戦いというもの

 俺はポータルで森の入り口に飛んだ。目的地は森に入ってもいないのに強大な魔力を感知している方向。あのクソ神は不用意にやった力と言っていたがそれにしてはとんでもない力だぞ。


 ソレは膨大な魔力と共に嵐のようにやってきた。戦うためだけの存在、あのエセ神は村を守っていたなどと言っていたが、今の存在はとても何かを守る意志があるとは思えない。ただただ破壊し分解し、叩き潰す、ただそれだけの存在が近づいてきていることを感じられる。


 森の木の葉がざわつく。ザワザワと何かが現れる事を予感させる。俺は森の魔物を倒すこともするが、森自体を守ることも俺の義務となっている。そんな化け物じみたやつに荒らされてたまるかという話だ。


 森から出ていく方向へワイルドボアが飛び出していった。強力な殺気に気がついたからだろう。ワイルドボアは前方に発生している嵐の前に飛び込むまえに分解されて消えてしまった。


 まったく……災難というのは続けてくるものかな。


『マモノ……コロス』


 完全に正気を失っている青年が見えた。あのクソ神は何を考えて力を与えたんだ、完璧に力に飲まれているじゃないか。正気とは思えない力の使い方をしている。歩く災害と言っても良いような奴だ。村を守っていたと言うがその面影は欠片もない。


『アンチストーム』


 とりあえず嵐を消さないとどうにも手が出しづらいので逆方向の嵐を起こして、それを嵐にぶつけ打ち消した。すると中にいるもはや化け物と言ってもいいような人間が姿を現した。


「マドウシ……シヌガイイ」


 ダメだこりゃ、完全に力に飲まれている。しかしあの自称神は神聖なもののはずだと思ったのだが、目の前の相手は敵を倒すだけのキリングマシーンになっている。どこら辺に神聖要素があるのかアイツに問い詰めたいところだ。


「ファイヤーボール……」


 チュドオオオオオオン


 ファイヤーボールだというのに俺が見た中では人間で最強のファイヤーボールが飛んできた。勇者の攻撃はもっと強かったが、アイツは人間をやめているので例外だ。


『フリーズ!』


 相手は氷漬けになり動きが止まった。殺すのはよしとしていないが、おそらくコイツには……


 ぱりん


 氷漬けから力だけで自分を固めている氷を砕いて地面に立った。化け物だな……やはりシャミアを連れてこなかったのは大正解だ。


 というか何故あの人間らしきものは憎しみに包まれているのだ? 魔族でもあそこまで出会う度に喧嘩を売ってくる奴はいないぞ!


『ライトニングボルト!』


 電撃を与えて動きを止めようとする。しかし電撃を浴びたはずなのに平気な顔をして俺の方へ向かってくる。手にはワンドを持っているのが見える。近接でコイツの攻撃は受けたくないな……


 死ぬことはないだろうが、今の脆弱な人間の体でこの化け物の攻撃を受けるとどうなるか分からない。


「ファイヤーボール」


『ニアリーリープ』


 近距離移動で男の魔法をかわす。背後を取れたので思い切り後頭部を殴った。


 物理面ではそれほど耐久性を持っていないようだな……ならば……


「ラージストーン」


 男の頭上に大きな石塊を出現させてその重みで攻撃をすることにした。魔力によって生み出されたとはいえ純粋な力なので聞くはずだ。


 ドーンと落ちた岩が砕けた。そこまでの耐久値があるとは思っていなかった。しかし動きがなくなったので近寄ってみると、男は気絶していた。どうやらしっかり聞いているようだな。


 よし、気絶しているならあのスキルが使えるな。


『スキルクラッシャー』


 ガシャンという音と共に男から禍々しさが消え去った。勇者の力がなくなったからといって、それを理由に死なれては困るので回復魔法をかけた。そして男はなんとか目覚めてくれた。


「あれ? 俺はなんでこんなところに?」


「目が覚めたか? 手間のかかる奴め」


「あの、あなたは誰ですか?」


 記憶まで消し飛ぶのかよ……あの神はマジでロクなことをしないな。


「俺はルード、まあそれはどうでもいい話だ。あんた、村に帰った方がいいぞ?」


「は、はぁ? そもそもここは何処なんでしょう?」


「ここは国境の境の森だよ、危ない魔物がたくさんいるから暗くなるまえにさっさと逃げた方がいいぞ?」


 男はポカンとしていたものの、森の不気味さにいそいそと荷物をまとめ始めた。


「あの……俺は一体何をしていたのでしょう?」


「いいか、世の中に走らない方が良いこともある。誰も得をしないから悪い夢を見ていたと思え」


 それだけ聞いて深く聞くと恐ろしい話になりそうなのを予感したのか男は駆け足で森から離れていった。


 ポータルを開いて我が家に帰るとシャミアが豪勢な夕食を作っていた。


「ルード様! 大丈夫でしたか?」


「ああ、何も問題は無い、気にするな」


 そうしてようやく森は平和を取り戻したのだった。

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