森に盗賊に入るのは無謀だと思うんだ

「ルード様! なんか変な人たちが森に入ってきていますよ!」


「まーた結界映像を見ているのか……いい加減その映像を閉じられたいのか?」


 シャミアは憮然とした様子で俺に文句をつける。


「本当に怪しい人たちなんですって! ほら、見てください!」


 手を引いて映像のまえに俺を連れてくるシャミア。そこに移っていたのは男が数人組で森の植物を刈り取りながら先へ進んでいた。


「マナーの悪いやつらだな、危険の無い植物を傷つけるとは」


 しかし俺のコメントにシャミアは暗い目をする。


「ルード様、コイツら盗賊ですよ。あっちこっちの村の特産品を持っています」


 ふむ……


「買っただけという可能性は?」


「この男たちの服に僅かに血がついています。真っ当な方法で入手はしていないでしょうね」


 困ったな……俺は音声を有効にした。


「ボス、この先に金持ちの賢者がいるというのは本当ですかい?」


「ああ、町の連中が貢ぎ物をしているらしい。大層稼いでいることだろうよ」


 ふーん……喧嘩を売りに来たわけか。倒すのは簡単だが……


「どうするかな……コイツら程度なら奥地に入るまえに魔物にやられるだろうが……俺が叩く必要は無いんだよな」


「ルード様、私はこの男たちを助けるべきだと思います」


 意外な発言に驚いた。


「シャミア、コイツらを助けるつもりか?」


「ええ、捕獲して法の裁きを受けさせるべきでしょう。町で死んだ人が出ていたならその人達だって、どうせ処されるにしてもこの森で死なせるべきではないと思います!」


 一理ある。俺は現在人間ということになっている。人間が罪人の裁きを魔物に任せるというのは的外れかもしれない。魔族時代だったら奪い合うことは普通だったが人間は文化的な生き物だ、魔族だって歪んでいるだけで文化はあるのだが……とにかくコイツらを助けるつもりの様子のシャミアに問いかける。


「コイツらの衣服に血がついているということは助けたところで処刑される可能性が高いぞ」


「ルード様、こういう連中を自然に任せて死なせてはならないのです。人間を傷つけたものは人間が決着をつけなければならないのです。無関係な魔物に食べられて終わりなんてことになったら結果は一緒でも誰も救われないんですよ」


 人間というのは面倒なものだな。しかしだからこそ秩序が保たれているのだろう。


「シャミア、今回はここで待っていろ」


「私も……お手伝いを」


「はっきり言って足手まといだ」


 まあその他に、人間を死なせてしまう可能性や、連中に悪い影響を受ける可能性もあるのだが、それは黙っておく。


「分かりました、ルード様、どうかお願いします」


「ああ、きっちり人間流の決着をつけてくるよ」


 ポータルを開いてジャンプするまえに、忘れず映像を閉じて『今回は覗くな』とシャミアにいってから盗賊のところに向かった。


「ボス……魔物が多すぎますぜ……こんなにいるとは」


「黙れ! 賢者の宝が欲しくないのか! 大体俺たちに行くところがあるか?」


 そんな会話をしているところへ俺が現れて盗賊たちは大層驚いたがすぐに下卑た笑みに変わった。


「よう兄ちゃん、ちょっと食料や飲み水を置いていってくれや嫌だというならこの件の錆に」


「おやおや、その錆びきった剣で何が切れるというのかな?」


「え……?」


 男が自分たちが持っている剣を抜いてみると全部赤さびにまみれて抜いた時の衝撃でパラパラと砕けていった。


「やろう! 何をしやがった!」


「魔法の使い方も知らない、魔力が捜査されているのにも気づかない、それでよくここに入ってきたものだな」


「てめえ!」


『バインド』


 男たちを魔力で生成した縄で捕らえた。少し興味があったので雑談をしてみることにした。


「ふざけんな! おい! 出せ!」


「君たちが殺してきた人間達はもっと酷い目にあったのだろう? ただ縛られた程度で随分と騒ぐんだな」


「へっ、弱いやつが悪いんだよ」


「ほう……つまりここに放置していって君たちより強い魔物になされるがままにされても文句はないわけか?」


「い、いや! 助けてくれ! 頼む!」


 信念も何もない下等な生き物だな。盗賊など所詮はそんなものか。格下としか戦わず、奪うことを楽しんで奪われることなど想像もつかない。まったく胸クソの悪いやつでは無いか。


 俺はその場にポータルを開いた。コイツらに賢者と呼ばれるものであることを隠す必要は僅かばかりも感じなかった。光の柱が立つのを見て恐怖する男たち。全員をひとくくりにして森の入り口へ放り出した。


「たすかった……?」


 俺は貢ぎ物用の祠の脇に男たちを置いて言った。


「次に来るのは町の人たちだよ。君たちの言い分が通るといいな。精々弁解と命乞いの言葉を考えておくんだな」


「待ってくれ! まって……」


 俺は最後まで聞くことなく自宅へのポータルへ入った。あの盗賊が私刑にあうか、手続きを踏んで処されるかは知らないが、結果は大して変わらないだろう。やったことに対しては報いを受けなければならない。例えば俺が魔王をやったせいで人間にされたようにな。


「ルード様、死者は出ましたか?」


出ていないな。法に則って殺されるか私怨で殺されるかは知ったこっちゃないがな」


「そうですか、きっとあいつらが襲った人たちも多少は溜飲が下がるでしょうね」


 その気持ちはあまり理解できない。人間特有のものなのだろう。その日は楽しそうに晩飯を食べるシャミアを見ながら、本当に人間の感情というものは理解に苦しむなと思ったのだった。

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