森の中に回復の泉を設置した
『やあ! ルーデルくん、元気でやっているようだね?』
『人の夢の中にまで出てくるんじゃねえよクソ神』
『おやおや、随分な嫌われようだね。魔族を滅ぼせる勇者を作っちゃおうかなー』
『分かった、話くらい聞いてやるから暴力に訴えるのはやめろ』
魔族の言っていることとは思えないが俺は夢の中で神と話していた。いや、やっぱりコイツは邪神なのではないだろうか? 行動が蛮族のそれである、魔族の方が暴力を止めるなんてよほどのことだぞ。
『きみには一つお願いがあってこうして夢の中馳せ参じたというわけさ!』
プライバシーは何処へ行った? 強者は弱者に何をしてもいい魔族メソッドを人間の神が真似するんじゃねえよ。
『で、何の用だ。勇者の討伐をしろとか言われても困るぞ?』
『はっはっは、ぼくの自慢の子たちに焼きを入れろとまで無茶は言わないよ。ただね、きみの住んでいる森だけれど奥まで来る人があまりにも少なくないかな?』
『それの何が問題なんだよ? 実力がない奴が淘汰されているだけだろ』
ここまで来させるだけならお前が力を与えてそいつを送り込んでくればいいじゃねえか。
『それもそうなんだけどね、きみにはもっと人間に関わって欲しいのさ。人間は自分より強いものがいないと分かるとすぐ調子に乗るからね』
『俺をお目付役にするつもりか?』
『無理は言わないよ、ただ人間が調子に乗った時に「でもあの森の賢者様の方が強いし」とにらみをきかせる材料になってくれるだけでいいのさ』
『分かったよ、だが魔族の安全は保証しろ』
『きみも人間になったのにこだわるねえ、そのくらいは構わないよ、ぼくは心の広い神だからね!』
俺はコイツの言いなりにならなければならないのか……何を間違って勇者に負けてしまったのだろうな。
『きみには森の中に回復ポイントを作って欲しいのさ』
『回復ポイント……?』
『そう、人間がやってきた時に休息を取って傷を癒やしたり魔力を回復したりする場所だね』
『そんなものは作ったこと……』
『ああ、きみに一度だけ使える回復ポイント作成の魔法を付与しておいたからそれで作ってくれ、じゃあね!』
『あ! おい! 俺の話も……』
「大丈夫ですかルード様!」
俺は当たりを見渡す。いつもの家だ。何事も変わったことはない。しかし先ほどのことが妄想とは思えなかった。悪夢であったことは確かだとは思うが無根拠ではないだろう。何しろ俺には今神聖な力を心の奥底から感じる、魔王では絶対に得ることの出来ない力だ。
「シャミア、俺は何かしていたか?」
「いえ……ただものすごくうなされていらっしゃったので……」
「そうか、いや、少し悪い夢を見ただけだ」
シャミアは安堵のため息を漏らして俺の手を引いて朝食の並んだテーブルに案内してくる。俺は引かれるままにスープとパンの並んだテーブルで二人して朝食を食べた。
「シャミア、俺は少し出てくる。魔物に食べられたくなければここから出るなよ」
「分かりました。戻ってくるんですよね? 私、またひとりぼっちになるのは……」
「気にするな。絶対戻ってくる」
それを言って安心した様子のシャミアを置いてポータルを開いた。目的地はあのクソ神の言っていたことが確かなら森に入ってしばらく歩いたあたりになるだろう。
俺は森の外周に出てどのあたりに回復ポイントを作るのがいいか確認していった。
ペシッ
「この程度で倒せる魔物ならまだ先まで行けるな」
そうしてしばし歩いてから……
「グルオオオ」
大きな双頭の犬が襲いかかってきたので思い切り殴って吹き飛ばした。この辺で作っておけば問題無いだろうな。
「天に座す偉大な神よ、ここに癒やしの泉を作り給え」
なんつー詠唱で作らせるんだ……信者に一々奇跡を与えるのに自分を称えさせるのか? 俺が神ならこんな自画自賛は恥ずかしくて絶対に出来ないな。
そんなことを考えていると周囲に壁になる植物が生えて神聖な力にあふれた水が湧き出してきた。試しに触って見るとここまで来たのに使った体力が回復したようだった。
そして俺はポータルを使って家に帰還した。
「お帰りなさいませ! ルード様、夕食はご馳走にしましたよ!」
そう言って待っていてくれたシャミアと共に夕食をのんびり食べた。なお、泉を作った位置は良かったものの、回復してスッキリしたら俺に合うという目的がどうでもよくなり帰ってしまう人間が増えてしまったのだった。
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