第三話 相変わらずの声

それから二日。俺は先生から押し付けられる仕事をこなしながら、学業に勤しんでいる。あれから謎の声は聞いてない。

まあ、別に聞こえない所でこちら側は問題ない。治って万々歳だ。

山田やまだ達とはあの後軽く話す程度には仲良くなった。

霧智きりさとも仕事終わりに昼飯を一緒に食べる仲までにはなった。

こういう関係はもう友だちといって良いのでは?これで俺はやっと脱ぼっち!

二話じゃ学校に行くこと自体が憂鬱だったが今で全くそんな事はない。

この高校生活に満足している。今日はもう授業も終わり帰りの用意をしている。

そういえば今日はなんだが静かだ。

普段なら生徒同士が教室で話とかをしているのに、人の数が異様に少ない。

廊下とかも見てみるとやはり人通りが少ない。

思い返してみれば昼休みに何やら他の生徒が放課後になにかやると言っていたような気がする。

俺は思い切って霧智きりさとに聞いてみる。

霧智きりさと。なんか今日人少なくね?」

「確か放課後にラージ・スタジアムで大掛かりなアビマをするらしいわよ」

「どういう事だ?」

「この学校にはアビマ部って言う部活があるの。

その部活が独自の大会を開いて、そこに観客とか実況を入れるの。今日のアビマは校内でNo.1とNo.2が対決するらしいから。ほとんどの人がラージ・スタジマムに行ってるわけ」

「へー」

アビマ部はアビマを一種のコンテンツみたいにしてるのか。

やってる方に何かしらの景品でもあるのだろうか?

見てる方も格闘番組を見てるみたいで楽しいのだろう。俺は全く興味ないのだが。

そもそもスポーツとかに全然興味がない。

ていうかその試合、明らかにNo.1が勝つんじゃないか?

なんでNo.1とNo.2で分けられてると思う?その間に明確な差があるからだって、とある一位が言ってたぞ。

「あなたも見に行くの?」

「いや、俺は……」

(行くぞ)

(!!?!?!?!?)

心臓が止まるかと思った。最近声を聞いてないから心の準備が出来ていなかった。

クソ!まだ治ってなかった!

(No.1とNo.2の戦い。つまり真の最強を決める戦い。人間のレベルがどのくらいがあるか、興味がある。さあ、行け!)

(…………)

これは俺の幻聴だよな?結構やばいやつ?末期?何人間って?

自分が人間じゃないと?いや、声だから人間じゃないか。

「大丈夫?またボーッとしてるけど」

「……うん。大丈夫」

全然大丈夫ではない。俺の中の幻聴が自身をエイリアンかなにかだと言っている。

(ほら行け人間。早く足を動かせ。お前が見ないと我が見れない)

一人称「我」!?やばいやばい。全然心当たりない!

「……じゃ、じゃあな!」

「えっ……ああまた」

俺は急いでその場を離れた。

これ以上いたら霧智きりさとに変人扱いされる。

……さて、どうしたものか。もうこのまま病院行ったほうが良いか?

(大丈夫だ人間。お前は正常だ)

この声を聞こえてる時点で正常ではない異常だ。

俺は昇降口から靴を履き替え外に出る。

(さあ早くするのだ人間)

(…………)

無視を決め込む。反応しちゃいけない。余計疲れてしまう。

(我はやろうと思えば、お前に痛みを与えることができる)

(……?)

大きな音が自身の体中を骨を伝って襲う。

「ぐっ…………!」

頭がカチ割れるほどの痛みが自身を襲った。

俺は咄嗟とっさに頭に手を当て、うずくまる。

声が出そうになるが必死にそれを抑え込む。

(向かわなければもう一度やるが?)

(行きます。許してください)

あれは一種の拷問ごうもんだ。まだ頭痛が残っている。

もう一度やられるのは流石にきつい。最悪脳震盪のうしんとうで死ぬ。

(そんな事を考えてる暇があるのか?)

俺は急ぎ足でラージ・スタジアムに向かう。

確かそこが今回の大会の会場だったはず。

声の指示に従うのは癪だが、もう一度あれをやられるのはゴメンだ。

俺は早速中に入る。中には多くの生徒がいた。

スタジアムには三つあり、一番小さいスモール・スタジアム。

中くらいのミディアム・スタジアム。

そしてここ一番大きいラージ・スタジアム。

ラージ・スタジアムに関しては

ちな、蒼橋良あおはしら高等学校の全校生徒は一クラス四〇人✕四クラス✕三学年なので四八〇人が中には入れることになる。

俺は試合を見やすい席を取りたいのだが、生憎ほどんどの生徒が前を取っている。

空いてるのは後ろの席。

もし見にくい席だったら、何かしらやられるかもしれない。

反対側の方も見るがもちろん空いていない。その時だった。思わぬ人物と出会った。

「あれ?赫賀谷あかがや?」

「山田……次郎じろう!」

「どうしたんだ?こんな所で?」

「……いい席がなくてだな」

「ああ、それなら僕達の所が一つ空いてるぜ」

次郎はそう言い、前の方を指差す。運はこの赫賀谷真空あかがやしんくうに味方してくれている!俺は次郎じろうに連れられ、その席に向かう。その時の次郎じろうは何故だが浮足立っていた。その訳は後で分かる

