出会い直し

 寝起き。携帯が鳴る。俺は手探りで手に取り、耳に当てた。

「もしもーし?」

「純。あんた寝起きなの? 声が寝てるよ」

「なんだよ母ちゃん」

「さっきうちに川村さんとこの長男が来てね。お蜜柑もらっちゃった。あんたんとこに送るよ」

「……」

「亮ちゃん、少し見ないうちにイケメンになっててよぉ。すらっとしてて驚いちゃった」

「少しって、十年前だろ」

「純も今帰ってきたら亮ちゃんいるよ? 話したいんでないかい」

「……別に」

「昔はあんなに仲良かったじゃないか。喧嘩したんか?」

「……そういう訳じゃない」

 その後も色々言ってきたが、ほどほどのところで電話を切る。川村亮。ずきりと胸がうずく。幼なじみ。初恋の相手。十年前に東京に行ったきり、連絡を取っていない相手。好きだった。好きだからこそ、迷惑をかけたくないと思った。何度も電話がかかってきたから、買い替えた。想いを隠して会うにはあまりにも思い出が多すぎた。

 PCを開く。仕事を始める。しばらく経って、コーヒーを淹れた。さっきは母親相手に思春期みたいな態度を取ってしまった。俺もまだ完全な大人にはなれそうもない。

 また携帯が鳴る。知らない番号だ。耳に当てる。

「もしもし」

「……純?」

 少しの間の後、ばくばくと心臓が鳴りだした。少しかすれた甘い声。亮だ。なんで。

「……亮」

「よかったー! やっと連絡取れた。ずっと俺のこと避けてたでしょ! おばさんから携番教えてもらってさー、よかったよほんと」

「……なんで」

「だって、俺らずっと仲良かったじゃん。ひどいよ、純」

 俺は泣きそうになった。なんでまた俺の人生にお前が現れるんだよ。忘れたかったのに。どうして。

「住所も教えてもらったから今度顔出すよ。いい? いいよね?」

「……だめ」

「なんでよー、俺なんか怒らせた? 謝るから」

「……亮」

「どしたの? 純。……泣いてる?」

「……今度会うとき、言わなきゃいけないことがある」

「……うん、分かった」

 携帯を切って空を見る。飛行機がこちらに飛んできていた。真っ直ぐに、迷いなく。亮は受け止めてくれるだろうか。声を聞いたらもうだめだった。会いたくなってしまった。これでよかったんだよな?

 やがて開くドアを俺は見つめた。

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