薬の調合
「シャミアー! なんか面白いものはあったか?」
いつも通り貢ぎ物を回収しているとシャミアから声が上がった。
「面白くはないですけど……こんなものがありました」
そう言って僅かな明かりで見えるように俺の近くに持ってきた。ランタンの光でその紙に書いてある内容が見えた。
「賢者様、現在村で突然吐血をする人が現れる流行病が発生しています。どうか薬をお作りください、お礼は出来る限りのことをします」
そう書かれていた。人間がどうなるかにあまり興味は湧かないのだが、シャミアは可哀想なものを見る目をしていた。やはり人間同士の仲間意識というやつがあるのだろうか?
「これだけ書かれてもなあ……」
正直興味もないのだがな。
「ルード様、私の良心は流行病で……」
「ああ、作るからその話題はやめとこう。重い話題は好きじゃないんだ」
深くくらい事情を聞くのは苦手だ。弱っていた奴がいたらそいつから積極的に奪い、痛めつけろが多くの魔族の信条だったからな。
そう考えると魔族ってなかなか野蛮な種族なのかも知れない。そう考えて、ふと、随分人間の考えに毒されてしまったなと思った。
「貢ぎ物が少ないと思ったらこの村も大変みたいだな」
「助けてあげるんですか?」
俺は少し考えて答えた。
「貢ぎ物が少なくなるのは困るからな」
それだけ言って軽く持てる量の貢ぎ物を持ってポータルを開いた。我が家に帰ってきた時にシャミアの顔が赤くなっていることに気がついた。
「シャミア、ちょっといいか?」
シャミアの頭に手をあてて自分の額に手をあてる。どうやらシャミアの頭が熱を持っているようだ。これは……マナ欠乏症だな。おそらく貢ぎ物を置いた時に病気の原因も置いて行ったのだろう。この病気の原因は悪意を持った精霊だ。上位精霊ではないので薬で追い出すことが出来る。
俺は草刈りがてら薬草を採っているのでそこからマナ欠乏症に効く、精霊下しを調合した。薬草だけでもわりとなんとかなるが、そこに魔力を込めると大したことのない精霊なので魔力を吸いきれず消滅する、魔力の高い魔族のあいだではこの病気は魔力の衰えた年寄りがかかる病気として有名だった。この病気にかかると長くないといわれたものだ。
薬ができたのでシャミアに飲ませる。ゴクリと飲んだ途端精霊が消滅して熱は引いていった。この程度の精霊を排除できなくなった魔族は死を待つのみだが、魔力の少ない人間では普通にかかる病気のようだ。
「ルード様、なんだか体が軽くなりました!」
「それは良かった。でも今日はもう寝てろ。俺は薬を作らなければならんからな」
「ルード様、無茶しないでくださいね?」
それだけ言ってシャミアは自室に帰っていった。無茶はするなか……そんなことをしているつもりは無いのだがな。
薬草をザシュッとすり潰してあっという間に薬は出来た、これで完璧な治療ができるわけではないのでダメ押しに魔力を込めておく。これでマナ欠乏症には完璧に効くはずだ。
俺はシャミアを起こさないようにこっそりと家を出てポータルを開いた。
貢ぎ物が置かれる部屋に『流行病の薬です』とメモを残して薬を大量に置いておいた。これで足りないということは無いだろう。
しかし人間を進んで助けるとは随分と人間らしい考えではないか。魔王が聞いてあきれるようなことをしているな。そういえば勇者はこういったことの対処などはしないのだろうか? 戦闘狂だったしそういうことを求めるだけ無駄だろうか。
翌々日、何が置かれているか元気になったシャミアと一緒に来るとたくさんの貢ぎ物と、俺へのお礼が大量に置かれていた。村では貴重であるであろう金貨まで置かれていたので俺はそれを大切に使おうとそっとしまっておいた。
そして長々と書かれたお礼の手紙が置かれていたのでそれを回収して、家に帰還した。
お礼の手紙には『病気があっという間に治ったこと』『村が救われたこと』が書かれていた。やはり人間というのは生きるだけでも難儀なのだなと思わされてしまった。
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