第26話 4人目

第26話


ミカエラ(綾子)side


「お父さん………」

「東くんったら………」

「そんな寂しそうな顔するなら、喧嘩しなきゃ良いのに………」


少なくとも、俺と私はそう思う。


だが、これも一種の親子の形なのだろう。


最後の最後まで、勇者と俺と子供達が揃った上での喧嘩など出来なかった。


だから、ほんの少しだけ羨ましい。


『来てくれ、魔────』


えっ、勇者────


「ごめん、早柚!お婆ちゃん!ちょっと行ってくる!!!」

「えっ───理解わかったよ。でも、無事に帰ってきてね。」

「行ってらっしゃい、綾子ちゃん。」


早柚は何かを察した様な顔をし、お婆ちゃんはノホホンと送り出してくれた。


急げ、誰よりも早く身体を動かせ!!


間違いなく、勇者に何か起きてる!!


に、何者かが何かをしたんだ!!


許せない、絶対に地獄へ────


「見つけた。」


勇者の反応をやっと捉えた。


こっそり気が付かれない様に探知魔法とかを二重三重に重ねて掛けてて良かった。


でも、コレは………


「何をしてるんだ、お前………」


其処にはちゃんと勇者が居た。


但し────


「私は我が愛を私なりの方法で愛でてるだけだよ。」


真っ二つに両断された勇者を、愛おしい物を見るかの様に寄り添い、抱きかかえていた女も居たが。


魔力は感じない。


見た所、凶器も見えない。


なら、どうやって、こんな芸当を?


────いや、今はそんな事はどうでも良い筈だ。


「殺す。」


目の前のゴミを凌辱し、犯し尽くして、蹂躙しなくては───


「待って、ミカエラ。」


あ゛あ゛?


俺の意識を乗っ取るんじゃねぇ!


「冷静になって、優先するべき事があるでしょう?本当に貴方の勇者様が大事なら。」


う゛っ、確かにそうだな………


よし、頭が冷えた。


神級回復魔法エクストラ・ヒール。」

「何それ、そういう時期?」


煩い、そういう時期って何だよ!?


『妄想逞しいねw』って意味よ。


はぁ!?


絶対にぶっ殺してやる………


「助かったよ、魔王。」


と一緒にな!!


☆☆☆


飛鳥(東&クロウ&勇者)side


「えっ!?」


驚いた拍子に、俺をぶった斬った女が俺を落とす。


くそっ、治ったばかりだから普通に痛い。


それよりも………


「しかし、魔法使うの遅くねぇか?」


後少しであの世に行く所だったぞ?


「煩い!!ちゃんと治したんだ、感謝するべきだろうが!!」

「そうだな、改めてありがとうな、魔王。」

「お、おう………」


あっ、照れてる。


こういう所は可愛いんだがなぁ………


「それよりも、早くこの女を殺そうぜ。」

「待て!先に距離を開け!!」


血気盛んに攻撃を仕掛けようとする魔王を押し退け、一緒に下がる。


だが………


「くっ、腕が………」

「なっ!?あの女、何をしやがった!?」


これ位なら大丈夫だよ、魔王。


後でお前にくっつけて貰えば良いし。


しかし、は生まれ変わっても健在ってか?


「ああ、気持ち悪いなぁ………」

「だろうな、無為むい。」

「やっぱり、私の事が理解わかるんだね♪流石は我が愛♡」


そりゃ、な………


「なぁ、コイツも俺達と同じ………」

「ああ、前世で色々あった女だ。」


規模を除けば、お前と同じ枠に入るだろうタイプだ。


「でも、我が愛が居ても中和できない不快感を覚えるよ。」


彼女はそう呟いた瞬間、俺達を真っ直ぐ見据える。


そして、手を真っ直ぐに向け………


「私に殺意を向けて良いのは我が愛だけ、私が殺意を向けるのも我が愛だけなの。なのにさ………」


────来る。


「有象無象の羽虫どもが我が愛や私に感情を向けるなんて、万死値するよね♡」


無為、俺の前世で出会った少女。


この名前が本名か偽名かは最後まで不明だったが、1つだけ言える事がある。


コイツは愛に狂った………


「さぁ、此処から先は私のセカイだよ♪」


────最悪の殺人鬼だ。


続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る