「長瀬さん」

 少年はするりとふところに滑り込んだ。

「100点取ったので、ご褒美くれますか……?」

 長瀬は真顔で言った。

「ああ。よく頑張りましたね、幸人さん。何がほしいんですか?」

「キ……キス……」

「釣りですか? 休日に行きましょうね」

 長瀬はロボットのような人間である。およそ人間の情というものを解さない。幸人はむーと唇を尖らせた。

「違います。マウストゥーマウスです」

「マウストゥーマウス……? 口吸いですか?」

「いや語彙古っっ」

 思わずツッコむ幸人。

「なんでそんなことをするんですか?」

「なんでって……察してよ」

「ええと……幸人さんは訓練をしたいということでしょうか」

「違います〜」

 幸人はガバっと長瀬に抱きついた。

「僕は長瀬さんのことが好きなんだよ」

「……?」

 長瀬はついと顔を逸した。

「すみません、その感情を私は知らないんです」

「知らなくても……僕の愛を受け取れはする?」

「いや……未成年とそういうことをすると逮捕されますので」

「それはそうだけどさ……僕誰にも言わないし」

「お互いとお天道様さえ見ていれば、それはいつか明るみに出るものです」

 長瀬はそっと幸人の額を撫でた。

「貴方が大人になって、それでもまだ私のことを好きでいてくれるのなら……またその時に考えましょう」

「ずっと好きだよ」

 幸人はすりっと長瀬の頬に額を擦りつけた。

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