ジャイアントワームが出てきた
その日、この前ムカついて壊した祠が再建され、請願が出されていた。もう一々壊したはずの祠が復元されていることにツッコミを入れる気はないが、ご丁寧に新しいお願いを出している厚かましさにはあきれたものだ。
「ルード様、また村からの依頼ですか? 頼りにされてますね!」
「嬉しくない……まったくもって嬉しくない」
村の人民は厚かましすぎませんかねえ? 生贄を捧げたと思ったら今度はなにも捧げていないのに平然と要求をする厚かましさ、結構なものだと思いますよ?
再建された祠に置かれていた手紙は『むらの近辺に出てくるジャイアントワームを駆除してください』と書かれていた。自助努力という言葉を知らないむらなのだろうか? せめて自分たちで何かをしたという結果を書くくらいのことはして欲しい。むしろ正気か? とさえ思ってしまう。
「なあ……お前のむらの人間は自分でなんとかしようと思ったことはないのか?」
あきれながらシャミアに問いかける。
「うーん……私が知る限り無いですね。皆さん神様や悪魔様などに祈っていました」
「あくまでも平気で祈るのかよ!?」
思わず突っ込んでしまった。悪魔相手に平気で祈る人間とはまたシュールだな……
「なあ……むらの連中が悪魔にも祈っているんだが、これは当たり前のことなのか?」
シャミアは平然と答えた。
「自分を救ってくれるなら魔王でも聖王でも同じという思想を皆さん持っていましたよ? 今回助けてくれたので賢者様に頼る気になったんじゃないですかね?」
「クズだな……」
あきれ果てたが、ジャイアントワームの駆除ねえ……やってできないことはないが魔王が倒すような相手ではないような気がする。人間が自分でなんとかするべきだろう。自分が人間であるという事実はこの際置いておくこととする。
「なあ、この請願を聞くべきだと思うか?」
そう尋ねるとシャミアは少し考えて答えた。
「ルード様の好きになさっていいのではないですか? 別に私もあの村に帰属意識など無いですし、あの村の人の大半がそうだと思いますよ」
世知辛い話だった。信仰心すらないのか……虚しい話だな。せめてもう少しがんばった形跡でもあれば協力もしてやろうかという気になるのだが、努力を放棄して強者に頼り切りの村人を助けてやる気にはならなかった。
「よし、無視しよう。ジャイアントワームなら人間でも倒せない相手じゃないだろ。精々がんばってくれ」
「ルード様って意外なところで薄情ですよね?」
「悪いと思うか?」
「いいえまったく。あの村の人の自業自得でしょう」
俺に薄情と言ったシャミアもなかなかに薄情な意見を俺に言ってその日はそれで済んだ。翌日……
朝起きて結界の反応を調べてみると祠の方から反応があった。
「ふぇ……どうしたんですかルード様?」
「いや、祠の近くにまた人間がいる」
「はぁ? またですか……ご苦労なことですね」
俺以上に薄情なのではないかという意見を披露するシャミアだが、俺はなんとなく気になったのでポータルでそこまで移動することにした。シャミアは留守番をさせてポータルを開くとそこに飛び込み祠の前まで歩いて行った。
「なんだこれ……」
俺は思わずあきれてしまった。大量の貢ぎ物を祠において追加の手紙が置いてあった。その封筒を破り読んでみた。
『賢者様、どうかこの村をお救いください。現在ジャイアントワームによって農作物を食い荒らされています。このままでは村が食べ物をなくしてしまいます。どうか討伐をお願いします』
随分と勝手な意見だった。要望を聞くも訊かないも俺の自由だが、俺が一度甘い顔をしたから不味かったのだろうか? 明らかに調子に乗っていた。
無視するかな……そう考えて見なかったことにしようとしたところで追伸に目がいった。
『生贄が足りないのならばまだ提供することが出来ますのでどうかお助けください』
冗談ではない! これ以上面倒な生贄を増やされてたまるものか! そんなわけでジャイアントワーム討伐をすることをしょうがなく決めた。シャミアだけでも持て余しているのにまだ生贄をよこされても困るんだよ……
そしてジャイアントワームの出現する地帯である森の中でも枯れ葉の積もっている地帯に移動した。
あの芋虫は魔力に反応する、多少の魔力を出せば向こうから寄ってくるだろう。俺は静かに僅かな魔力を漏らした。
ズモモモモと地面が揺れ動き、巨大なミミズが姿を現してきた。
「フリーズ」
凍結魔法で一体目を固める。チョロい相手だが何体居るのか分からないので少々面倒な相手だ。
ブッシャアああああああああああああ
二匹目が地面を掘り起こして現れたので『ファイアーストーム』を使用して焼き尽くした。このあたりの枯れ葉は湿っているので火災になる心配は無い。二匹目が死んだところで三匹目の反応は無かった。たった二匹のジャイアントワームにあんなにも切羽詰まった要望を出す村人にあきれながら俺はポータルをくぐって帰還した。
「ルード様! もう終わったんですか?」
「ジャイアントワームごときに手こずっていたらこの森じゃ過ごせないよ」
そう言ってシャミアを安心させた。この小屋には特別に強固な結界で囲んでいるので低レベルな魔物がは要ってくる心配は無い。しかし村はそんなものが無いので手こずっているのだろう。あの程度の魔物に苦労しているとはな……
人間の脆弱さにあきれながら、祠に祀ってあった食料の数々をとりだした。
「ルード様!? これが祠にあったんですか!?」
「ああ、どうやら貢ぎ物をすれば助けてもらえると思っているらしい。おめでたいことだ」
新しい生贄については伏せておいた。初代生贄だけでも手に負えないのに二代目三代目と送られてきたらたまったものではない。
「何か疲れのとれる料理を頼む」
シャミアは少し考えてから答えた。
「そうですね……コトコト煮込んだ野菜スープなどいかがでしょう? 癒やされる料理ですよ」
「じゃあそれを頼む」
シャミアに全部任せて俺はソファに横になった。あの自称神がやいのやいのと言わないだけでも十分に安心できた。無茶振りをしてくるものがいないと言うことは歓迎するべき事だ。
そうしてコトコトと煮込まれて出来た野菜スープを二人で食べたのだが、シャミアが『具の入ったスープはやはり良いものですね!』と言っていたのが不憫で、もう少し良いものを食べさせてやろうと思ったのだった。
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