1章・第10話 協力者たち
「いやはや。やっぱり、バレてたかあ」
「だから。慎重にって言ったのに」
俺の呼び掛けに、前の町で知り合った二人組の冒険者パーティーが民家の陰から姿を現した。
「いつ気付かれたのかねえ」
一人は無精髭で盗賊のような薄汚れた格好をしたトラックス、
「昼間。急に振り返った時、でしょ」
そしてもう一人は緑のローブに眠そうな目をしたプリム。
「アンタらには聞きたいことが山ほどある。だけど今はそれどころじゃない。
協力してくれ」
何故俺を尾けていたのか、俺の事をどこまで知っているのか、そもそも二人は何者なのか……他にも問い詰めたいことは色々ある。
だが、今は『敵じゃない』ってことだけで十分。
いや、仮に二人が味方じゃなかったとしてもこのクエスト参加は強制で、拒否権を与えるつもりは一切ない。
「もちろん、協力するよー。
実は出ていこうかなー、って思ってたところだったんだよねえ」
「こんな状況、初めてだけど。全力でやってみる」
「悪いな。巻き込んじまったみたいでさ」
「気にしない、気にしない。これもお仕事のうちだから、さ。
それにしても、随分と喋り方が変わるんだねえ」
「ああ。こっちが地でね。変か?」
「ううん。そっちの方がずっと良い。
――で、私たちはどうしたらいい?」
ピルピードは低級モンスターの中でもかなり弱い部類の魔物で、数千匹いたところで殲滅するだけなら俺だけでも何の問題も無い相手だ。
とはいえ、何かを守りながらとなると一気に難易度は上昇してしまう。
だから、まず最優先するのは非戦闘員――つまりは村人全員の安全確保だろう。
「プリム、すぐに結界を張れるか?」
「この村全体だとすぐは無理。でも、あの子の家くらいなら何とか」
「よし、じゃあ急いで戻ってくれ。
『跳躍』はいけるか?」
「うん」
移動魔術でも上位とされる『跳躍』が使えるなら彼女は相当高位の魔術師ということで間違いない。
ならば、守りは任せても安心だろう。
「トラックスはこの子を頼む」
「おやあ? そういうのは英雄の役割じゃないのかい?」
「俺は村を回って逃げ遅れた人がいないか見てくるよ。
終わり次第、すぐに後を追う。
二人とも、頼んだ」
考えたくはないが、この村全体が戦場となる可能性は極めて高い。
そのときに、一人たりとも取りこぼすようなことがあってはならないのだ。
「さすがは歴代最高とも言われただけのことはありますねえ。これなら――」
「――トラックス。余計なお喋りは慎みなさい」
「っと。へーへー、分かりましたよっ、と」
「じゃあ。武運を」
「ああ」
そう短く返事をし、俺は民家の方へ向かって走り出す。
それと同時に後ろからは『どん』という地面を叩く音と、走り去る足音が聞こえてきた。
(お主、知っておったのか)
「ああ。ある意味お前のお陰でな」
今日の昼間――そう、あの『女王との
ダリアのしつこいアピールを無視していた俺がとぼけた振りをして周囲を見回した、まさにあの時だ。
後方に全身をローブのような布で覆った、あからさまに怪しげな格好をした旅人風の二人が見えた。
最初は俺を狙う刺客かとも思ったが、たった二人で仕掛けてくるとは思えない。
で、あれば『監視』だろう。そう結論付けていたが、やはり正しかったらしい。
(ふむ。何のことかよくは分からんが、それで良し。
もう、心配は無いのじゃな?)
「いやー。それがなあ。どうかなあ」
(何じゃ、そのふがふがした物言いは)
「まあ、すぐに分かるよ」
(むうう。そうやってお主はすぐにはぐらかしよる)
「ははは。――っと」
明かりがついている民家を発見。
中に人が残っていないか確認せねば。
「おーい、誰かいるか―。
ここは危ない、すぐに村長の家に避難してくれー」
(いないようじゃの)
「よし、次」
そんな感じで、大方の家を回り切ったところで――
「消えた、か」
手に持っていた『魔除け』の石が完全に光を失ってしまった。そして――
しゅううううううん。
と、空気が抜けていくような音が村の外側から聞こえてくる。
それと同時に、ピルピードどもの不快な鳴き声が四方から押し寄せてきた。
「じゃ、やるか」
(今回は倒し方など気にする必要はないぞ。
お主の力の限り、暴れまわるが良い)
「はっ。言われなくてもそうするよ」
そう言いながら、バックパックから愛用の短剣を取り出す。
小回りと手数重視の戦いになる今回はこれが最適だろう。
「さてと、まずは村長の家に近い場所からだな。
――『我が身を運べ、追風よ』」
『追風』を使い、村長宅へと一直線に進んでいく。
「――よし、結界は張れてるな!」
村長宅を覆うように透明な球状の膜が展開されていることに、まずは一安心。
プリムに挨拶の一つでもしたいところだが、今はそれどころでは無い。
「もう一丁、『追風よ、再び』」
継続詠唱しつつ今度は距離よりも高さを重視した跳躍で村長宅を飛び越え、派手な音を立てて着地する。
すると、村長宅に向かって押し寄せていたピルピードたちが赤い眼を一斉にこちらへと向けた。
「バケモノども。お前ら全員、ぶっ殺してやる。掛かってきな」
俺は不気味な鳴き声を上げる蟲どもに向かって宣戦布告を済ますと――
「――行くぜ。『闘気よ、我が
短剣に『闘気』を纏わせ、無数の蟲どもに向かって突っ込んでいくのだった。
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