己の心

「はぁ………」


 リンは悩んでいた。


「リベンジするって、決めたんだけどなぁ………」


 だけど、リベンジするにはまだ遠い。


 パウ・ベアーは8階層。リンとメロの適性はまだ3階層程度。これでは、まだリベンジは遠そうだ。


「リベンジって、なんの話ですか?」


 と、メロが話しかけてきた。

 現在場所はリンとメロの部屋。

 リンは窓から夜空を見ながら、独り言を言っていたのだ。


 現在、リンもメロも既に風呂に入り、寝る準備を整えたところだ。


「それは………」


 リンは話そうか悩む。だって、それはメロは関係の無いことだから。


 と、そうやって悩んでいるリンの顔を見て、メロは溜息を吐きながら言った。


「ずっとですね」


「………え?」


「私が、あなたの思い悩んでること、言い難いことを聞いた時、ずっと悩んでるみたいな、迷ってるみたいな顔をしてます」


「そう、か………?」


「そうです。このギルドで、一番あなたと一緒にいる私が断言します。あなたは、ずっと迷った表情をしてますよ」


 メロはそう言ってリンから離れると、椅子に座って


「よかったら、教えてくれませんか?あなたが悩んでることの一端だけでも」


 リンはまた悩む。先程考えたとおり、これはメロには関係の無いことだ。


「巻き込むかも、しれないぞ?」


「私たちはパーティですよ?悩みなんて、共有するものです。それに」


「それに?」


「あなたに悩まれたままじゃ、私も気になって、迷宮探索に集中できないじゃないですか」


 そう言われると、リンは弱い。


「じゃあさ、ちょっと聞いてくれないか?」


 リンは話した。初めての死闘を。パウ・ベアーとの戦いを。


 全てを聞き終えたメロは、どこか納得したような様子だった。


「そうですか………それで、リベンジを」


「ああ。でも………」


 パウ・ベアーが強い。そんなこと、リンはわかっている。だって、初めて戦った強敵なのだから。


「私は………」


 そこで、黙って聞いていたメロが口を開いた。


「私は、あなたがどう考えて、どんな気持ちでリベンジを決意したのかは、わかりません。わかります、なんて軽はずみに言ってはいけないことだとも思います」


「………」


「でも、無理に期限をつける必要もないんじゃないかと思います。あなたは、すぐにリベンジをしなければいけないほど、今も追い詰められていますか?」


「それは………」


 今のリンは、前に比べると、少しは心の余裕ができたのかもしれない。だが、それはただの慢心ではないだろうかと、怖さもある。


「いいんですよ。悩んで出した答えが、満足できる結果なら、精一杯悩んだ方がいいって、私も言われたことがありますから。たとえどんな選択をしても、リンが最後に後悔しなければ、いいんじゃないでしょうか?」


「………それも、そうだな」


 リンは伸びをしてから、窓から離れた。


「さて、寝るか」


「………そうですね」


 そんなリンの様子を、メロは優しい目で見ていた。

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