「よう、委員長!」

「よ……い………ち……う!」

「あれ?赫賀谷あかがやくん?」

その席にはもちろん一郎いちろう三郎さぶろうがいた。それともう一人。

「えっと、初めましてだよね。野見中紫織のみなかしおり、よろしくね!」

「あ、ああ」

まさかの野見中のみなかさんがいたのだ。

そりゃ次郎じろうも浮足立つわけだ。

隣の隣に学年一の美少女がいるんだもんな。

(俺→三郎さぶろう次郎じろう一郎いちろう野見中のみなかという順)

「あー、野見中のみなかも見に来てたのか?」

「うん。先輩が出場するから見に来いって」

「そういうことね」

赫賀谷あかがや君は?」

「俺は……」

バカ正直に「頭の中の声に言われて」なんて口が裂けても言えない。

さて、どう答えたものか。

「まあノリで」

「な、なるほど」

違和感も何もないパーフェクトな答えだ。

山田やまだ達はどうして見に来たんだ?」

会話を続けるために山田やまだ達にも話を振る。

「俺達もノリっちゃノリなんだよな〜」

一郎いちろうは格闘番組とか好きだもんな」

「お……し……そ……だ……ら!」

山田達もノリで来たらしい。大体の生徒がそうなのだろう。

面白そう・みんなが行くから行くみたいな。友達が出るとかもあるか。

「ねえねえ一郎いちろうくん。私さ、濃波こなみ先輩しか知らないんだけどさ。相手の前山まえやま先輩についてなにか知ってる?」

「も、もちろんッ!!!」

明らかに意識してることが分かる。ていうか全く知らない人の名前が出たな。

濃波こなみ前山まえやま?一体誰のことだ?

「なあ、その濃波こなみ先輩ってのは誰なんだ?」

濃波こなみ先輩はこの試合で言うNo.2の方。でも能力の方はすごいよ!

先輩の能力は「」能力。文字通り音を大きくしたり、小さくしたり、高くしたり、低くしたりの操作特化のオリジナルの能力。もちろん音を出さないといけないってデメリットもあるけど……でもでもすごいんだよ!すごいのはこれまでで負けたのは前山まえやま先輩だけなんだよね!」

野見中は事細かく説明してくれた。

その時の野見中のみなかは自身の推しを語る時のオタクみたいだなと俺は思った。

「で、もう一人の前山まえやま先輩?ってのは?」

「それはな……!」

山田の一郎いちろうは少し溜めてから説明し始める。

前山まえやま先輩はNo.1

「マジで言ってんの?」

「盛ってない?」

「盛っていません!!」

俺と野見中のみなか一郎いちろうに疑いの声を上げるが、一郎いちろうの様子を見るに事実なのだろう。

一一二戦勝中でそれを一歩も動かずやってるのならば、それは最強以外の何者でもない。

?たがが一〇〇人を倒しただけだろう?それだけじゃ最強とは言えない。人類すべてと戦っての最強だ)

(スケールがデカすぎるわ!ていうか急に喋るんじゃねえ!びっくりするだろうが!)

(我がいつ話そうと、我の勝手だ)

(わがまますぎるだろ……。ん?あれ?会話してる?謎の声と?嘘!もう駄目だ!俺はもう危ない!)

(何を狼狽うろたえているんだ?話せるのは当たり前だろ?もう昼なのに寝ぼけているのか?)

俺は口を開けながらボーッとしていた。俺はふと我に帰り、周りを見渡す。

ザワザワしてきたが(元から騒がしかったが)特に異常は起きてない。

山田やまだ達もボーッとしていた俺に目も暮れず、野見中のみなかの方ばっか見ている。不幸中の幸いと言ったところだろう。

頭の中で喋っていたが、それが口に出ていたり、話しかけられていたのにずっと無視していたということを避けられたからな。

しかし何なのだろうか?一方的に話しかけられてる訳ではなかった。

こちらからもコンタクトが可能。

今に思い返してみれば入学式のときもこんな事があった。二日前にもか?

あまり記憶が鮮明ではない。だが確信した。

……俺はもう末期どころかその先に行ってることを。

普通に考えておかしい。頭の中の声は幻聴だ。

もしかすると俺が多重人格の可能性もゼロではない。

だとしてもおかしいのだ。

幻聴だろうともう一つの人格だろうと頭の中で会話なんて出来るか!

そんな話聞いたことがない!…………もしかしてたが俺があまりにも孤独すぎるから生み出したイマジナリーフレンドの可能性は!?

