シャミアとの稽古
「シャミア、今日は剣術の稽古をするぞ」
「へ? 私は剣なんて……」
「ナイフでいい、あれだけでも使いこなせば戦力になれるぞ」
シャミアは喜びながら朝食を一気に食べていった。
「さあ行きましょう! 私の最強伝説が始まりますよ!」
「最強伝説とは大きく出たな、最低限俺に勝たないとならないんだぞ?」
まあ俺に勝てば最強を名乗ってもいいのだろうが……
「私はまだまだ成長期ですから! 訓練次第でいくらでも強くなりますよ!」
酒を飲める年の成長期か……酒に強くなるくらいしか成長しないのではないかと思うのだがな。まあ事を始めるのに遅すぎるということはない。魔族の剣豪も百歳を超えてから剣術に打ち込みそれを極めた者がいたな。まあその剣豪が剣を極めたのは千歳を越えてからだったが……
「シャミア、相手に勝とうとは思わなくていい。俺が助けられるまで耐えるだけの力をつけてくれると助かる」
「分かりました! ルード様がトドメを刺したいんですね! またまた、美味しいところを持っていきたいんですねー?」
別に誰がトドメを刺そうが倒したことには変わりないと思うのだがな。
しかし人間の多くは殺し続けると心が疲弊していくらしい。シャミアには元気でいて欲しいのでやはりトドメは俺が刺すべきだろうか? 魔族時代の感覚がソコはまったく抜けて折らず、進んでトドメを刺してもなんとも思わないのだが、それは人間としておかしいと最近になって知った。商人から購入した本を読んでいると連続殺人をしていくうちに心が歪んでいく人間の話があった。殺し殺されが当然な魔族とは違うようだ。
俺は空になった食器に水魔法を使う、洗浄終わり、さあて稽古を始めるかな。
「ルード様……どんな感じで切り込めばいいんですか?」
シャミアの方は実戦用のナイフを使用している。俺が傷つかないのは前提の訓練だ。しかし困った。今まで感覚で戦ってきた俺にはよく考えると人を指導できるほどの理論は持ち合わせていない。ナイフなんて適当に隙のあるところに刺せば相手が倒れるくらいにしか考えていなかった。
「我流でいい、斬りかかってこい。俺に僅かでも傷をつけるのが当面の目標だ」
「一応聞いておきますけど、斬りかかってルード様が大けがをするようなことは無いですよね?」
「安心しろ、俺を殺せるようならこの森で不自由なく暮らしていけるぞ」
「ルード様……強すぎませんか?」
そんな言葉と共に稽古は始まった。俺のナイフは木製のものだが、魔力で斬りかかられても受け止めて折れるようなことはないようにしてある。下準備は完璧だろう。戦いは下準備も大事……いや、戦うまえに勝負が決しているような戦いも多い。そのくらいには相手を知ることは重要だ。
俺にも癖が無いとは言い切れないが、シャミアは当然そんな特徴を捉えられず、斬りかかる度に俺の木製ナイフではじかれる。
カンカンカンと打ち合って、しばらく経っても俺の皮膚にナイフが触れることは無かった。結局、日が傾く頃にシャミアが夕食を作ると言い出して稽古は終了することになった。
そしてシャミアの疲労により簡単に作れる夕食になったのだが、それはそれで美味しかった。その夕食を食べながらシャミアが愚痴った。
「私って才能無いんですかねえ……」
俺はフォローというわけでもないが事実を伝えた。
「シャミア、そもそも俺に一撃を入れられるほどの実力があれば騎士にだってなれるだろうさ。別にシャミアが弱いわけじゃない、相手がほんの少し悪すぎただけだ。続ければ上達するから諦めないようにな」
「やっぱりルード様が強すぎるだけじゃないですか!」
「だって俺正式な訓練なんて受けたことないし、実戦訓練で加減をする方法なんて知らないからな。成長は見えにくいが続ければ強くなれるって」
「私がルード様の域までたどり着こうとしたらおばあちゃんになっても無理そうですね?」
「それはまあ……そうかも」
人間として生きた年数はシャミアより年下でも、その下に魔族として生きてきた年数と、魔王として生きるために積み上げた魔族の死体があまりにも大きすぎる。人間には到達できない領域にいるからな。
「シャミア、でも俺は結構センスがあると思ったぞ? 少なくともお前は人間にしては上達が早いな」
「そ、そうですか? へへへ……照れますね」
照れるのは俺に狩ってからにして欲しいものだが筋がいいのは確かだ。この森から英雄の一人でも輩出できるかもなと思ってから、あの勇者の戦いぶりを思いだして、シャミアには絶対あんな生き方をして欲しくないなと思った。
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