島の性格からして喧嘩に発展するのも納得がいく。

「そいつがチビなのが悪いんだろうが」

「何度もいわせんな!お前がわざとぶつかってきたんだろ!」

「ならその頭に直接教えてやらねえとな」

「あん!?……丁度いい。お前アビマは知ってるよな?」

「確かに丁度いいな。いいぜ、かかってこいよ!お前達、すぐに片付けてやる!」

ん?四人?

「いいぜ……!上等だ!!ゴラ!!」

「僕達に喧嘩を売ったこと、後悔させてやる!!」

「そ……だ!そ……だ!」

「「「「アビマで勝負だ!!」」」」

え?もしかして俺も入ってる!?嘘だろ!?

(はははっ!!面白くなってきたな!!)

(どこが!?)


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