条件

十五話目。今のリンくんのレベルと一緒だね


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「久しぶり………」


 一週間前に無茶なお願いをして迷惑をかけた相手がいる。リンはそれだけで少しだけ気まづくなったが、それをあまり顔に出さないようにして返事をする。


「そうだな………久しぶり」


「!うん!」


 マロンは自分のことが誰かの記憶に残りにくい人種だと思っているので、まさか覚えていて、しかも返事をしてくれたことに嬉しく思いながら頷いた。


「なんだ?そんなに嬉しそうな声出して………そんなにいい事があったのか?」


「えっと、そうだけど、ね………」


 まさか覚えてくれていたことが嬉しかった、なんて上手く言えず、マロンは言葉が詰まってしまう。マロンは、会話が少しだけ苦手なのだ。


「ギルドに用があったんだろ?俺はもう行くから………」


 リンはマロンの用事を妨げないように気を使いながら去ろうとして………


「ちょっと待って!」


 以前マロンにそうされたように、リンはマロンに腕を掴まれた。


「ちょっと待って。聞いて欲しい、ことがあるの」


 聞いて欲しいこと。そう言われても、なにかマロンに言われるようなことがあったかとリンは記憶を掘り返して


(そういえば、なんとかするって言ってたな………)


 リンとしてはそれで終わりでも良かったのだが、相手はそうはいかず、今日までなんとかしようとしてくれていたみたいだった。


「………義理堅いんだな」


「当然………」


 その当然をできない人間の方が多いんだよなとはリンも言わない。


「じゃ、少し話そうか」


 そういうことで二人は先程までリンが座っていた席に座って話すことになった。視線は多少集まるが、二人ともそれを一切気にしない。


「それで、ギルドだったな。俺のためにありがとう」


「ううん。これは、迷惑かけたその、謝罪みたいなものだし。それに………」


 そこでマロンの表情が少しだけ曇る。


「それに………まだ無理そうだし………」


 無理そう。つまり、マロンは一度はリンの加入をギルド長に相談してくれたということだ。


「まあ、無理でもしょうがない。恩恵は大きいが、難しいとも思ってたしな」


 入れたらラッキーくらいの気持ちだったのだ。リンはあまり気にしていない。だが、それではマロンの気が済まない。それに


「ううん。それでもね、クロムも条件付きなら良いって」


「………その条件って?」


 ラッキーくらいに考えていたものの可能性が見えてきた。


「うん。クロムは君に『実力と信用を示せ』だって」


 実力と信用。つまり無能を入れる気も無いし、ギルドメンバーや他の人にとって不利益になるような人物も入れる気はないと。難しいように感じるが、逆に言えばそれさえ達成出来ればリンはギルドに入れる。


「………上等」


 可能性が一桁以上にまで跳ね上がったのだ。これで挑まなきゃ冒険者じゃない。


「それで、それってどうやって示すんだ?」


 実力ならば戦闘だろう。だが、信用はそうはいかない。


「それは大丈夫」


 近くに潜伏に特化した団員でも潜ませてリンの動向を探るのだろうかとリンは考えたが。


「私が一週間一緒にいるから」


「………ん?」


 マロンの言葉の意味がわからず、リンの思考は止まってしまった。


「………ごめん。もっかい言ってくれる?」


「私が一週間一緒にいて、君のこと見るから」


 つまり、マロンが一週間の間一緒に森を探索したり依頼を受けたりしてリンの人となりを調べるということだ。


「じゃあ、よろしくね」


 マロンはリンがNOと言う可能性を考えていないのか。というか、リンよりも格上のマロンを動向させてギルド長は本当にリンを信用できるのか。とか、色々考えるも、結局それ以外に答えは出ず。


「じゃあ、よろしく。えっと………」


 そこで二人は思い出した。そういえばきちんとした自己紹介してないな、と。


「とりあえず、自己紹介するか」


 名前は知っているが、それはマロンが一方的に教えてくれただけ。

 マロンも、ギルドの受け付けの人が教えてくれただけ。


「俺は、リン。リン・メイルトだ」


「私はマロン・カスタード。よろしくね」


 こうして、二人の関係は、始まった。


────────────────────


実はなんやかんや自己紹介してなかったんだよねこの二人

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