第9話「新しいパーティメンバー」
メアリーさんの案内で借家にきた。大通りが交差する中央広場から、北門に通じる大通りに向かって歩く。三本目の通りを右に入って暫く歩くと、庭付きの割りと大きな家の前に来た。中央広場には冒険者ギルドがあるから中々近い距離だ。
「こちらになります」
メアリーさんが家の鍵を開けて俺たちを先に通してくれた。家の仲は綺麗でほこりも無かった。
「定期的に清掃しているので、今日からでもお使いになれますよ」
そう言ってメアリーさんは家の中を案内してくれた。メアリーさんの後を皆でついていく。まるでカルガモのようだ。
俺は一つだけ疑問に思った事があったので、メアリーさんに聞いてみた。
「所有者と奴隷が離れていても問題は無いのですか?」
もしも、俺たちがダンジョンに入ったら、留守番するルイーズさんがどうなるのか心配だったのだ。
「奴隷の首輪には、そういう設定ができるようになっています。今から説明しましょうか?」
「お願いします」
俺とマリーはルイーズさんの首輪で説明と実演をしてもらった。魔力が必要なので俺には出来そうにないがマリーには出来るので全然問題無い。
しかし、魔力が無い人もいるので、そういう人はわざわざ奴隷商に出向き調整してもらうらしい。ちょっと面倒だと思った。
食堂とトイレ、そして洗濯などをする洗い場を見てから主寝室に案内された。その他に、一階に部屋が一つと二階に四つあった。
ベッドは主寝室に二つだけだったので、今日はルイーズさんとセシル親子で一つのベッドで寝てもらう。そして、もう一つのベッドには、ミレイに寝てもらうことにした。
俺とマリーで使ってくださいと言われたが、それだと俺は徹夜することになるので強く固辞した。俺たちはまだ夫婦じゃないので一緒に寝る事は出来ないと説明して漸く納得してもらった。
結局、明日から俺とマリーは主寝室と一階の部屋を使うことにしたが、今日だけはいつもの宿で寝るようにした。
庭の井戸の場所を俺に教えたあと、メアリーさんが家の鍵を渡してきた。
「それでは私は店に戻ります」
「ありがとうございました。また、お店に伺いますとトマソンさんにお伝えください」
「承知しました。必ず伝えます」
俺とマリーはメアリーさんを見送ってから家に入った。
それから食堂に集まって皆で話し合った。
一番大事な、家事を担当するルイーズさんと戦闘に加わるミレイの給金を決めたので夕食の準備をすることにした。
道順を覚えるために全員で出かけた。ついでに、服の着替えと肌着も買うつもりだ。
中央広場まで戻って道を右に曲がり、東門に行く大通りを歩く。すぐに市場が見えてきた。
先ずは服屋で普段着と着替え、そして肌着を買う。俺は女性陣から少し離れた場所で買い物をした。思ったよりも時間がかかったが、夕暮れまでにはまだ時間があった。
食料品市場で食料を買う。冷蔵庫など無い世界だから保存が効かない。二、三日で使い切れる量だけを買った。野菜と肉、そして塩などの調味料に乾物類も買った。マリーの収納袋があるから幾らでも持てる。保存食も必要だとミレイの助言があったので購入した。
ついでに、木工具屋に寄ってベッドを三つとタンスや食器棚を注文した。
みるみる減っていく金貨に不安が募ったけど、頑張って稼ぐにゃんと言うミレイと三人で怪気炎を上げた。
少しだけ、セシルとルイーズさんは呆れていたが、こういうのは勢いが大事だと開き直った。ミレイとは気が合いそうだ。
布屋で布団を頼むと残金がほとんど無くなった。明日からまた、西の川で頑張ろう。
翌朝一番に、俺とミレイは二人だけで冒険者ギルドに行った。マリーはルイーズさんから魔法についての授業を受ける。暫くは魔法の勉強が優先だと言ったら、案外素直に了承してくれた。セシルと一緒に居られるとご機嫌だったが、出来れば魔法の勉強に集中して欲しいと思った。
冒険者ギルドに入ってすぐにミレイが声を上げた。
「うわあ! 久しぶりの冒険者ギルドにゃ。潰れてなかったのにゃ?」
「誰ですか、失礼な事を言っているのは? って、ミレイ出てきたの?」
「アリスの方が失礼にゃんだわ」
「ごめん、ごめん。ショウさんと一緒にいるってことは?」
「そうにゃ。ショウがご主人様にゃん」
