女騎士さんはオークに勝てない

「ふひひ……じゅるり」


「シャミア、気持ち悪い顔をして映像を見るな。その魔法を消すぞ?」


「やめてくださいよ! 私のささやかな楽しみなんですよ!」


 シャミアが非常に悪いことを企んでいるような顔で森の映像を見ていたのでチクリと釘を刺しておいた。


「それで、何が面白いんだ? 魔物と戦う勇者候補でも来たのか?」


「いえいえ、けしからん体型の女騎士さんが入ってきたのでどうなることかと思いましてね」


「けしからん体型という情報はこの際必要無いが、助けが必要そうな状態なのか? いえ、残念ながら近くにはゴブリンもオークもスライムも居ませんね」


「お前は一体何を期待しているんだ……」


 その問いにシャミアは迷うことなくまっすぐに答えた。


「私を切り捨てた世界が堕ちていく様ですよ」


 闇が深い……シャミアって案外闇が深いのか? 考え方が魔族のそれなんだよなあ、俺と一緒に住んでいるから影響を受けたのか? 何にせよ教育方針は考えた方が良いかもしれない。俺は魔王に返り咲くようなことはできないだろうし、シャミアには人間として生きてもらうしかない。


「そろそろお昼だし、その女騎士を追い返しに行くか」


「ルード様が情を見せるのは珍しいですね? 大人向けのシーンになるまで放置するかと思っていました」


「お前は俺を一体なんだと思ってるんだ……そんな趣味はない」


 シャミアからの偏見が凄いと思います。というか、なんならシャミアの女騎士観もなかなかに歪んでいるような気がする。


「この女騎士だが、あまりにも体力が感じられない。かといって特技があるわけでも無さそうだしワンドの一つも持っていないので魔法も使えないだろう。こういうのが一番危ないんだよ。この森に来るような奴ではないのだ。


「ソロで十分活躍できる人の可能性もありますし、もう少し見守りませんか?」


「お前の趣味に付き合う気はない。トラブルの元は早めに摘んでおくだけだ」


 俺がポータルを開くと不機嫌そうになりつつもシャミアもついてくる様子だ。精々トラブルを起こすのは辞めてくれと祈ることしか出来ない。


 そして二人でポータルに飛び込んで女騎士の居る場所の近くまでジャンプした。


「……っと、確かこっちの方に……」


「こっちです、あと百歩くらい歩いたところにいますよ」


「詳しいな」


「当然ですよ、観察者の義務ですから」


 勝手に観察者になっているシャミアについていき、多少開けた場所に出ると女騎士はゼエゼエ言いながらベビープラントと戦っていた。


「ファイアアロー」


 魔法を大量に展開してベビープラントをまとめて倒す。一つ一つの大きさは小さいので火事になることはないはずだ。


 敵の反応はもうこの近辺には無い、女騎士に声をかけた。


「大丈夫か? 無茶をしすぎだ、あの程度の敵に手こずるならここから逃げた方がいい」


「あなたは?」


「さあて誰だろうな……あんたよりはこの森に詳しいものだよ」


「助かった、私はジャネル、騎士団で働いている」


「そうか、ジャネルさん、あんたが望むなら森の入り口まで送るぞ」


「しかし私は……」


 そこでは無しにシャミアが割って入ってきた。


「ああもうじれったいですねえ! あんたみたいな雑魚にはこの森の攻略は無理だとルード様は言っているんですよ、素直に諦めなさい」


「しかし……逃げるような恥ずかしい真似は……」


「この先には触手やスライム、オークなんかもいますがそれでも先へ進みますか?」


 その言葉に嫌な感じを察したのだろう。ジャネルは俺に頭を下げた。


「銅貨入り口まで送っていただけないだろうか、礼はする」


「はいはい、こちらとしてもその方がいいんでな、よっと……」


 俺は出口に通じるポータルを開いた。ジャネルは唖然としているがそれをシャミアが押し込んで送っていった。三人でポータルに入り出口から帰り道をジャネルに教えて俺たちのやることは終わった。


「ありがとう、私もまだまだ鍛錬が必要なようだ。いずれまた来る」


「無茶するなよ」


「来なくていいですよ、強い女騎士とか需要無いですし……」


 シャミアがよく分からないことを言っていたが、ジャネルが見えなくなって俺たちは二人で家に帰った。ポータルから出るとシャミアが大きなため息をついた。


「まったくもう……実力くらいは確認してきなさいっての……」


「シャミア、いつもより辛辣じゃないか?」


「だって美味しいシーンを見損ねましたし」


 よく分からないがシャミア特有の趣味でもあるのだろう。後日、俺たちは貢ぎ物の置いてある祠に金貨の入っている財布が置かれているのを見た。


「どうやらルード様が賢者だと気づいていたようですね」


「そうだな、次からもう少し気をつけよう」


 俺は少し不穏なものを感じたが、ジャネルが無事であろう事に安心をしたのだった。

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