本当の戦い

「ご主人様、遅くなりました」


 フェンリルか、俺が来た瞬間にポータルに飛び込んだな……


「見えるか? あれが俺たちの敵だ」


 嵐のような闘気を身に纏い、神聖な光が体からあふれ出している。ごく平凡な男のようだが、あのクソ神によほどの改造をされたのだろう。人間と言うよりも神の操り人形といった方が正しいような気がする。


「化け物ですね」


「ああ、そして俺たちはその化け物を倒さなければならない」


「魔物としては地獄が顕現したらこんなものなのかと思いますよ」


「フェンリル、魔物としては、と言ったな? 人間からしてもこれは地獄も同然だぞ」


 目の前の化け物に勝ち筋はまったく見えない。それでも戦う以外の選択肢は無いのだ。俺たちは初戦作られた操り人形のようなものであり、神々の代理戦争には参加しなければならないのだ。


「不思議なほど落ち着いていますね? 森ごと吹き飛ばすほどの力を感じるのですが……」


 フェンリルがそう言ったところで聖なるオーラが目に見える光となって俺たちの方へ飛んできた。隠れていた岩がえぐれるほどの威力はあったもののなんとか俺もフェンリルもかわすことに成功した。しかしこんな幸運は何度も続かないだろう。


 バシュ バシュ バシュ


 オーラが次から次へと飛んでくる。フェンリルは空中で何度もジャンプしながらかわし、俺はギリギリで耐えられるシールドを五枚も張っていた。


 パリン


 一撃で一枚が割れていく。しかしフェンリルの方には出来ればあまり打たせたくない。俺は更に大量のバリアを張って隙をうかがうことしか出来ない。


 パリン

 パリン


「クソッ! 『アビスフレイム!!』」


 俺の出せる中でも最上級の火炎魔法を使用した。火炎魔法は得意なのだが森を焼くのでセーブしていた。しかし今はそんなことを気にしている余裕はない。


 恐ろしくデカい火球が俺の上に出現し神に使いに向けて飛んでいく。


 パリン


 バリアあと二枚……


 パリン


 間に合わないのか……?


 どっごおおおおおおおおん


 最後のバリアが割れるまえになんとか火球が敵のところへ届いた。直撃だ。


「ご主人様! やりましたね!」


 俺は隣に寄ってきたフェンリルを思い切り突き飛ばし自身も横に転げた。


「まさか!」


「無傷ってマジかよ……あんなのどうしろってんだよ!」


 砲撃が再開する。辺り一面に穴を空けながら狙いも雑に打ち続ければ当たるだろうといった余裕の感じを漂わせながらデタラメな攻撃を続けてくる。


「クソ! 化け物だな」


「魔族の我々が言うのもおかしいですな」


「まったくその通りだよ!」


 フェンリルと軽口を叩きながら回避を繰り返す。体力が魔王時代のものを引き継いでいなかったらとうに死んでいるだろう猛攻が続く。


「グルオオオオオオオオオ!」


 一瞬の隙を突いてフェンリルが比較的無防備だった脇腹に噛みついた。しかしすぐに離れ俺の所へ来た。


「あれは……化け物です。私の牙でも傷一つつきません」


「お前口のまわり怪我してるな、『ヒール』」


「申し訳ありません。ご主人様の貴重な魔力を……」


「気にするな……ん?」


「同化なさいましたか」


 男に傷が付いている。俺がデタラメに打ち続けた魔法が当たっただと? しかし何故だ?


 俺は少し考えてみて一つの結論に至る。


「でかしたフェンリル! 一つ分かった!」


「一体何が分かったのですか?」


「やつのシールドは体全体を包んでいない! 攻撃を両側から当てればダメージが通る!」


「本当ですか!? ご主人様! 私はヤツの左半身を狙います!」


「俺は逆を狙う! 勝ち筋が見えたぞ!」


 とはいえ全方位に魔力の塊を打ちだしている男に攻撃を当てるのは至難の業だ。


 ガキン


 フェンリルが噛みついた、そちらにシールドが展開されたので俺は魔法を打ち込む。


『ライトニングボルト!』


 フェンリルが一瞬早く牙を離したためすぐに逆方向にシールドが展開される。俺の攻撃はそのシールドにはじかれた。


「クソ! 弱点まで分かったというのに攻撃が出来ない!」


 フェンリルは覚悟を決めたかのような声音で俺に話しかけてきた。


「私が噛みつき続けます。多少は魔力を浴びても耐えられますから私ごとあの男を焼き払ってください」


「バカか! そんな方法が使えるわけないだろう! そんな倒し方をすれば俺はあの神と変わらないレベルの悪人だ!」


「しかし……方法が……」


「フェンリル、ここから先は連携は無しだ、ひたすら攻撃を繰り返して通るまで続ける」


「それは……無茶では? やはり私が……」


「絶対にお前を犠牲になんてさせない! あのクソ神に捧げる生贄なんてないんだよ!」


「……分かりました、好みが尽き果てるまでご主人様に付き従います!」


 それから猛攻が始まった。フェンリルは毛を逆立てて突撃したり噛みついたり、様々な方法で攻撃を続けている。俺も魔法をありったけを打ち込んでいるのだがシールドに阻まれて俺たちの攻撃が一向に通らない。


「いい加減当たれ! クソが!」


「人間風情がご主人様に刃向かうなどといい気になるな!」


 俺たちの猛攻も軽くいなされてしまう。俺の魔力もフェンリルの体力もほとんどつきかけている。攻撃できるのはあと一撃だろう。


「あー……これは死ぬかな……最後の一発だ」


「私もそろそろ立っているのが辛いですね、次で決めましょう!」


 俺たちは神の傀儡の両脇になんとか移動し攻撃をした。フェンリルが先に突撃をしそれに合わせて俺が魔法を撃った。


「ライトニングボルト!」


 しかし高速のシールド展開にライトニングボルト! は防がれ……


「ファイヤーボール!」


 突然横から巨大な火球が飛んできた。男は敵は俺たち二人だと思っていたらしく、突然の第三者の攻撃に対処できず火球に派手に焼かれて戦闘不能になった。


「シャミア……来るなっていったろ?」


「私がわがままなのはルード様だって知っているでしょう?」


 そして俺とフェンリルにシャミアは杖の青ボタンを押して回復をしてくれた。先ほどのファイヤーボールは赤ボタンを押したのだろう。おもちゃ程度のつもりだった買い物が役に立つとはな……


 俺は倒れた男の所へ行った。フェンリルもやってきて今にも喉を噛みちぎらんとする姿勢だ。


「ご主人様、この男の処遇は?」


「処遇っていってもな……神に操られてただけだからなあ……」


『スキルクラッシャー』


 神の打ち込んだ奇跡の力はその一撃で砕け散った。ここは森の入り口だし寝かせておけば誰かが連れて行くだろう。


 そして二人と一匹で家に帰った。

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