一人目 佐藤 ここあ

第2話 事故とキス

第2話


「遅いな、アイツ………」


忙しく様々な人が行き交う駅前。


そこでポツンと一人で待ち人が来るのを今か今かと待つ男が居た。


この男の名は、阿澄あすみ 飛鳥あすか


友達が少ない事を除けば、普通の男の子である。


そんな彼が一体誰を待っているのかというと………


「何で言い出しっぺのお前が来てないんだよ、和泉いずみ、………」


彼の幼馴染の女の子、井伊いい 和泉である。


「昨日、俺の部屋を荒らすだけ荒らしてまで誘った癖に………」


それは昨日の出来事。


急に彼女がノックも無しに入り込み、何故かベッドの下を除いた後に、押し倒された。


ぶっちゃけ、重かった。


そのせいで、変にドキドキしたり、身体が反応して気不味くなる事は無かったのは皮肉な話だ。


で、そんな事をしてまで、彼女が俺に言ってきた事というと………


「新しい服を買うから、付き合って。ついでに荷物持ちも。」


おそらく、後者が本音だろう。


長い付き合いだ、それ位は解る。


というか、何回も似た様な事が有ったから、慣れたのもあるのだ。


────嫌な慣れだな、うん。


だが、そんな彼女が待ち合わせ場所に来ていない。


口では文句を言いつつも、実はかなり心配している。


もしかして、何かあったのでは………


【プルルル、幼馴染からの電話だよ♪プルルル、幼馴染からの電話だよ?】

「ぴゃつ!?」


変な着信音に、思わず変な声が出る。


和泉の奴、また俺のスマホをイジりやがったな!?


ていうか、いつの間にイジったよ!?


────って、今はそんな事はどうでも良い筈だ!


電話をかけてきたという事は、何かトラブルが起きて………


「もしもし、和泉?」

『ごめん、風邪引いた。』

「うん?」

『風邪、引いた。行けない、ごめん。』


と、自身の事情を端的に話す和泉。


何時もこうだ、コイツは端的過ぎて、色々な所を端折りやがる。


その後、そんな光景を見かねたのか、アイツのお母さんに電話相手が変わり、大体の事情を知れた。


何でも起きたら風邪を引いていて、熱を出していたらしい。


で、それでも行こうとする和泉を何とか取り押さえ、俺に電話をかけさせた様だ。


「はぁ、無茶しやがって………」


でも、そこまで俺とのお出かけを楽しみにしててくれたというのは………


────ほんの少しだけ、嬉しかった。


「しかし、どうした物か………」


予定が無くなったから、何をするか困ってしまう。


帰っても良いのだか、折角此処まで来たのに直ぐに家へ直帰するのも癪だ。


「本屋で新しい本でも漁るか………」


そう思い、本屋が在るショッピングモールの方へと歩き出す。


────だが、俺は気が付かなかった。


そこに何故か突然飛んできたキツツキ………ではなく、突然転がってきたビール缶が足元まで来ている事を。


そして、そのまま踏んでしまい………


「なっ、危なっ!?」


当然、バランスを崩した。


それだけでなく、前へと倒れ込む。


本来なら、俺が傷付くだけだった。


だが、その前に見知らぬ女の子が居た。


避けようとしたが、避けれず………


「ぐっ!?」

「きゃっ!!??」


最悪な事に、この子を押し倒してしまった。


「ん?柔らか………」


昔、何処かで味わった様な感覚だ。


柔らかくて、何処か濡れている様な………


「─────まっ!?」


俺はより最悪な事態に気が付いた。


何故、柔らかく感じたのか?


そして、何処か濡れている気がしたのか?


その答えは…………


「にゃっ、す、すみませんでした!!」


俺と押し倒してしまった女の子の唇が重なり合った。


────つまり、接吻状態、簡単に言えば、キスをしてしまっていたのである。


続く

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