森のアンデッドの始末

「あー……大分増えてきたなあ……」


 俺は結果ないの情報を見ながらうんざりしたように言う。実際に面倒なことが起きているのだが、出来れば勘弁して欲しいというのが正直な事態が起きつつある。


「何かあるんですか?」


 シャミアが俺が投影している結界内の情報を覗き込んで尋ねる。見方を教えていないので、なにが何やら分からないだろうが面倒なことになったことは俺の声音から察したようだ。


「見てみろ。これが森一帯の情報だが入り口付近に紫の点が付いているだろ?」


 俺は森の入り口付近の点を指さして言う。


「確かにそうですね……この点になにか意味があるんですか?」


「紫の点の意味はアンデッドだ」


「なっ……」


 呑気な発言しかしていなかったシャミアに緊張感が出た。コイツの鋼の心臓なら平気かとも思ったのだが意外とビビっている。


「そろそろ駆除しておかないと森の外周がアンデッドのたまり場になるな」


「あのー……ルード様。一つお聞きしたいのですが……もしかして私も見つけて頂けなければそうなっていた可能性も……」


「十分あるな」


 一応当時はアンデッドが少なかったから助かっていたが、リスクは無かったと言えば嘘になる。基本的に魔物の森だからな。実力さえ十分ならここまでたどり着くことも可能だが、人間にはそれが出来るものが少ないらしい。


「ひぇ……」


 コイツは度胸があるのかないのか分からないな……俺には強気に出られる癖にアンデッドは苦手なのか。少なくとも俺は魔王でなくなったとしてもここに出現しているアンデッドに負けたりはしないぞ。


「そう気にするな。今は助かったんだからそれでいいだろう」


 あのエセ神め……人を呼ぶからこうなるんだぞ? アイツ本当に人間を司っている神なのか? むしろ邪神のような気さえしてくるぞ。


「そうですね、私が助かったのはきっと奇跡なんでしょうね……神様に感謝していますよ」


 あの自称神に感謝をする理由など微塵も存在しないはずだが、人間からすれば運命というものを信じているのだろうか? 結局、運命なんてものは実力でなんとかするものだ、俺も魔王時代はそうしてきたからな。


 俺に勝ったのは勇者一人だけだが、それ以外にも魔族に命を狙われることは多かった。実力に自信のあるものが襲いかかってくるなど当然のことだった。俺は邪神様に頼って勝とうなどと言う都合のいいことを考えたことはない。信仰は信仰として、勝ち負けは自分でなんとかするものだった。そういう考えは人間には通用しないらしい。


「神がどう考えてるかは知ったこっちゃないが、少なくとも運には恵まれているんだと思うぞ」


「運……ですか。そうですね! ルード様に出会えたのは私の運が良かったからなんですね!」


「ああ、そういうことだから一丁行って来る」


「え? 何処へですか?」


 察しの悪いやつだな。


「アンデッド共を葬り去ってやるんだよ。表示されているアンデッドが人でなしだとしても綺麗にしておこうと思ってな」


 アンデッドはあまりたまると面倒だからな。定期的なドブ掃除のようなものだ、綺麗にしておかなければアンデッドがアンデッドを増やす事態になるからな。


「わわわ私もいっちょにいったほうがいいでしゅか!?」


「アンデッドが怖いんだろう、素直に家でメシでも作ってろ」


 俺の言葉にシャミアはため息をホッとついてキッチンに向かっていった。俺は外周部に出るポータルを選んで飛び込んだ。


 ――


 そして俺はポータルで森の入り口にやってきたのだが……


「思った以上だな」


 魔物にやられた人間のゾンビも多いが、人間がようやく倒した魔物がゾンビになって復活したりしていた。幸いにもまだリッチーなどはいないようなのでさっさと片付けよう。


『バニシングレイ!』


 淡い光があたりを覆う。神聖属性の魔法は苦手ではあるが使えないわけではない。幸いなことに人間になったせいか神聖魔法を使った時の嫌なひりつくような感覚が少なくなっている。


「人間の身体も良し悪しか……」


 悔しいが神聖魔法を使うなら人間の身体を使った方が便利そうだ。ゾンビには知能がないからこちらの力を見せてやっても引き下がらない。魔王時代はそれにうんざりしたもpのだ。


 ザシュ


 振り向きざまにゾンビの首を落とす。ゾンビはどうして知能がないくせに知能を司る頭を潰されれば死ぬのだろうな?


 ザクザクとロングソードで切りつけていき、その地域のアンデッドはあらかた片付いた。


 入り口にアンデッドが山ほどいるが、幸い他の部分には少ない。ポータルで周囲を回りながら残り少ないゾンビを完全に殺していった。


「ふぃー……疲れた……」


 ポータルで自宅に戻ってきての第一声がそれだった。ゾンビの相手をするのはくたびれるんだよ、肉体的ではなく精神的にだがな。


「お疲れ様です、ルード様、晩ご飯が出来ていますよ」


「じゃあ食べるか。まったく、人間共も蟻のように群がるのはやめてほしいものだ」


「美味しいご飯の時間にアンデッドの話はやめてくださいよ……」


 そうして食事は進んでいった。アンデッドが激減したことから周囲の国があの森は神聖な力に守られているのではないかと噂になった事を知ったのは遙か先のことだった。

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