第四話 試合
ゴングが鳴り、動いたのは
一方
「何だ?逃げてんのか?」
「お前の戦い方は分かってんだよ。態度の割に
「格闘術って言ってくんないか。俺の評判が下がるだろ」
「
それからワンテンポ遅れてスタジアム全体に大きな音がなる。
俺も思わず耳を塞いだ。
「それが効かないのは前回で学んだろ。忘れたのか?この単細胞」
「前回は舐めてお前にかかったけどよ。今回ばかりは最初から本気で行くぞ」
「
それを言い終わった瞬間、
音は
人の
音を一箇所に集めて人に当てれば、
前山先輩は見事着地に成功していた。
「おいおい俺を殺す気か?明らかに殺意のレベルが違うぞ。俺なんかしたか?」
「自分の胸に手を当ててみろ!!」
「何もわかんないや」
「じゃあ!!死ね!!」
ドゴンっっッっ!!!
恐らく音による爆撃が行われたのだろう。
フィールドは一応コンクリで出来ている。
コンクリが
それから立て続けに爆撃が行われる。
それをスイスイと避けていく
すると、攻撃は一段落終えた。
「……避けるばっかで全然攻めてこないな」
「いやいや今からやるとこだったんだよ。
「?」
「
「は?」
「俺の能力は認識変化。お前はまだ勝機はこちらにあると認識が変わってるかも知れないぜ。本当はとっくの前に場外してるのに。それにそれに本当に俺はここにいるのか?本当は外で寛いでるかも知れない」
「そんな訳無いだろ!!」
「根拠は?」
「…………」
「ないだろ」
「
「俺は負けてない」
「その根拠は?って聞いてんだよ」
「お前の能力のデメリットは知ってるぜ。相手がその認識を信じなきゃいけないんだろ?」
「…………」
「なら試してみるだけだ!」
「……どういうことだ?」
「そのままの意味だ」
「どうするってんだ?」
「単純な疑問。
「試す方法はただ一つ!!お前を殴りゃあいいよな!!」
だが、お互い相手の拳を避けた。
「チッ、避けんな!」
「避けなきゃ危ないでしょ!!あなたその拳に何仕込んだの!?」
「音を拳一帯で振動させてた」
「危ねえよ!そんな拳、人に向けんな!」
音を振動させ続けた拳なら鉄板なんてボコボコになるだろう。それを人の頭に……。放送できないPart2。
その後も防戦一帯の殴り合いが行われた。
「これじゃあ終わんねえぞ」
「うるせえ!オラっっっ!」
「そんな見え見えの攻撃に当たるわけっ……」
「バーカ。フェイクに決まってんだろ!!」
「まじかっ……!」
そうさっきの殴りはフェイク。
本命は足、
「まだ……!」
「気づいてないの?」
「!!!」
ここから復帰しでもすぐに場外になってしまう位置に居た。
いや、誘導されていたのだろう。
「これで終わりだっっッ!!」
結果は誰が見ても同じ場外だ。
ワーーーーっと最初の方で
「ねえ見て!!勝ったよ!
「はい!!すごいです」
「ものすごく!」
「や……い……ら……!」
隣では
その隣では
『き、決まったーーー!』
実況席も騒がしい、試合に集中していてロクに実況を聞いていなかった。
この戦いは素人から見てもすごかった。思わず息も忘れてみていただろう。多分!!フィールドでは
「ほら!さっさと手を出せ!」
「…………」
俺には分からないが、最強のプライドみたいなのがあるのだろう。
手を出すことがプライドを許さないみたいな。
『
実況が喋りだした。そうそう〜による場外なんだよなー。
『……一発K.O.だーーー!』
「「「「「「「「「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」」」」」」」」
一発K.O.?違うだろう!実況者の目は節穴か!どう見たって……
「
「能力ブッパの押し出しだろ!」
「殴り合いの末、倒れただけでしょ!」
「こ…………ん…………で!(解析不能)」
「能力と格闘術を混ぜた
………………………………………………………………………………………………
「「「「え?」」」」
お互いに目を合わせる。どうやら冗談とかではないようだ。
お互いがお互いの負け方があるって事!?そんなことあるか?
それじゃまるで
「ふっははあああっははは!!……もうそろそろ種明かしだな」
「何を……っ!」
瞬間、何かが変わった。俺は真っ先にフィールドの方を向く。いない。いないんだ。俺が見た場所に。
他にも
当人も困惑しているようだった。
「はい、これで本当の終わりだ」
前山先輩は
スタジアムは
「何が……起こって…………」
「そりゃ驚くだろう。いつもは対戦相手にだけ能力を使ってたが、
「…………」
またしても凍るスタジアム。
それは
各能力には能力が使用できる射程距離というものが存在する。
俺の場合、
すぐ近くの物を動かすのが手一杯だ。
その距離は能力の中でも広い方だ。
「俺はここにいる全員に
「………………いやおかしい!それだと矛盾が絶対起こるはず!」
「ああ、もしかして俺が「ここにいる
「……その様子だと何かしらの対策をしたんだな」
あくまで
そうすると
それでは自分の認識に違和感を覚える者が出て、能力が解除されてしまうのだ。
「なあに簡単だよ。今まで個別に変わってた認識を一つにまとめたのさ。確か……
「………………………………完敗だ。実況者、早く」
実況者は自分の仕事を忘れていたようだ。
マイクのスイッチを入れ、本当の結末を喋りだす。
『……失礼しました。このアビリティー・マッチ!!勝者は不動の王者・
うおおおおおと観客側も
「……大丈夫か?」
「何が起こったんだ?どういう状況だ?
