シャミア、やけ酒をする
「ルード様ぁ! 酷いと思いませんかぁ!」
「ハイハイそれは酷いね、うんうん可哀想可哀想」
俺は現在シャミアに絡み酒をされていた。酒は魔族なら幼児の頃からたしなむものとされていたが人間ならどうなのか知らなかった。だからこそ、魔族が大丈夫だったのだから大丈夫だろうと思ったのがまずかった。
――数時間前
「みっつぎものー! みつぎものー! 村人からの貢ぎ物! ルード様! ワクワクしますね?」
「はいはい、期待はしているから精々期待に応えて欲しいよ」
俺たちは例によって貢ぎ物の改宗に祠に来ていた。今日はシャミアを生贄にした村が貢ぎ物の担当だ。やはりシャミアも思うところがあるらしく、この村からの貢ぎ物の時には特別喜んでついて来ていた。
「ルード様ー開けますよー」
「分かったよ。開けたいんだろう。いいぞ、好きなだけ開けろ」
ワクワクで来ているシャミアの邪魔をするほど俺は無粋ではない。自分を生贄にした村からの上納品を自分のものに出来るなどという楽しいことはそうそうないのだろう。
「キャンディに、羊肉に……野菜がたくさん、それと……葡萄酒です! 葡萄酒がありますよ!」
「葡萄酒なんて珍しいものでもないだろう?」
今までだって酒の貢ぎ物は何回かあった。
「今までのお酒はルード様が全部飲んじゃってたじゃないですか! 私は先日誕生日が来たので大手を振ってお酒を飲めるようになったんですよ?」
「へえ、誕生日だったのか?」
人間は誕生日を祝うと聞く。魔族など千回も誕生日を迎えるものが珍しくないので一々祝ったりはしないのが普通だった。寿命の短い人間だからこそ数少ない自分が生まれた日を祝うのだろう。
「そうですよルード様! 今夜の私はお酒を飲んでも構わないのです!」
胸を張って言うシャミア。コイツが喜々としてそう言っているのだから楽しみにしていたのだろう。
「分かった、存分に飲むといい。肴に干し肉を作ってやるからそれで飲め」
「あ……いえ……ルード様に作っていただくのは申し訳な……」
「気にするな、誕生日なんて限られた日数しかないんだ。祝ってやれなかったんだからそのくらいはさせてくれ」
「は……はい! ルード様! ありがとうございます!」
というわけで俺は肉と野菜を袋に入れて持ち帰り、肉を干し、そこに魔力で乾燥した風を勢いよく吹き付けた。熱風であっという間に肉が干し肉になり旨みも増す。魔王時代は部下にやらせていたが方法を聞いていて良かったな。
そうしてお手軽に作った干し肉の塊をナイフで削いで葡萄酒の肴として仕上げた。
家の中ではシャミアがテーブルにクロスを敷いて一緒に奉納されていたワイングラスを並べていた。今までは酒が貢がれたら全部俺が飲んでいたからな。今日からシャミアも飲める年になったわけだ。
家の中に入って更に干し肉を並べる。凝った料理はできないが、簡素に干し肉をかじりながら葡萄酒を飲むというささやかな贅沢をすることになった。
「ルード様! 貢ぎ物の中にチーズがありました! これも肴にしてしまいましょう!」
テンションも高く嬉しそうにシャミアが言うので俺は『構わないぞ』というと、ガスガスと豪快にチーズを切り分けていた。見つけたのはシャミアなのだから肴にする方法も任せよう。
こうしてそぎ切りにされた干し肉と豪快に切られたチーズブロックの二つとグラス二杯の葡萄酒が並んだ。
「じゃあシャミアの成人を祝って! 乾杯!」
「乾杯!」
そして乾杯をすると即葡萄酒をゴクゴクと飲み干した。
「渋いですね……もっと甘いものだと思っていました……」
渋いことに驚いているシャミアに俺はチーズと干し肉を勧めた。
「これを食べながら少しずつ飲んで見ろ。
コクっと飲んで干し肉を噛みしめるシャミア、顔が途端に幸せそうになり、その次にゴクリと飲んでチーズを食べた。
「美味しいです! ルード様は今までこんな美味しいものを独り占めしていたんですか!」
「お口に合ったようで何よりだよ。今日はお前が主役だ。存分に飲み食いするといい」
「流石ルード様! 話が分かりますね」
そう言って飲んで食べ手を繰り返していた。葡萄酒がいくらそれほど酔いにくいといってもそんなに飲んでは……
「シャミア、酒は程々にしておいた方がいいんじゃ……」
「いいじゃないれすかぁ! わらしももうおとななんれすよう!」
ダメだな、話を聞く雰囲気ではない。幸い貢がれていた葡萄酒は一本だったのでそれ以上を飲むことは出来ない。
シャミアは葡萄酒の瓶を傾けても出てこなくなり、口をつけて直接吸い出してそれでも飲めなくなってようやく止まったのだった。
シャミアを寝かせて俺は翌朝早く起きられるように自分の上に光源魔法をタイマー付でセットしておいた。
翌朝、俺の作った野菜スープをシャミアは飲みながら俺の回復魔法を受けていた。飲み過ぎないようにな? と俺は回復魔法を受けるまで、今にも腹の中身を吐き出しそうだったシャミアに強く強く念を押しておいたのだった。俺がお説教をしている間、シャミアは机に突っ伏しながら、なんとか俺の言葉に頷きながら頭を抑えていた。
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