祠を建てられた
人間が森の入り口で入ることもせずうろついていた。追い払っても良いのだが有名になるリスクを考えたら森に入ってこないうちから出向くべきではないな。
「しっかし人間というのはなにをするのか分からないな……」
思わずそう独り言が出てしまった。そうして人間がしばし森の入り口で何かをした後ようやく去って行った。いや、正確に言えば人間の反応が一つ残っていた、寝ずの番か? あのあたりに魔物は来ないが入り口で見張るような真似をされても困る。追い払うか。
ポータルを森の入り口に設定してっと……
迷うことなく光の中に飛び込むと部屋の中から森の入り口近くにジャンプした
そこには木造の建物……といっても小さい物だが……が建てられていた。まるで飼っているケルベロス用の小屋のようなサイズだが一体なんのためにこんなものを作ったのだろう。よく見るとその小屋の扉の前に手紙が一通置いてあった。
またあの偽神かとあきれながらもそれを手に取ると、一般的な神であり超常的な力は感じられなかった。開けて呼んでみるか。
『拝啓賢者様、どうか我々の村で流行っている赤死病を治療してください、お代として村の娘を一人捧げておきます」
俺はその手紙を読んでなんとも言えない気持ちになった。赤死病は魔族のあいだでは致死性のない病だ。そんなものに大騒ぎしている人間というのは理解に苦しむ、しかしそれもまた人間なのだろう。万能薬が確かあったよな……あ、収納魔法の中身は残っているのか? 転生したしな……
収納魔法を使ってみると魔王時代にこっそり集めていた趣味のしながずらっとリストアップされた。どうやら使えたらしい、運が良いぞ。
そこから万能薬を取り出して一本置いて、『薄めて使うこと』と書いた手紙を置いてその場を去ろうと思った。しかしそこで『バンバンバン!』と祠と呼んでいい建物の中から音がした。無視しようかと思ったのだがやはりそう簡単にはいかないか……
嫌気がさしたもののドアを開けると、金色のロングヘアの少女が一人、寝ているところを簀巻きにされたような状態でバタバタ動いていた。さっきの音を立てたのはこの少女か。
魔力で刃を作ってプツリと少女を縛っているひもを切った。そして猿ぐつわを外すとけほけほと咳き込んでから。
「ありがとうございます賢者様!」
そう言って抱きついてきた。いや、俺は賢者などではないぞ。とりあえずこの娘には帰っていただきたい。是非帰っていただきたい。
「お前が誰かに興味はないからそこの万能薬を持って帰ってくれ、村の英雄になれるぞ」
俺は投げやりにそう言った。村が欲しがっている物を持ち帰ることがで来たならこんな扱いをされることはないだろう。俺は生け贄など求めていない……というか生け贄を求める賢者ってなんだろう? 奴隷商か何かと間違っているのではないだろうか?
「無理です」
少女はにべもなくそう言った。絶望だろうか、その瞳の色は暗い深淵の闇のようだった。
「なんでだよ、それがお前の居た村が欲しがってたものだろ?」
「賢者様なら生け贄にされる生娘がノコノコ帰ってきたらどんな扱いを受けるかくらい分かるでしょう?」
まあそれはそれで分からない話でもなかった。人間は時々生け贄や捨て駒を用意して戦ったりゴマをすったりすることがあったからな。ああいう腹の内の見えない連中は好きではない、まだ脳みそまで筋肉で出会うなり殴りかかってきた勇者の方が分かりやすいというものだ。
「つまりなんだ……お前には行く場所も帰る場所も無いというわけか?」
「端的に言うとそうなりますね。ですので賢者様くらいしか頼れる方はいません」
「そもそも俺は賢者ではないのだが……」
そこで少女がふらつき始めた。
「おい! どうかしたのか?」
「いえ、ここ三日ほど塩水のスープくらいしか飲んでいなかったので少々体調が優れず……」
はぁ……俺もとことんお人好しだな……これも人間になったせいだろうか?