「そういう事だから、アリスさん。手続きの方をお願いします。ついでに、ミレイのパーティ登録も」
そして、奴隷になった為に停止していたミレイの冒険者登録を復旧させた。ミレイはD級だった。 C級以下の冒険者の場合、定期的に冒険者ギルドの依頼を完了させないと罰則がある。それは、罰金が一番多く、あとは降級や登録停止などもある。そして、最悪なのは登録抹消である。抹消されると、そのあと五年間は再登録できない。
依頼の失敗などで依頼主に払う違約金が足りなかったり、高額の治療費が払えなくて訴えられたりする事がある。その時は自らを奴隷商に売って、その金で支払うのだ。ミレイの場合も、そのような理由で奴隷商に自分を売ったという。そういう冒険者は割りと多いので、罰則回避のために冒険者登録を一時的に停止する処置を取る。そうしないと、冒険者が少なくなってしまうのだ。
ギルドの用事が終わったので、俺とミレイはゴブリン狩りに向かった。
俺は新品の装備を、ミレイは使い慣れた装備で西の川を目指した。探索する前にお互いの戦闘方法を打ち合わせる。俺は飛苦無を使う戦闘スタイルを構築したいと考えているので攻撃の順番や互いの動き方などを話し合った。
俺はマリーから預かった、小さな魔法の袋を首から下げている。これが有れば何かと便利だ。今日はマリーがいないので薬草採集はしない。それよりは、魔物の討伐に集中した方が稼げると判断した。どのみち、マリーがいなければ魔法草を見つけるのは困難だ。ミレイの斥候能力や戦闘力も知りたいのでできる限り戦闘をする予定にした。
ミレイが先頭を歩き、俺が後に続く。「なるべく音を立てないようにするにゃあ」とミレイが言うので、草地の上を行く。元々、俺のスニーカーはソールが柔らかいからあまり音がしない。ミレイの厚革の靴の方が音が出やすいだろう。でも、実際に歩くとミレイは足音を完全に消していた。
『流石は斥候職だ』と感心する。
「ショウ、ゴブリンがいるにゃ」
俺たちは年も近いし、戦闘中は呼びにくいので呼び捨てでいいとミレイに伝えた。ミレイも同じ気持ちだと言うので、俺とマリーとミレイの三人は互いを敬称無しで呼ぶ事にした。
「数は?」と俺が聞くと、ミレイは指を一本を立てた。
「先ずはミレイの戦い方を知りたい」と俺が言ったので、今回はミレイ一人で戦う。
川から森に向けて、弱い風が吹いている。ミレイは静かに森の方に移動した。俺は木の陰に隠れて様子を窺う。
森から一体のゴブリンが姿を現した。水面に近づいていくので水を飲みに来たのだろう。
ミレイが森から出て、音も無くゴブリンに忍び寄る。ゴブリンは全く気づいていないようだ。這いつくばって顔を水面に持っていく。
ミレイが双剣を構えた。スルスルとゴブリンに近寄り、そのまま首を切った。
「お見事!」俺は思わず声を出した。
『正に職人芸だ! D級は伊達じゃない』
と、俺は大いに感嘆した。そして、俺にはできない芸当だと思った。
俺がミレイの傍に行くまでにミレイは魔石を取り出していた。
「ミレイ、お疲れ様、見事な手並みだったよ。感心した」
「感心するほどのものじゃないにゃん。普通にゃんだわ」
「うん、ミレイにとっては普通なんだね。了解したよ。次は俺が先に戦うね」
「了解したにゃん」
そのあと、上流を目指して歩いているとコボルト三体に出くわした。
俺とミレイはコボルトに駆け寄った。走りながら抜き出した苦無を右手に持ち、立ち止まった瞬間に投げる。中央に居たコボルトの胸に苦無が刺さり、崩れ落ちた。死んだかどうか分からなかったので警戒しつつ、ミレイに右手でハンドサインを送る。
俺は左の、ミレイは右のコボルトに向かった。近づいて鉄の槍を突き出すとコボルトは避けきれずに腹で受けた。俺は横目でミレイを見た。
ミレイの右の短剣がコボルトの喉を切り裂いたところだった。ミレイはそのまま苦無を受けたコボルトにトドメを入れた。俺は槍を抜いて胸にトドメを入れた。苦無と魔石を回収して探索を続ける。川に来て一時間も経たない内に四体の魔物を倒した。幸先の良さに笑みがこぼれてきた。
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