エセ神からお詫びをもらった

 ああ……このふっわふわな空間……何も見えないのに感じられる感覚……よく覚えがあるぞ。


『何の用だ? クソ神』


『おやおや、随分とぼくも嫌われたものだね』


『俺をぶち殺そうとしたやつが来たのはお前の責任だろう? どう申し開きをするつもりだ?』


『それについては……耳が痛いね。確かにぼくが力を与えたのはミリアという人間の個体だよ』


『そいつが弟子を取るのに森を随分と荒らしてくれたようだがな』


『その事の謝罪のためにこうして出てきたんじゃないか。ぼくは反省できる神だからね、しっかりとミリアから勇者の力は回収しておいたよ』


『奪うのも結構だが与えるまえにもう少し厳選して欲しいものだな』


『はっはっは、きみは相変わらず辛辣だねえ』


『俺はあのガキとの戦いでつかれているんだがな、さっさと話を済ませて帰ってくれ』


 ガキのくせに随分と強かった、むやみやたらに力を与えるとロクなことにならないんだよ。


『まあまあ、きみへのお詫びに君たちが村や町の人間達がお備えをしているあそこにお詫びを置いておいたんだ。ありがたく受け取って欲しいな』


『それがお詫びをする奴の態度かよ、神様ってのは随分と勝手なんだな?』


『神なんて皆そうだよ。きみの信じていた……いや、信じている邪神だってぼくと同類なんだよ?』


『分かったからさっさとここから出せ。お前の話を聞いていると疲れるんだ』


『やれやれ、転生させてあげたというのに嫌われたものだね。じゃあぼくはそろそろ去るとするよ。神仲間たちとチェスの試合の約束があるんでね』


 そう言われた瞬間俺の意識は真っ暗な空間に落ちていった。


「待てよ!!」


「ふぇ!? どうしたんですかルード様!」


 どうやらすっかり意識が覚醒していたらしい。あの神は夢世界と現実世界の切り替えが急すぎる。これでは安易に罵ることも出来やしない。


「いや、なんでもない、悪い夢を見たような気がしたんだ」


 そう、悪い夢、悪夢以外の何ものでも無い夢、ただそれを見ていただけだ。胸クソが悪くなったがあくまで俺の心が鏡のように苦い思い出から作り出した影だ。あんな神がいてたまるかよ!


 ついかっとなってしまったが、夢だと割り切ればあの不遜な態度も気にならない……いややっぱムカつくわ。と思ったところで夢の中から神の世界に逃げると宣言したやつを追いかけるのは不可能なのでどうしようもないな。


「じゃあ今日は貢ぎ物をして頂いている日ですし、朝ご飯はそれを材料に作りましょうか!」


 そう言って暗に貢ぎ物が早く見たいとせがむシャミア。それももらう側の態度としてどうなのだろうなと思うが、それより遙かに態度が超絶クソの極みな対応を夢の中でされたので、そんな些細なわがままなど気にもならない。


「じゃあポータルを開くぞ」


「やった! 行きましょう!」


 俺はそっと祠に通じるポータルを開く。始めの頃は怖々入っていたシャミアだったが俺より先に飛び込んだ。アイツは接続先が危険地帯だったらどうする気だ、危ないだろうまったく……俺もそれに一泊遅れて飛び込んだ。


 ――相変わらず薄暗い祠の中には様々なものが入っていた。


「ルード様! 町は随分とご機嫌伺に必死みたいですね! この前どなたか来たんでしょう? そのお詫びですかね?」


「ああ……ソンナトコロジャナイカナ?」


 あの神、一応誠意は見せているようだ。しかし見た限り肉と野菜ばかりで神とは思えないほどの俗物的なものばかりが置いてある。


「あ! 見てくださいルード様! これは本ですよ!」


 そう言ってシャミアが大事そうに抱えている本をじっと暗闇の中で見る。ええっと……『子供でも分かる! 偉大なる神様たち!』うん、誠意の欠片も無いな。


「シャミア、その本破っていい?」


「ダメに決まってるじゃないですか! 書籍がどれだけ貴重なものだと思っているんですか!?」


 断られてしまった。今度代わりに読む本が手に入ったらそれと交換であの本は隠しておこう。シャミアがあの神を信仰するなんて想像もしたくないようなことは起こって欲しくない。


「メインは食べ物ですね、本は一冊だけですか……」


 その一冊がアレというのが神の思想を端的に表している、クソなどと言う言葉では言い表せない酷さだ。


「あれはなんだ?」


「袋ですね。よっと……重い! ルード様、重いです」


「なんだこれ? 確かに重いな……」


 袋の口を開けてみると中には金貨が大量に入っていた。これがあの神の精一杯の誠意か……あの自画自賛している本よりマシだが……まあ夢の中で玉に出てくるくらい許してやるか。


「これで全部だな、帰るぞ」


「はーーーーーい!!」


 よほど退屈しのぎに飢えていたのか、教育に悪そうな本を大事に抱えているシャミアを連れて俺たちはポータルに入った。


「いやー、今回は大量でしたね! お金まで納めてくれるとは、感心できる町ですね!」


「金を納めたのは……いや、なんでもない」


「ルード様、なんだか今朝から顔色が優れませんが大丈夫ですか?」


 シャミアにまで心配されるとは俺も堕ちたものだ。魔王時代は自分が弱っている姿は絶対に見せてはならない者だと思っていたのだが、人間のあいだではそうでもないか。


「今朝の寝覚めが最悪だったんだよ……体に痛みが、とかそういうことは一切ないから安心しろ」


「ルード様の体調を悪くするほどの夢ってよっぽどですね……」


 その通りだよ! 勇者の夢だってもう少しマシだっただろうよ……あの神は毎回人の神経を逆なでして一方的に消えていく、神に勝つことは出来ないのだろうか? なんとかして一泡吹かせてやりたいと思ってしまう。


「さて、魚もありますし今日は焼き魚にしましょうか、ルード様、構いませんか?」


「ああ、頼む」


 俺は深く考えるのをやめて、食事を楽しむことにした。

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