シャミア、魔法を使う

「ルード様! 見てください!」


「ん? なんだ?」


 部屋から出てきたシャミアが俺に声をかけてきた、そちらを見ると魔導師のローブに魔石付ロッドを持っている。一般的な魔導師装備だな。


「シャミア、お前魔法が使えたのか?」


 今まで使っていることを見たことがなかったのだが、実は使えますというやつだろうか?


「いいえ、まったく使えませんよ! そこでこのロッドです! 先端についている魔石で魔力を供給するのでどんなに才能がない人でもあっという間に魔導師になれるんです!」


「なるほど、そう言って商人に売りつけられたわけか」


 商人のセールストークが聞こえてくるかのようだ。シャミアも俺が魔法を使えるのだからそんなものを買う必要があるのだろうか? 劣等感でも刺激したのだろうかな?


 いくらあの神が減らない財布を提供したにせよ、商人の言うことを疑うことも覚えさせた方がよさそうだな。このままではガラクタで家が埋まりかねない。


 しかし……シャミアの持っているロッドって……仕組み的に……案外使い道があるかもな。


「シャミア、外周部の治安維持に参加してみるか?」


 いつもは見学のシャミアだが、たまには参加させてみてもいい。それにそのロッドがあれば多少の自信をつけさせることもできるだろう。


「いいんですか!? 是非お願いします!」


 どうやらやる気も出したようなので肝心なことを尋ねておく。


「魔法は何が使えるようになったんだ?」


「ええっと……ちょっと待ってくださいね、取り扱い説明書を読んでみます」


「説明書も読んでなかったのかよ!?」


 何処まで行き当たりばったりなんだ、お前はそれで戦力になれると思ったのか?


 シャミアはポケットから手帳を薄くしたようなものを取りだしてペラペラめくり始めた。あの薄さならじきに読み終わるだろうな。


「なるほど、ボタン赤でファイヤーボール、ボタン青でキュアヒールが使えるようですね」


「他には?」


 俺の質問にシャミアがキョトンとした顔をした。


「他? これが全ての機能ですよ?」


 ポンコツ! 火が出せて回復できる、機能は以上! これでいけると思った生産者に文句の一つでも言いたい。しかもよく見ると木製のロッドの先に魔石が付いているが、手元に安っぽい原色のボタンが見える! 安っぽすぎるにも程があるだろう……


「ではいきましょうルード様! 私の頼りになるところを見せてあげますよ!」


「頼りになりそうなお供で助かるよ……」


「あ! 馬鹿にしてますね? ルード様ほどとはいかなくても私だってなかなかできる子なんですからね!」


 お前はもう酒が飲める年だろうという突っ込みはやめておいた。魔族の中には千歳になってようやく学校に通い始めるやつもいるからな、成長の度合いは人それぞれだ。人間の価値観というものを理解していない以上俺の知っている常識を押しつけるべきではない。


「じゃあポータルを開く、魔法の準備をしておけ」


 まあボタンを押すだけなのだろうがな。


 俺は外周部のポータルでジャンプできるギリギリ魔物が出るかどうかと言う安全そうな場所に行き先を開いた。


「いきましょう!」


「あ! こら! 走るな!」


 まったく、そそっかしいやつだな……


 俺も続いてポータルに入るとその先にはスチールアントがわらわらと魔物の死体に群れていた。


「チャンスだ! シャミア、炎を出すんだ!」


「はい! ファイヤーボール!」


 ロッドのボタンを押すと小さな火球がポンと飛んで巨大な蟻の体に当たった。向こうはこちらを見ても来なかった。死体を食べ終わったら次の獲物にしようくらいに考えていそうだ。


「はえ? 効いてない? ルード様あああああああ!! 詐欺ですよ! これは悪質な詐欺ですよ!」


「落ち着け、炎はちゃんと出ただろ?」


 俺はそう言うがシャミアはまったく納得していない様子だ。誰でも即戦力の魔導師になるなんてうまい話がころがっているはずがないだろう。しかし、だ……方法が無いわけでもないのだ。


「シャミア、ちょっとロッドを貸してみろ」


「え? はい!」


 ポンと気軽にロッドを渡すシャミア。あの威力を見てどうでもいいものになってしまったようだ。


 俺は杖を受け取ると、杖に埋め込まれている魔法の術式を書き換える。本来の使い道とは明らかに違うし、子供がままごとで使う包丁を実物にしてしまうような行為だがシャミアなら大丈夫だろう。


「ここをこうしってっと……」


 魔術式を書き換え終わると魔石に流せるだけの魔力を注入した。おそらく使い捨てを想定していたのだろう、術式に魔力のチャージ機能が付いていなかったがせっかくなのでその機能も付けておいた。


 俺は改造済みロッドをシャミアに手渡すと、悠長に獲物を食べているスチールアントの群れにもう一度ファイヤーボールを撃ってみろと言った。


 無論先ほどの威力を見ているシャミアはそんな俺の言うことを信用していない様子だったが、蟻の群れにロッドを向けて赤いボタンを押した。


 ちゅどおおおおおおおおおおおおん


 とんでもない一発が出てしまった。スチールアントどころか魔物の死体も含めて周囲ごと吹き飛んだ。


「あ……あわわわわわ!?!? ルード様!? なんですかこれは?」


「ちょっとだけ改造をしたんだ」


「いや、根本から作り変えないとあんな威力は出ませんよ……」


 驚くシャミアだが、その時ピシリという音が走り、ロッドに付いている魔石にひびが入った。


「あー……やっぱ耐えられなかったか」


「え? じゃあこのロッドは……?」


「後で修理しておくよ、魔石ならそこそこ持っているしな」


「そうですか……やはり装備に頼った戦い方はよくないんですね」


 そうとは限らないのだが……シャミアがまた無茶をしても困るし、勝手に納得してくれているならそのままにしておこう。


「じゃあ装備も壊れたしもう帰るぞ」


「はい……」


 ショボンとしたシャミアを連れて、俺はポータルを開いてそこに入った。


 いつもの家に帰ってきて、シャミアが料理しているあいだに俺は部屋にロッドを持ち帰り、部屋の在庫になっている魔石を無理矢理はめようとしてみた。高純度の巨大な魔石なので当分はもつくらいの魔力を溜めておけるのだが、残念ながらロッドの先端につけると取り回しも不便だし、ちょっと何かに当たっただけで落ちてしまった。仕方がないので小型なものを引っ張り出してはめ込み魔力を全快まで貯めておく。これで誰でも魔導師になれる道具の完成だ。


 すぐには持ち出さず夕食の時にシャミアが『どのくらいで直りますか?』という質問に『運次第だろう』と答えておいた。今回の改造品を使わせて気づいたが、あれを何度もぶっ放すのは慣れていないシャミアには危険だと判断して、もう少し戦いを見て、参加してから渡そうと決めた。

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