ステータス

連続更新五話目〜


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 目を開けると、見たことの無い天井が視界に入った。


「知らない天井だ………」


 そんな、使い回されたありふれたネタを呟き、上半身を起こす。

 天井は見たこと無かったが、部屋は見たことのあるもので、リンは周囲を見渡した。


「ギルドの、治療室か………」


 どうやら、熊型の魔物が恐れた原因の人物に救われたようだ。

 寝かされていたベッドから降り、軽くジャンプして体の調子を確かめる。


「異常なし、か………」


 まあ、異常があっても困るが。

 その後もしばらくの間体をグルグルと動かしていると、治療室の扉が開いてリンの担当であるミカンが入ってきた。


「リンくん。起きたんだね」


 と、治療室に入って立ち上がっているリンの姿を確認したミカンは、安堵の息を吐きながらそう言った。


「迷惑かけたな。治療代はツケで頼めるか?今は持ち合わせがない」


 それに加えて、リンは自分を助けてくれた人にも礼をしなければいけない。しばらくは節約をしなければいけないだろう。


「ううん。それはいいの。それよりも………」


 しかし、あろうことかミカンは治療代はいいと言い、別のことを話そうとしてきた。


「リンくん、パウ・ベアーと戦ったって?なんでそんな危険なことするの!?」


「………強くなるためだ」


 ミカンのそんな言葉も、パウ・ベアーってなんだ?と思いながらも律儀に答える。


「強くなるためって………それで死んじゃったら意味ないんだよ!?」


「問題ない。俺が死んで悲しむやつなんていないからな」


 どうせ、仮初の命だから。


「………私は、リンくんが死んじゃったら悲しいな」


「会ったばかりの一冒険者が死ぬのが、か?」


 だが、ミカンが悲しそうな表情で言うのに対して、リンは冷めた表情と口振りでそう言う。

 ミカンが思うに、リンは自分の命の価値を低く見積もりすぎている。どうせ誰も悲しまない。本気でそう信じこんでいるのだ。


 どうやってリンの無茶を止めるか。正直、ミカンにはリンの暴走を止める手段が思い浮かばなかった。


「取り敢えず、ステータスの更新をしてくれ。経験値も相当溜まってるだろうしな」


「え?あ、うん………」


 いっその事ステータス更新を脅しの材料に使うことも考えたが、それをしてもリンは無茶をしそうな気がするので、リンの安全管理のためにミカンはステータス更新の手続きをするのだった。



■■■



「じゃあ、今日もこの水晶に手を乗せてね」


 リンはギルドの治療室にて、ミカンが持ってきてくれた水晶に手を乗せた。

 この水晶はステータスを更新するための魔法道具マジック・アイテムで、自身に溜まった経験値を還元させる効果を持っている。


 個人で所有している人は少なく、冒険者の殆どはギルドにお金を払ってステータスの更新をするのだ。


「はい。リンくんのステータスでたよ。今からコピーするからね」


 水晶が経験値の還元を終えると、水晶の横に紙を置くだけでステータスが紙に印刷される。そのシステムを用いて、冒険者にステータスを報せることができるのだ。


 やがてステータスが印刷された紙をミカンから受け取り、リンはその内容に目を通す。


────────

名前:リン・メイルト

Lv.8→13

ランク:E

筋力:85→147

体力:94→157

耐久:38→107

敏捷:115→160

魔力:103→159

精神:46→122

〈所持魔法〉

【クリエイト・ウォーター】

・市販魔法

・水生成

偽りの英雄ファルシュ・ユナイト

・昇華魔法

・身体能力急上昇

・発動対象は術者限定

・発動後、要間隔インターバル必須

愚者の足掻きフェルズ・アダマント

・昇華魔法

・攻撃力急上昇

・一撃必殺

・威力は込めた魔力量に依存する

〈所持技巧〉

【未来視】

・数秒先の未来を見ることが可能

【操作画面】

・自己ステータスの閲覧可能

・マップ表示

・アイテム収納空間作成

【気配感知】

・市販技巧

・半径100m以内の気配を感知

【百折不撓】

・自己再生

・心が折れない限り体は再生する

・魔力や体力にも適応

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 ミカンが改めてリンのステータスを見ても、規格外だと思わずを得なかった。


(レベルの上昇が早すぎる………)


 ステータスの上がり幅こそ普通より少し上くらいだが、それでももうレベルが10を超えたのだ。

 成長促進の為のスキルも持っていないのにこの速度。

 本来、レベル10を超えるのに平均半年はかかるのに、リンは半月で10を超えた。

 10を超えるとランクアップが可能になり、Eランクのレベル上限である20から、Dランクになりレベル上限も40まで上がる。


(ランクアップには、ギルドの試験を受けなきゃいけないけど………)


 ランクアップ試験。冒険者ギルドにお願いすれば、お金を必要とするものの、比較的安全に次のステップに進む方法だ。だが、それとは別の方法も存在している。それが


(圧倒的格上を倒す………格上殺しジャイアントキリングを達成するか………)


 普通ならお金を払って試験を受ける。その方が簡単で、安全だから。だが、その分成長は遅くなる。

 そしてもう一つである格上殺しジャイアントキリング。これはリスクが大きすぎる。今回リンはパウ・ベアーと戦い、怪我を負った。だが、マロンは言っていないが戦闘中にリンはパウ・ベアーの腕を吹き飛ばしている。パウ・ベアーは本来Dランク冒険者がパーティを組んでも一体を討伐するのも困難な相手。そんな相手をリンは倒しこそしていないが、深手を負わせたのだ。これはランクアップの条件に十分に該当する。

 惜しくらむは、その時のリンのレベルが足りなかったことだろう。


「兎に角、今日は更新もしたんだしもう戻ってゆっくりしてね。強敵と戦ったばかりなんだし」


「………わかった」


 しばしの沈黙の後、リンは立ち上がりゆっくりと部屋から出て行った。


「きっと………無茶するんだろうな………」


 まるで自分のことなどどうでもいいと言わんばかりのその歩みに、数々の冒険者を見てきたミカンは嫌な予感が頭の中を過ぎる。上手くいけば成長するだろう。だが、途中で転んでしまえば?その時はきっと


「立ち上がれないだろうな………」


 そうならないように、ミカンは祈ることしか出来なかった。

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