有り得る!十分に有り得る!

それとしか考えられない!

(んな訳あるか。頭湧いてんのか?)

(だから急に喋るんじゃねえ!それはそれとして普通の暴言だし!)

(事実だ)

(もう出て来なくていいですよ。俺はもう孤独ではありません。数日間ありがとう)

(我はお前の幻想では無い。消えたくても消えないし、消えたいとも思わない)

(ふっ、そこまでして俺と居たいのか?マイフレンド?)

(…………)

(あれ?おーい?)

俺のふざけた問いに答えは返ってこなかった。

流石に呆れたと言うか、コメントに反応しづらかったのか。

真実は俺か声のみぞ知る。

ていうか一郎いちろうから前山まえやま先輩について聞かないとな。

話が逸れ過ぎてしまった。

「……なあ前山まえやま先輩の能力ってなんなんだ?」

「ん?さっき説明しただろ?」

「あ……えー少し考え事してて……」

「えっとね、前山先輩の能力は「」能力らしいよ」

能力を教えてくれたのは野見中のみなか

認識を変えると言っても、何がなんだかさっぱりである。

野見中のみなかはそんな俺を見て察したのか、ニヤニヤしながら説明する。

あら可愛い。

「簡単に説明すると、例えば今私はここに座ってる、前山まえやま先輩の能力を使えば私は今立ってるように感じちゃうんだよね」

「……」

俺は別にものすごい頭脳を持ってるわけでは無い。

至って普通の知能の持ち主なのだ。

前山まえやま先輩の能力を理解するには俺の頭じゃちと足りない。

「もっと簡単にするなら「思い込ませる」のかな。前山まえやま先輩は相手を自分は今〇〇の行動をしてるって思い込ませる。あくまで思い込ませてるだけ。その認識を信じなければ意味は無いっていう感じの能力だよ。なんとなく分かった?」

「……ああ、野見中のみなかのおかげで理解できた。ありがとう」

「別に!」

野見中のみなかは白い歯を見せながらにーっと笑う。うん可愛い。

前山まえやま先輩の能力は理解できた。精神干渉の能力のようだ。

認識というが錯覚とも言える。それこそ「思い込み」だ。

前を走ってたと思ったら、逆側を歩いていた。かなりトリッキーな能力だ。

自分の認識は合っているのか?本当は違っているのでは?いや実はフェイク?

かなり自身を疑心暗鬼にさせる能力。俺だったらすぐに信じちゃうな。

『お待たせしました!!いよいよ世紀の一戦!一人は学園最強を賭けた、もう一人はリベンジを賭けた戦いが始まります!!実況は私、小声通おごえとおるがお送りします!!』

突然スタジアムに響く声。

周りの人もびっくりしたようだが、気にもせず歓声の声を上げる。

「これは一体何!?え?もしかしてこの試合実況付き?」

「「「「まあそりゃー」」」」

俺以外の四人もこの事態には特に驚いていない様子だった。

俺はてっきりただ二人が戦うだけだと思っていた。まさかの実況付き。本格的だな。

『それでは選手の二人に入場していただこう!

まずは西口!リベンジに燃えるはこの女!男勝りのその力。しかと受け止めてみろ!乙花 濃波おとはなこなみ!!!!!!』

西口から出てきたのは、まだ春なのに半袖を着てる、明らかな体育会系の先輩、肌は焼けており、その瞳には打倒前山という意思が感じられた。

乙花おとはな先輩が出てきたと同時に西口側の観客は一斉に立ち上がり、応援旗を広げる。

「え?あれは一体何?」

「「「「応援旗」」」」

俺はまたも驚く。全国大会とかじゃ無いんだし、そこまで熱を入れるか?

すごいを越えてもはや恐怖を覚える。

『そしてもう一人は!東口!この学校の最強にして頂点!誰も彼が動いたのを見た者はいない!この戦いで更に爪痕を残すのか!?

前山拓洋まえやまたくひろ!!!!!!』

東口からは出てくるは、見た目から分かるクールなイケメン高身長。

前山まえやま先輩は少し気怠そうに壇上に上がる。

乙花おとはな先輩とは打って変わってこちらはやる気がなさそうだ。

どこか奈加河なかがわ先生を感じられる。

二人はお互いに見つめ合っていたが、乙花おとはな先輩が口を開ける。

「逃げずに来たか」

「逃げたら逃げたでおっかないからな。地獄の果まで追っかけてくるだろ?」

「よく分かってんじゃん」

「分かりたくねえよ……」

前山まえやま先輩は首の骨をポキっと鳴らす。

それに続いて乙花おとはな先輩も軽く背伸びをする。

「「」」

『これより!!待ちに待った乙花濃波おとはなこなみvs前山拓洋まえやまたくひろのアビリティー・マッチを始めます!それではレディー……………………ファイト!!!!!!!!!』

開催の宣言と同時にスタジアムには戦いのゴングが鳴り響いた。

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