第9話 二人目
第9話
『貴方様、お疲れ様です。』
『今は二人きりなんだ、口調を崩しても良いんだぞ。』
『いえ、もうコレの言葉遣いは既に日常、私の根底に刻み込まれています。なので、了承しかねますね………』
『だよな…………』
薄暗い部屋の中、高貴な服を身に着けた男とメイド服を身に着けた女が居た。
『しかし、相変わらず好きだな、お前はその服が。』
『ええ、コレは私の魂ですから。』
『お前、立場的には事情があったとは言え、そんな身分が低い物を着れる立場じゃないだろうに………』
『────でも、そうなったお陰で貴方様に会えましたから。』
『お、おう………』
色々あったのだろう。
そして、捻れに捻れて、今の形に落ち着いたのだろう。
それを俺は………識っている。
いや、思い出したが正しいのだろうか?
『もし、私の言葉遣いを崩したいのなら、素の私が見たいと言うのなら………』
『────言うとなら?』
『何時もの様に、これまで通りに、これから先もそうである様に………』
彼女は嬉しそうに、期待する様に笑いながらそっと口付け………
『────私を愛し続けてくださいね、貴方様♡』
☆☆☆
「東くん、もしかして………」
「────ああ、コイツも同じだ。」
「成る程、ぽっと出の偽幼馴染が私に無駄で無為で無意味なマウントの理由はコレね。」
「ふふっ、そうだよ?元幼馴染ちゃんには辛い現実かもしれないけど、残念だったね。」
「残念はそっち。貴方は前は兎も角、千歩譲って幼馴染だとしても、私は今も前も、幼馴染。ずっと、永遠に愛に満ちた幼馴染。」
「正確に言うと、前は主人とメイド(立場は此方の方が上)だけどな………」
「くっ、ズルい!羨ましい………」
「偽幼馴染、立場
何のマウントを取り合ってるんだ、コイツ等は………
まぁ、説明の手間が省けたのは良かった。
何も無しでの説得とか、無理ゲーに等しいからな………
「しかし、どうした物か………」
「どうしたの、東くん?」
「大丈夫、貴方様?」
心配してくれて、ありがとう。
でも、な………
「この状況について、ちょっと、な………」
「────そうだね、確かに。」
「────うん、
流石だな、お前ら………
俺が今、現在進行系で思っているのは………
「────俺は一体、どうしたら良いんだろうな?」
俺の前には二人の女性。
かつて、愛した女達………
そして、その内の一人は記憶を思い出す前に惹かれていた女の子。
全く、ままならな過ぎて、死にたい気分だ。
死が救済になるとは微塵も思ってはいないのだが………
「────全く、仕方ないわね。」
「────ええ、本当にどうしようもない、貴方様。」
二人が俺を慰めるかの様に、抱え込む。
そして、決意に満ちた目線を向ける。
────ああ、全く逸らせない。
多分、逸しちゃいけない物だ。
「お互いに思う所はあるけどね、休戦と行こうじゃないの、元幼馴染ちゃん。」
「煩い。でも、賛成。」
お互いに煽り合いながら、俺の頬へと口付ける。
そして、蕩けそうな笑みで………
「「貴方(様)の傲慢で強欲な願い、私達が叶えてあげる。」」
────俺にはその言葉は『だから、離さないでね?』と聞こえた。
多分、気の所為では無いのだろう。
だって、その時のコイツ等の目は………
ブラックホールの様に漆黒だったから………
続く
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