第一話 入学
道を歩いていると、桜の花びらが頭に落ちてくる。
春だなーと思いながら、花びらを払う。
曲がり角を曲がり、その先には見えたのは大きな校舎。
周りにも俺と同じ紺色のブレザーを羽織った生徒が見える。
俺
友と一緒に過ごす放課後、甘酸っぱい青春。期待を胸に大きく一歩踏み出す。
校門を抜け、第一校舎・昇降口につく。昇降口には多くの生徒で混雑していた。
やっとの思いで、前に顔を出し、自分のクラスを確認する。
俺は一年A組。自分のクラスを確認し、校舎の中に入る。
校舎の中は国立だけあって、綺麗で清潔感がある。
Aクラスの前に着き、俺は一呼吸置く。
ここから始まっているだ、俺の戦いは!俺は扉を開く。
中にはすでに多くの生徒がいた。数人がこちらの方を向くが、すぐさま向き直る。
大事なのはこれからだ。
俺は黒板に書いてある自分の席に座る。………………………………やることがない。
普通だったら、この時間に近くの人に話しかけ、友情を育むのだろうけど、俺にはそんなこと出来ない。喋る内容も喋る勇気も持ち合わせていない。
俺は周りを見渡す。クラスの中にはもうすでに打ち解け合っている人。
俺と同じように誰とも話せずポツンとしてる人がいる。
教室の真ん中には、何やら人が集まっている。
座っている人でもあの集団を見ている。あの集団の中心には誰がいるのか。
俺は身を乗り上げ、目を凝らす。人と人の間に隙間が生まれ、やっと見えた。
中心には今まで見たことがない美貌の持ち主がいた。
ショートヘアーにすこし小柄な体格。
アイドルの顔がすべてブスに見えるぐらいの美少女だ。
比喩でもなんでもない。だから人が集まってるんだなと理解した。
しばし見惚れていると、一瞬だが目が合った。俺はすぐさま目を逸らす。
何故目を逸らしたか。気持ち悪いと思われたくないからだ。
陰キャな俺にずっと見られたら、流石に気持ち悪いと思う。
ずっと見られてて気分が良くなる人間なんてそうそういない。
「はぁー……」と大きな溜息を吐く。こんな調子で大丈夫なのだろうか。
さっきあんなに意気混んでいたのに今はこれだ。
自身を失くすスピードがあまりにも早すぎる。俺は机に顔を伏せる。
しばらくして目の前の扉が開く。開いた扉から男の人が入ってくる。
「喋ってる所悪いが、席に座ってくれ」
席を立っていた生徒は、すぐさま席に座る。
男は首を一掻きし、手に持っていた紙を見ながら喋りだす。
「えー、皆様この度はご入学おめでとうございますー。私はこのクラスの担任になった
先生はそう言うと、ペコリと頭を下げる。この時誰もが思っただろう。
この先生、適当だなと。
普通紙見ながら挨拶するだろうか?紙見ながらでももう少しハキハキ喋るだろう。
だがこの
奈加河先生は紙を置いて、今度は生徒の方を見て続けて喋りだす。
「堅苦しい挨拶を左に置いといて、入学式まで時間がある。面倒くせえが一通り学校の教育方針とかを話せと言われるから話すぞ。資料配るから後ろに回せ」
何が堅苦しかったか全くもって分からないが、先生から資料を受け取る。
俺は言われた通り後ろに回す。もらった資料は入試前にもらったパンフレットだった。表紙にはさっき俺が見た校舎が載っている。中身が違うのか、パンフレットより
若干厚みがある。
「お前らも知ってる通り、この学校は国によって作られた”能力者専門学校”。
ここにいる全員がもれなく能力者だ。教師も例外じゃない。
食堂のおばちゃんは例外だ。食堂のおばちゃんは舐めない方が良いぞ。
多分だがあのおばちゃんが本気を出せば、俺達能力者を皆殺し出来るかもしれねえ……。恐ろしいおばちゃんだ」
これまでの話で食堂のおばあちゃんが人類最強しか分からなかった。
食堂のおばちゃんだけで三行以上も語るな。誰に何の得があるんだ?
