森を騎士たちの訓練場にされた
俺が朝食の食器を洗っているとシャミアが声を上げた。
「ルード様! なんか森にいっぱい人が来てますよ!」
なんだ? 俺が元魔王だとバレたりしたのか? まあ人間ごときに負けはしないのだが……
シャミアが見ている映像の方に視線を向けると騎士団といった風体の連中が隊列を組んでリーダーらしき男の話を聞いていた。
「これは……騎士団だな」
「騎士団っていうと領主様の雇っている兵士様ですか?」
「いや、持っている装備の紋章が別の国のものだから違うだろう」
この森は複数の国にまたがっているのでどこから来てもおかしくは無いのだが……
「これはお隣の神聖国のものだな」
「知っているんですか?」
ああ、うん。神聖国を名乗るだけあって魔族が許せないらしく何度も魔王時代に襲われたからな。全部追い払ったけれどさ。
なので出来れば関わり合いになりたくないというのが正直なところだ。あいつらは敵と見なすと『悪魔の使いだ!』と認定してしつこく戦いを仕掛けてくるので迷惑極まりない連中だった。奴らの一番の特徴は諦めの悪さだろう。魔族と一度小競り合いをしただけで十年以上粘着されてうんざりしてしまった。いっそコイツらが来なくなるなら負けを認めてもいいのではないかと思ったくらいだ。
「俺はコイツらと関わりたくない、音声チャネルを開くから何かあったら報告してくれ」
そう言って食器洗いに戻った。するとシャミアから声が上がる、早速何かあったのか……
「この人達は騎士団の訓練でこの森を使うようですね」
「訓練?」
「ええ、この森には邪悪な魔物が多数いるのでそれらを神のために討伐するそうです」
あのエセ神が魔物を倒して喜ぶような奴ではないと思うのだが……人間というのは勝手なものだ。そんな奴であれば魔王を転生させるようなことはしないだろう。
というか本能のままに動く魔物なんて動物と大差ないというのに、魔族由来の生物というだけで魔物を狩りに来たのか……なんというかまあ……物好きだな。
「助けたり追い払ったりしますか?」
俺は迷うことなく答える。
「やめとこう。ああいう手合いとは出来れば関わり合いになりたくないんだ」
狂信者ほど恐ろしいものは無いからな、倒すのは簡単だが喜々として次から次へと襲いかかってくるような宗教大好きな連中とは関わるべきではない。逃げた方が良いに決まっている。
「助けが必要になったらどうしますか?」
シャミアの問いかけはごもっとだが……
「遠隔魔法でなんとかする。とにかく連中とは話したくもない」
断言する俺に奇妙な視線を向けてくる。
「珍しいですね、ルード様なら追い払うか助けるかくらいはすると思ったのですけど……」
「俺は宗教が苦手なんだよ」
邪神様は一応今でも信仰しているが、それでもあの神のクソッぷりを見せられた後ではとてもではないが神などを尊重する気になれない、むしろ滅んで欲しいまで思っている。
「大体シャミアは信仰心があるのかよ? 神が人間を助けてくれるならあんな風に生贄扱いされたりしないはずだろ?」
「確かに扱いは悪かったですが、その代わりにルード様と出会えましたからね! それも一つの御利益なのかも知れないじゃないですか?」
恥ずかしいことを平気で言うやつだ。
「神をろくに信じていないもの同士が惹かれあっただけじゃないか」
運命だなんてくだらない、ただ単に『類は友を呼ぶ』という言葉の通りではないだろうか。
「そうですか、それもまた運命ですよ。ところでルード様、早速騎士団がケルベロスに襲われてピンチの様子なのですがどうされますか?」
「ん」
俺は無詠唱で遠隔魔法を発動した。どうやらこの結界の中なら魔法を自由に発動させることが出来るようだ、便利な結界だ事だな。
ビシャアアアアンと雷が犬の上から降ってきて、大きな犬は力なく倒れた。この程度の相手に出向くつもりはない。
「あんなもんに苦戦しているようならすぐ出て行くだろ。俺は姿を出したくはないぞ。どうしてもと言うならシャミアが自分で出向け、ポータルは開いてやる」
そう言うとシャミアが映像を見ながらものすごく嫌そうな顔をしていた。何かグロテスクなことでもあったかと思って映像を閉じにシャミアの所まで行くと映像を見てしまった。
そこには膝をついて泣きながら神に祈っている集団が移っていた。僅かに聞こえる音声によると、先ほどのことは神のご加護であるそうだ。あの神がお前らみたいな連中を一々守ってくれたりはしないだろうと思うのだが、俺は面倒くさくなったので位置だけ確認して広域に睡眠魔法を使用した。魔物は綺麗に全部眠ってくれたのであいつらでもなんとか出来るだろうさ。
プツンと映像チャネルを閉じて俺はシャミアに言った。
「神をあてにするな、自分でどうにかすることを覚えろ」
それだけ言って、不愉快なあの顔が上手く思い出せない自称神を思い出しながら干し肉をかじった。この前のものと変わらないはずなのになんだか不味い気がしたのは気のせいだろうか?
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