勇者候補との本物の戦闘をシャミアに見せた
『やあやあ、ルーデルくん元気かな?』
『何の用だ? エセ神め』
『酷いなあ、ぼくだって傷つくんだよ?』
神の癖に傷つくのか、随分と脆弱な心をしているな。
『それで、何の用だ? どうせ碌でもないことを頼みに来たんだろう?』
『ぼくをまるで貧乏神みたいに言わないで欲しいなあ、減らない財布だって渡したのにほとんど使ってくれてないみたいだし、傷つくなあ……』
『お前は俺の恋人か! アホなこといってないで本題に入れ!』
コイツに付き合っていてはキリが無い。話はまず結論から話すそんなことも出来ないのか。
『実は村を守ることに熱心な青年が一人いてね』
『待て、まさかその男に力を与えたとか言うんじゃないだろうな?』
もうすでに嫌な予感しかしない。
『いやー失敗したよ、力を持って村をしっかり守ってもらおうと思ったんだけどね? 村人が思った以上にがんばっちゃってその青年は勇者として送り出されちゃったんだ、いやー失敗失敗』
『またお前の後始末をさせられるのか……?』
『まあまあ、素敵なスキルを一つあげるからそれでなんとかしてよ!』
コイツの与えるスキル……どう考えてもロクなもんじゃないな。マジでロクなことをしない神の一種だからな。邪神よりよっぽど邪神っぽくやっている。
『気になる? どんなスキルか気になるよねえ? なんと『スキルクラッシャー』というスキルで、このスキルを使えば相手の勇者の力を砕けるんだ! ……まあ相手が戦意を失ってないとダメなんだけど……』
『お前しれっと重要情報を流すのはやめろよ!』
『というわけで、がんばってねー!』
そして俺は光の中に落とされた。そこで『スキルクラッシャーを習得しました』という言葉が聞こえた。
「はっ!?」
俺は自分の体を確認する。何処にも以上は無かったが、体に刻まれた魔力の術式に後付けされた物が一つ増えていた。
「まったく……次から次へと面倒事を起こしやがって……」
「ルード様ー! 朝ご飯が出来ていますよー!」
シャミアの声が聞こえてきたのでそちらの方に向かった。今回のことはシャミアを巻き込んではならない。それだけでも一応事前に教えてくれただけあの神がマシに思えてしまう。
「お、今日の朝飯はオムレツか」
「はい! 卵が多めに貢がれていたのでたくさん使わないとと思いまして、オムレツにしてしまおうと思ったんです!」
嬉しそうに言うシャミア、コイツには平和でいて欲しいなと思った。
「うむ、確かに美味いな」
「えへへ……そうでしょう! 私が腕によりをかけて作りましたからね!」
「中に肉が入っているな……これは……」
「そう! お察しの通り私が狩った一角ウサギのお肉です! ルード様にも是非食べて頂きたいと思いましてオムレツの具に混ぜてみました」
確かに肉独特の旨みがあって、卵と絡まり独特の味を醸し出している。心地よい味で、調理の適切さの賜物だろう。人間になってから食事はこんなに美味しいと思い知った。
全部のオムレツを食べ終わると、俺は食器を置いて水魔法でさっと洗浄した。そしてシャミアに肝心なことを話す。
「シャミア、今日は出てくるが家の守りは任せた。絶対に外に出るんじゃないぞ?」
「ルード様、そう言われるとルード様が危険なことに関わろうとしていると言っているような物ですよ? それを放っておくことは私には……」
「大丈夫、俺は絶対に死なない。そういうものだから安心して俺の帰りを待って……そうだな、夕食でも作っておいてくれ」
シャミアは深呼吸してから頷いた。
「分かりました。でも絶対に死なないでくださいよ。お願いではなく命令です」
「了解したよ、きっと帰ってくる。だからしっかりここを守っていてくれ」
こうして俺はポータルを開き、神が与えた力がどのような物か不安になりそうになってから、シャミアとの約束を守らなければなと思い直して戦いの場に出向くポータルに飛び込んだ。
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