反応に困るだけだ。
「おっと、おばちゃんトークに熱が入りすぎた。
話を戻すが、そういうことでこの学校での生活は一見普通に見えるが、死と隣合わせの大変危険なものになる。
だからこそお前らには最低限三つの”ルール”を守って貰う必要がある。
まず一つ目、これは当たり前の行為だが基本的には能力を人に向けてはいけない。
二つ目は、これはベーシックに限るが電子機器の周りで
三つ目は…………特にない」
ないんかい。ここに人がいなかったら、盛大にずっこけてたわ。
最後はともかくほか二つは的を射てる。能力は危険なものが多い。
使い方を誤れば、人を殺すことなど容易だろう。
さて話は変わるが、これを読んでる人は「ベーシックとはなんぞや」みたいな事を思った人が大半だろう。
まず、原則として能力者の能力は一人一つ。これを前提に説明する。
Ability special radio wave。日本語訳は能力特殊電波。それを縮めて”ASR”という。
能力者は全員
ゲームで例えると、魔法使いが消費する
ASRの量も質も能力者に個人差がある。
さっき出ていた「ベーシック」とは能力者の分類だ。
他にも「オリジナル」という種類も存在する。
最初にベーシックは先程説明したASRしか使えない能力者を指す。
しか使えないと言っても、物を動かすことも出来るし、量があれば
対してオリジナルはもっとバリエーションが豊かだ。
オリジナルにも分類分けがあり、物質生成・物質干渉・身体干渉・精神干渉・操作の五つの種類が存在する。
空を飛んだり、手から炎を出す系の能力者はオリジナルに分類される。
多少は能力について理解できただろうか。えっ、俺の能力?それは......。
「ルールと言ったら、この学校には他にはない。特殊な制度がある。
"アビリティー・マッチ"だ。簡単な話、生徒同士が能力で喧嘩する事ができる」
俺の話は右に置いておく。いずれ分かることだ。
それよりも
周りも騒めきだす。何度も言うが能力とは危険な物だ。それを喧嘩の道具にする?
余りにも危険すぎる。最悪死人が出るぞ。俺とかな。
すると一人の生徒が手を挙げる。
「先生。流石にそれは危険すぎるのではないでしょうか。人に対して能力を使用するのは最悪人が死にます」
「ちゃんとルールを設けているし、監督する先生がいる。監督するのが俺じゃなきゃ大丈夫だ」
「は、はぁ……」
メガネを掛ける委員長系の女子は俺が思っていたことを代弁してくれた。
うん、安定の先生感。先生が監督する以外は安全だというのは分かった。
それにしても
そんなメタ的な事を考えてしまう主人公であった。
「一通りの説明はこんな感じだ。もうそろそろ入学式が始まる。トイレ・深呼吸忘れずにな」
先生はそう言い残し教室を後にした。深呼吸した所で意味はないだろう。
だが、途中でトイレに行きたくなるのは勘弁願いたいのでトイレに行くことにする。
トイレから帰った時には殆どの人が準備を終えており、俺はすぐさま準備を整え前に並ぶ。
出席番号順に並んでおり、俺は「あかがや」なので問答無用で前に行かなきゃいけない。
しかもA組という事もあり、入学式の新入生入場の時、すべての新入生の先に行くのである。失敗は許されない。
何を失敗するのか、例えば途中で転んだり、膝から崩れ落ちたり、fall dawnする事。
これだけはやっちゃいけない。
これからの三年間入学式でころんだ人と認識され続けなければいけなくなる。
そんなのはゴメンだ。
一年A組は俺を先頭に体育館の昇降口まで向かう。
後ろからもB・C・Dと続いてくる。昇降口に着き、呼ばれるまでここで待機する。
心臓がはち切れんばかりに緊張している。そしてその時がやってきた。
『新入生入場』と司会の人が言い、俺は前に進む。背筋を伸ばし、きりっと歩く。
中には多くの保護者がカメラを向けていた。
そんな状況に緊張しながらも、俺は俺の責務(転ばないこと)を全うすることが出来た。
その後は来賓紹介・保護者代表の挨拶とかの長い話を聞かされ、やっと校長先生の話に入る。
俺の経験上、校長の話は長い。
『校長式辞。
宮香校長は壇上に上がる。
その人は俺の想像した校長とは程遠かった。
俺が想像したのはうっすら剥げたおっさんを想像していた。
実際は整った顔に後ろに結んだポニーテール。何だ、この学校は。可愛い・美人な女子しかいないのか。まるで物語の世界だな。
『新入生の諸君、この度は入学おめでとう。
この蒼橋良高等学校の校長
私から君達に伝えたいことは一つだけ。学べ。世の中は物騒ものだ。
世界では今この時でも能力によるテロなどの犯罪が行われている。
君達も覚えているだろう数年前にここ旧宮町で起きた宮町崩壊事件。
私は君達に誤った道を歩んでほしくない。力の使い方を間違ってほしくない。
だからこそ学んで欲しい。君達の能力は決して人を傷つけるだけの物ではないはずだ。これからの日本、いや世界の未来を支えるのは君達だ。
その事を心に刻み、三年間有意義に過ごしてくれ。私からは以上だ』
