畑で野菜を収穫した
「いやー、こうやって汗を流すのも健康的でいいですね」
「そうだな」
俺たちは現在そろそろ育ちきった家庭菜園の野菜を収穫していた。貴重な肥料を貢ぎ物に入れてくれる町や村は無かったので、肥料代わりにマナを毎日畑に流して育てた物だ。実を多くつけたトマトや、みずみずしいキュウリから、地面にはカボチャや芋が育っている。
マナを流していたので強引に成長を促し、時期や連作障害などはまったく関係なく出来上がった。農業としては邪道だが、育てるのに手間がかからないというのは恐ろしいほど楽な育て方だった。種を撒いてマナを与える、それだけで簡単に大量の作物が手に入る。人間が行う普通の農業は知らないが、魔族のあいだでは普通のやり方だった。マナを流して一日で出来上がるというのに、それでさえも奪おうとするものがいたのが魔族の単純さを表していた。
「凄いですよね! 賢者様ともなれば野菜も一晩で収穫できるんですね!」
「あまり一般的ではないと思うがな」
当然、こんな育て方をしている人間はいない。肥料に頼った農法でも困らないというのはあるが、一番の理由はマナを流すのに使う体力の消費量を考えると、よほど大量に作物が採れないと元が取れないからという理由もある。貢ぎ物にあった豆知識本にもあったが、『この世でもっとも効率のいい作物の育て方であり、この世でもっとも割に合わない作物の育て方だ』と書かれていた。
俺の豊富なマナと、俺はともかくシャミアには野菜も食べさせないとならないので初めて見た家庭菜園だが、この方法では育て方の工夫も何も無い方法なので、一般常識を教えるならこういった方法はやめた方がいいな。
「わあ! トマトが甘い! 美味しいですよルード様!」
「そうか、収穫が終わったら帰るぞ」
「はーい」
この際取れたそばからつまみ食いをしていることは大目に見てやろう。肉も野菜も貢ぎ物に入ることはあるが、ここまでみずみずしいものを手に入れることは不可能だ。
家に入るとシャミアは気合いを入れてキッチンに立った。
「じゃあ今晩はサラダにしますね! 美味しいものを作りますから期待しておいてください!」
いつになく明るいシャミアを見て安心する。最近はシャミアが辛辣だったこともあったからな。やはり子供というのは明るく生きていて欲しいものだ。魔族だって血縁関係のあるものには多少の情をかけるほどだったからな。
ザクザクと野菜を切ってから皿に盛り付け、おそらくドレッシングだろう、数種類の液体を混ぜて酸っぱい匂いが漂ってきた。今晩の食事には期待できそうだな。
夕食はサラダのみというシンプルなものだったのだが、野菜に豊富に含まれているマナによって満腹感も、栄養素も十分に満たされる。俺の方はもちろん放出した分マナは減っているのだが、シャミアには多すぎるほどのマナになる。
「美味しいです! ルード様の育てた野菜と私の料理で最高に美味しい!」
「そうかい、良かったよ」
俺も食べたが確かに味は良かった。みずみずしいし甘いし栄養を感じる味だ。
「美味いな、ドレッシングもちゃんと美味しいぞ」
「ありがとうございますルード様!」
「さて……問題は……」
「アレ……ですよね」
そう明らかに二人で食べるには多い量の野菜が採れてしまったのだ。マナが入っているのですぐに腐ったりはしないだろうが、無駄にはなってしまう。
「次に貢ぎ物を持ってくるのは村の人だよな? お裾分けしておくか?」
「そうですね、無駄にするよりはずっといいでしょう」
というわけで野菜を袋に詰めて祠へのポータルを開いた。
「まだ村の人は来ていないようですね、好都合好都合……」
「よし、さっさと置いて行くぞ」
「手紙の文面は何にします?」
「ウチで採れたから余った分をわけますでいいんじゃないか?」
「はい、そう書いてっと。置いておけば分かりますよね」
「ここに来る泥棒はもう居ないだろう。置いておけばいい」
泥棒避けはしっかりセットしてあるからな。危険な場所にわざわざ野菜や僅かな肉目当てに危険を冒そうというやつはまずいない。
「では帰りましょうか」
「そうだな」
そうして帰宅したのだが、数日間は食べられる野菜がまだまだ残っていた。数日はサラダが主食だなと気づかされてしまったのだった。
そうして更に翌日、貢ぎ物を回収にいった時にそれはあった。
「これは……金貨ですよね?」
「ああ、結構な枚数だな」
五枚も置いてあった。貴族に納めたなら安い金額だが貧しい村には珍しい金額だ。
「あ、手紙が置いてありますね、どれどれ……」
『賢者様、素晴らしい野菜の提供ありがとうございます。村の者に体調が良くなったものが多いと大変好評でした。僅かですがお礼をさせて頂きます』
「だ、そうですよ」
「なるほど、お礼か……余り物をわけただけなのに金貨をもらうとはな」
「いいじゃないですか、村の人も納得しているようですしありがたくいただいておきましょう」
こうして俺たちは思わぬ金が手に入り、あまりあの野菜を生産するのは目立つ元になって良くないなと思ったのだった。
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