「よっと」
少女を抱えるとポータルに向かって歩いて行った。抱き上げた時には少女は裳すでに意識がほぼ無かった。ポータルの位置を知られなくて助かったな。
ポータルに入って俺の家で少女に回復魔法を使う。さすがに空腹は癒やしてくれないので仕方がないのでこの小屋の近辺で採れる野菜と狩りをして仕留めたものを保存していたのだが、そいつを使うことにしよう。
全部を鍋にドボンと入れて炎魔法で沸かす。塩をぱらりと入れてできあがりだ。調味料だの味付けだのと言った細かい作業は不要! とにかく安く、生きていけるだけの栄養をとれるスープのできあがりだ。少なくとも塩水よりは美味しいだろう。
ベッドで寝ている少女に声をかけるとようやく意識を取り戻して俺の方を見た。
「なにか……しましたか?」
ぽっと頬を赤く染める少女、なにもしてねえよ。
「なにもしてない、ほら晩飯だ、これ食べてしばらく休んでろ」
しかし少女は不満げにこちらを見ている。
「私に何かするためにそのスープに何か盛っているかも……」
「そもそもお前生け贄だっただろうが! 今さらなにを失うんだよ!? というか普通の食材しか入ってない、さっさと食え」
スープの入った皿とスプーンを差し出すと少女は恐る恐る口をつけ、不審な味がしなかったようで一気に食べきった。
「ふぅ……さすがは賢者様ですね。立派な料理でした」
「ただのスープだよ、ところでお前名前は? 俺はルードと名乗っている」
「名前ですか?」
「そうだよ、知らないと呼ぶ時に不便だろうが」
お前と呼ぶ相手と一緒に暮らしていると空気が詰まりそうなので名前を聞いておかないとな。
「私はシャミア、ただの貧乏人です」
「そうか、深くは聞かないが行くあてはあるのか?」
「えっ?」
「え?」
「賢者様……ルードさんがずっと私のご主人様になってくださるのでは?」
なにをどうすればそんな答えに行き着くんだ。常識で考えろ。
「賢者様でも喜びそうな私を生け贄にすると村の皆さんが言っていましたが……」
「本当にロクな村じゃないのな!」
クズの集まりじゃないか……赤死病で切羽詰まっているとはいえ見ず知らずの者に生け贄なんて捧げるものじゃないぞ……?
「お前、復讐とかは考えてないのか? 俺の力があれば出来るぞ?」
「私は村でも役立たずでしたから……お父さんもお母さんも赤死病で死んじゃいましたし」
「……悪いことを聞いた」
反応に困ることを言われた。聞くべきではなかったな。生け贄に選ばれた時点でその者がどういう環境に居たかは予想するべきだった。
「私をおいてくださらないんですか?」
「はぁ……シャミア、お前がいたければここに居ていいぞ。家事は分担だがな」
「そんな! 置いていただけるなら全部やりますよ」
「いや、後々請求書を回されても困るんでな、平等にする」
こうして俺たちは家事の分担を決めたのだが、シャミアが魔法を使えないためどうしても俺の分担する部分が多くなってしまった。料理をするにも火をおこすのに魔法が使えないと不便極まりないからな。掃除は魔力で埃がつかないようにしているからすることは少ないしな。
「じゃあ食べ終わったらおとなしく寝ろ、一日寝れば元気になるだろうさ」
「え……でもベッドは一人分しか……」
「気にするな、固い寝床は慣れている」
魔王暮らしをしていた頃は大理石のベッドとかで寝たこともあったからな、見た目極振りのなんとも寝心地の悪いベッドだったが、おかげで環境が悪くても眠れる力はついた。
「じゃあ明かりを消すぞ」
「はい……ありがとうございます」
俺はそれを聞いて魔力ランプの光を消し、二人でのの夜を過ごすこととなった。
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