第4話① 耕造、85歳の恋(1)

「たくっ・・・靴下の引出しはどれなんだ?」

男は苛立ちながらタンスの中を調べていた。


「いつも、俺に言わないで場所を変えるんだから・・・」

ガタン、ガタンと引出しを乱暴に開け閉めしている。


「おーい、安子っ・・・安子ぉ・・・」


探すのを諦めて妻の名を呼んだ時だった。

タンスの上の小さな仏壇の写真に気づいたのは。


妻の微笑む顔があった。

そう、彼女は二年前に死んだのだ。


「や、安子・・・」

耕造の呟きは力なく、誰もいない部屋に響いていった。


※※※※※※※※※※※※※※※


「安子・・・」

ウィスキーの酔いの中、今夜も妻の思い出に浸っている。


リビングのソファーの前のテーブルには大ぶりのグラスが汗のように水滴を作っていた。

カラリと、グラスの中の氷が音をたてた。


誰もいない部屋は静かで、そんな音さえも今の孤独な男には慰めなのかもしれない。


正面に据えてある大型テレビは黒い画面のまま、最近は電源を入れられることも少なくなった。

妻が生きている時はドラマを観ながら、自分の呟きにうっとおしいほどのツッコミをいれてきたのに。


「どうして、そんなデリカシーの無いことを言うんだ?」

酔っていると、こらえ切れずに言ってしまう。


その度にふくれ面をする妻だった。

それが、今はいない。


どうして、いないのだ。

どうして、いてくれないのだ。


うっとおしくても、いいから。

デリカシー、無くてもいいから。


ああ・・・。

眠くなってしまった。


どうか。

夢の中でアイツに会わせてくれませんか?


神様・・・・。


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