フォレストドラゴンの供養
「あれ? おかしいな?」
俺が森の異変に気づいて独り言を言うとシャミアが食いついてきた。
「どうかしたんですか? 別に何事もないみたいですけど」
俺たちが見ている森のマップには人間の反応と、魔物の反応があった。幸い人間に危険は無いのだが、一カ所にあるはずの反応が消えていた。
「ここを見てみろ。魔物の反応が消えてるだろ?」
「ああ、なにも表示されていませんね。何かあるんですかルード様?」
別に害があるわけではないのだが……
「ここはフォレストドラゴンの巣だったはずなんだ。移動したのかあるいは……」
「命を落としたかって事ですか?」
「そうだ、フォレストドラゴンはそもそも森から外に出ることは滅多にない。移住したという可能性は低いだろうな」
それを聞いておそらくもう生きていないことを察したシャミアは俺に言う。
「供養してあげるんですよね? ルード様ならそうするって知ってますよ」
確かにその通りだ。しかしそれは博愛の精神などからではない。
「するよ、ドラゴンゾンビとかになられたらたまったもんじゃないからな」
その答えは薄情なものだと思われたらしく、シャミアは悲しそうな顔をした。フォレストドラゴンの死因は知らないが、弱い者は殺されても文句を言えない界隈で長い間生きてきた身としては、それは当然のことであり、情に厚いなど何の役にもたたないことだった。
「ルード様! ちょっと待っていてください!」
シャミアはそう言ってパタパタと家を出て庭の方で何やらごそごそとしていた。急ぎでもないのでそれが終わるのを待っていると、家の中に帰ってきたシャミアは花束を持っていた。
「私も供養したいのでこれを捧げておいてください。墓標とかは無理でしょうけど、花束くらいは置いても文句を言われないはずです!」
果たしてドラゴンが花束を喜んで受け取るような生き物だったかどうかは疑問だったが、文句を言うような種族でもない、なによりもうすでにこの世にいないのなら気に食う食わないは関係ない。それを俺は黙って受け取った。
「じゃあお供えにしておくよ。ドラゴンが居るようなところは少し危ないからシャミアは留守番な」
「はい! 私の分までしっかりとドラゴンさんを弔ってあげてください」
そして俺はフォレストドラゴンが居た地点の近くにポータルを開いてそこに入った。
森の中でももっとも木々が多い場所、そこがフォレストドラゴンの巣だった。
積み重なった木々の中に案の定フォレストドラゴンは命がつきて倒れ伏していた。一応生きているか確認はしてみたがもうすでに完全な死体になっていた。
俺はコイツが生者の世界に迷い出てこないように魔法を使った。
「シャイニングロード」
光の道が天高く伸び、ドラゴンの魂を運んでゆく、魔王時代には使わなかった技術だが必要になれば使えるものだ。
ドラゴンの魂は天に帰り、残りは魂の抜けたただのしたいになっていた。放置しておけば動物の餌になるだろう。もちろん埋めてやることも出来るが、わざわざ食物を奪うこともない。放置して帰ろうかと思った時に……ただの偶然だろう、俺はただそうだとしか思わないのだがフォレストドラゴンの死体がごろんと転がった。なんとなくその死体の下にあったものを見ると、そこにあったのは卵だった。
別に助けてやる義理は無い。そもそも魔族に義理だの人情だのといったものは存在していない。だから無視して頼まれていた花束を置いて帰るだけでいいはずなのだ……そのはずなのだが……
「やれやれシャミアにあてられたかな……」
俺は花束を置いて、ドラゴンの卵に魔法を使った。
「プロテクション」
「マジックバリア」
「サーマルコントロール」
これで孵化までは持つだろう。こんな事をするのは本当にがらではないのだが、なんとなく助けたくなった、それ以上の理由など必要無いのだろう。世の中は理由の無いことであふれている。魔族が他人と喧嘩をした時にその理由を求めるのは無意味なように、きっと俺がドラゴンの卵を保護したのだって理由の無いことなのだ。
そして花束を捧げられたドラゴンの死体をあとにして自宅に帰ることにした。ドラゴンは生まれながらに強いので、卵からかえればそうそう死ぬこともないだろう。あの卵が立派に森を守ってくれるドラゴンになる事を期待しながらポータルに入った。
その後、シャミアにドラゴンはどうだったかと聞かれたので、卵のことは伏せておいて、きちんと供養したことを伝えておいた。シャミアならドラゴンの卵を保護して育てようと言いそうだが、そんなことはするべきではない。この森において自然の摂理をねじ曲げるようなことを無闇にするべきではないのだ。
そうしてドラゴンの供養は終わったのだが、数日後、フォレストドラゴンの反応が消えた地点に新しい生命の反応が出現した。シャミアは気にしていないようだったが、それがしばらく消えないことに俺はどこか安心したのだった。
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