「一郎、僕も分かんない」
「…………」
今回ばかりは理解できないのも無理はないと思う。難解というか少し複雑だ。
フィールドでは
「ほらさっさと手を出せ」
「…………もう一回だ!」
「あん?」
「もう一回だ!?もう一回勝負しろ!!」
「嫌だよ。もう分かっただろ。お前じゃ俺に勝てない」
「んだと!?」
「はいはい、早く手を出せ。少しぐらいは素直になったほうがいいぞ」
「……チッ」
立ち上がると二人はお互いの出口から出ていった。
周りの生徒はゾロゾロとその場を後にした。
「さっきの試合やばくね?」「まじやばい」みたいな会話が聞こえてくる。
人が少なくなった後、俺達はスタジアムの外に出た。外はもう夕暮れ時。
早く帰って飯作ったり、洗濯物畳んだりしなきゃな。
「やべー、まだ理解できねえ」
「
「も…………うよ」
さっきからずっと頭を使って考えてるようだが、進歩はなさそうだ。
「じゃあ俺達こっちだからまたな!」
「じゃ」
「さ…………ら!」
「え、ああ……」
「またね〜」
「…………」
「…………」
とてつもなく気まずい。なにか!なにか会話のネタ!なにかあるはず……!そうだ!さっきのアビマの感想とかがあるじゃないか。
それがあれば分かれるまでの時間は埋まるはず!
「「あのさ!」」
俺達はほぼ同時に発言をしてしまった。
相手も何かしらの会話のネタを探していたのだろう。
要するに俺といると気まずいって事。こういう時は相手から言わせる。
それが礼儀だろう。知らんけど。
「そっちからどうぞ……」
「あ、え、いいの?えっとさ、スマホの連絡先教えてもらおうと思って……」
「…………」
「あれ?どこ向いてるの?おーい」
まさか……この俺が連絡先を?嘘だ。そんな訳ない。俺は思わず空を見上げる。
しかもかの美少女から?ははっは、俺明日死ぬのかな。
「……生まれてはじめてかも知れない。スマホに女子の連絡先があるのは」
「そこまで!?いやほら連絡先交換してなかったの、
「へーそうなんだー……」
言葉を裏返すと、この数日間の内に俺だけ連絡先交換してなかったのか。
地味に悲しいなー。忘れ去られたのだろうか。
「で、そっちが話したかったことって?」
「あー……」
ここでさっきのアビマについて話すのは気が引けた。そもそもだ。
そして負けたのも
人によってはただの嫌味と思われてしまう。
それで嫌われるのは
「あれ?俺何言おうとしてたんだっけ?連絡先貰った嬉しさで忘れちまった」
「あはははは!
キュン!
なるほど、顔も良けりゃ性格もよし。こりゃモテる訳だ。
近くにいるだけで幸せというか。そんな幸せの時間ももう終わってしまう。
校門まで着いた時、
「じゃあ、私こっちだから!また明日!」
「おう、じゃあな」
どうやら来るまでの送迎らしい。辺りにはもう生徒もいない。
俺はボチボチ歩きながら帰る。それにしてもあのアビマすごかったな。
そういうのに興味はなかったがいざ見てみると面白いものだ。
いやあの二人の試合だったから面白かったのか?
どちらにしても有意義な時間を過ごせたのだからいい。
(実につまらない戦いだったな)
(……あのね、人様に行かせといてそれは無くないですか!?見に行けって行ったら、今度はつまらなかった?ふざけんじゃねえぞ!)
(低レベルな戦いだったし、本来ならあの認識変換という物も食らうわけがないのだが)
(え?何の話?)
(わざと食らってあげたのだ。まあその方がお前にとっても面白いだろう。ただ空中を殴る
(話についていけないんだけど)
(何いずれ分かる)
本当にこの声にはうんざりする。新手の暴君か?もう嫌!こいつに振り回されるの!
(この話はさておいて、お前はあの小娘をどう思うんだ?)
(恋バナ?)
(…………)
(……別になんとも思わないよ。ただの可愛いクラスメートだ)
(恋愛感情には至らぬのだな)
(持ったとしても
話題変えるかと思ったら、
いや出来なかったというのが正しいだろうか。
なんせ友だちもできなかったし、中学ではクラスメートと喋った記憶もない。
そんなやつが恋愛なんて出来るだろうか。
(お前という男はよく分からんな。何故あの小娘をみて惚れないのだ?)
(それは個人の違いってやつじゃないの?)
(
(……俺は普通からは程遠いよ。明らかな
(ほう)
頭の中の声と喋ってるやつが普通なわけ無いだろ。……それ以前の問題なんだがな。そんなこんなで俺は帰路についた。少し急ぎ足で家に向かう。
帰ってからは色々とやることが多いからだ。
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