体育館に拍手の音で満たされた。
宮香校長の話は短かったが同時に深くも合った。
この話をちゃんと聞いた人であれば心に響いただろう。
校長式辞が終わると、すぐに入学式は終わった。
また俺を先頭に体育館を出て、各自教室に戻る。
教室に戻り、しばらくすると生徒たちは他の生徒と話し出す。
俺は何もすること無くボーッとする。
「みんな!先生来るまでの間、自己紹介でもしない?」
かの美少女が言う。もちろん反対の声が出る訳がない。俺も反対はしない。
苦手だが……。
「まずは私から。私は
拍手・口笛。これでもかと喝采される。すごいを越えてうるさい。
「次からは出席番号順で行こうか!」
野見中がそう宣言する。出席番号順だから……俺からか!考えていて反応が遅れた。
俺は勢いよく立ってしまう。そして俺はみんなの方に向く。
この瞬間、俺の頭はスパコン並みのスピードで演算を開始する。
(まず、名を名乗る。これは当たり前だな……。次は?なんか友達が出来そうな事を言わなければ。例えば好きな食べ物とか?ありがちすぎる。ていうか誰も知りたくないだろ!そんな事!自分がこの学校でやりたい事とか?真面目すぎる!俺はそんなキャラじゃねえ!ああ、もう!なるようになれ!)この間コンマ一秒
俺はこの一瞬で答えに辿り着いた。辿り着いていないようで辿り着いたのだ。
とりあえず何も考えずにやってみようと。誰にも気付かれないように深呼吸する。
準備は出来た。さあ、始めよう。
「あっ、
我ながら素晴らしい自己紹介だ。きっと周りの反応もよろしいはず。
よろしいはずなのにおかしいな。拍手の音が聞こえない。
「あっ、次の人……ど、どうぞ」
俺は席に座る。次の人は自己紹介をやり始めた頃、俺は一人反省会をしていた。
(何故最初に「あっ」って付くんだよ!もっとハキハキ喋れよ!そりゃ拍手もしないわ!きっと聞こえてなかったんでしょうね!あーあ、俺の高校生活オワター)
(やっと目覚められたと思ったらうるさいぞ、人間)
(ごめんなさいね!でもおかしいよ!これでも初めて俺が喋ったんだよ!アレはないって……え?)
一人反省会の途中、変な声が聞こえた。俺の声を少し低くしたような。
言われても分からなだろうが、これだけははっきり分かる。
俺の頭の中で声が聞こえた。気の所為だろうか。
いや、だとしてもはっきり聞こえ過ぎでは?
謎の声に疑問を浮かばせていると、
気が付くと自己紹介は終わっていた。
俺は他の人(
「自己紹介してたみたいだな。時間を設けなくて済んだ。今から教材を配る。その後帰宅していい。明日から普通に授業だ。忘れ物とかはすんなよ。俺が怒られる」
奈加河先生が教材を配り終え、少しだけ明日のスケジュールを確認すると帰宅を命じられた。
教室からゾロゾロと人が出ていく。
俺もその流れに乗り教室を出て、帰路につく。学校に来た時と同じ道を行く。
何も出来なかった。
友達を作るぞーとか思っていた時期も俺にはありました。
現実はそこまで甘くありませんでした。
しばらく歩いていると、公園が目に入る。
「うえーーーーん!うえーーーん!」
その公園で一人の少女が泣いていた。
なんで泣いているのか、全く分からないが、俺はその少女に話しかける。
なんとなく見捨てられなかったからだ。
「どうしたんだい?」
「グスン……あれ……」
「あれ?」
少女が指差す先には、木に風船が引っ掻かていた。ありがちなやつだ。
木も結構な高さで、小さな少女には取れないだろう。
「分かった。お兄ちゃんが取ってあげる」
「ホント?」
「ああ」
傍から見たら、ただの不審者だろう。
約束してしまったし、俺は風船を取る事にする。いちいち木になんか登らない。
こういう時の能力だろう。
俺は手を伸ばし、能力を発動する。手からASRを出す。
ASRの周りはうっすら空間が歪む。俺はASRを手の形に変形させ、風船を掴む。
風船を自分の手に収まるように引き寄せる。俺は風船を少女に渡す。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「次は風船を放すんじゃねえぞ」
「うん!ばいばい!」
少女は風船を手に取ると、風のごとく走り去っていった。
さてさっき右に置いといた話を持ってくる。
俺の能力は見た通り、「ベーシック」だ。
ベーシックの中でそこまですごい部類にも入らない。
量もある訳でもない。
質が良い訳でもない。
もちろん一般人からしてみたらすごいのだろうけど、出来ることはただ物を動かす程度。
なろう系のようなそれでも強いみたいな設定もない。
ベーシックはオリジナルより劣るが、俺はベーシックでも劣ってるらしい。
俺は公園を出て、今度はまっすぐ家に向かう。
家に着き、一通りの家事を終え、ベットに横になる。
明日から孤独の高校生活が始まる。まあ、孤独にはなれているが)キリッ
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