第10話「ミレイの実力」
「ショウはE級にゃん?」
「そうだよ」
「E級にしては強すぎるにゃん。D級並の力実があるにゃん」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「お世辞じゃないにゃん。ウチには劣るけど並のD級よりは強いから威張っていいにゃん」
「威張りたいとは思わないけど、もっと頑張りたいとは思っている」
「なら、もっともっと狩りをするにゃん」
俺たちは更に上流を目指した。西の川は中流域を過ぎると魔物の出現率が増える。その事をミレイに伝えて狩りを続けた。
午前中だけでコボルト六体とゴブリン四体を狩った。二人の連携が取れた事とミレイの実力。そして、俺の戦闘力が上がったことで戦闘にかかる時間が大幅に短縮されたようだ。
午後からも魔物討伐は順調に進み、結局この日はゴブリンとコボルトを合わせて二十二体狩ることができた。
西の川での狩りが終わって、街に戻る途中でミレイが聞いてきた。
「あの場所はいつもあんなに魔物が出るのかにゃ?」
「いや、いつもはもっと少ないぞ。今日は特別多かった気がする」
「そうにゃん」
「ミレイが冒険者をしている時は、どうだった?」
「ウチらはD級パーティだったから、Eランクのゴブリンやコボルトでは稼ぎが悪すぎて相手しないにゃ」
「じゃあ、ここには?」
「来てないにゃ。ウチらはダンジョン専門だったにゃ」
『ダンジョンか、いずれは俺たちも行くつもりだが、その前に人材と装備強化のための資金が必要になる』
今回の金貨二十枚のおかげで冒険者にとって、資金がいかに重要かを思い知った気がする。俺とマリーはドリフターだから、この世界の事に疎い。冒険者ギルドのアリスさんが言うように人材を集めるよりは奴隷商会で雇用する方が確実だと思った。現実にミレイという見本があるのだから。
資金を稼ぎ、人材を雇用して稼げるダンジョンに入る。そこで、また資金を稼ぎ人材を雇用する。パーティメンバーが増えればより稼げるダンジョンに行ける。当面の目標はこの方向で行こうと考えている。
冒険者ギルドで依頼の報告と買取を済ませて家に帰る。ギルドから歩いて五分ほどの距離なので便利だ。
ドアを開けて家に入る。
「ただいま」と「お帰り」の挨拶を交換して食堂の椅子に腰掛けた。ルイーズさんが直ぐにお茶を出してくれる。七歳のセシルが大きめの木の皿を両手に抱えて歩いてくる。中にはお菓子が入っていた。ミレイがお菓子を一つ摘んでキツに入れる。
「旨いにゃ!」の声に誘われて俺も一つ摘んだ。ルイーズさん親子のお陰で、出迎えの暖かさを肌で感じた。
マリーが俺の横に座り、笑顔を振りまく。機嫌が良いようだ。魔法の勉強を優先させたから、今日は置いてけぼりにしたので、てっきり機嫌が良くないと思っていただけに理由を聞いた。
「今日一日で魔法を一つ覚えたの」
「それは、凄いな。で、どんな魔法を覚えたんだ?」
「『清浄』という体や物を綺麗にする魔法だよ」
「それは便利でいいな」と俺は手放しで喜んだ。
この世界の家には内風呂が無い。公衆浴場はあるが料金がけっこう高い。だから、この世界の一般人は夏場は川で水浴びをし、冬場はお湯で体を拭く。よほどの事がない限り公衆浴場を利用することは無いという。公衆浴場を利用するのは冒険者が一番多く、後は商人や金持ちの平民くらいだ。貴族は基本的に家に風呂を作っているようだ。
食事の時間にルイーズさんから報告があった。
マリーは魔力量が多いし、感覚が鋭いので思ったよりも早く治療魔法を使えるようになれるかも知れないと言うのだ。マリーが治療魔法を覚えてくれたら戦闘が楽になる。
この世界の医療技術の低さは日本の江戸時代以下だ。魔法が優先するので医療が遅れるのは仕方がないところだ。けれどもポーションは安くないので回復役が居なければ突っ込んだ攻撃が躊躇われる。かと言って、無茶をする訳では無いが、今の戦闘はもう一歩踏み込みきれないところがあるのも事実だ。
「マリー、当分は勉強に専念してくれ。お前が戦力になれば俺たちのパーティも飛躍的に戦闘力が上がることになる」
「うん、ショウちゃん。頑張るよ」
マリーはその大きな胸の前で、小さくガッツポーズを取った。
翌日の朝にギルドに行った俺は受付のアリスさんに呼ばれた。
「ショウ君、この前の西の川のゴブリンの件だけど、確認が取れたから情報提供料を渡すわね」
アリスさんが銀貨一枚を浅い木の皿に乗せて、俺の前に押し出した。
「ありがとうございます」と言って銀貨を受け取った。
「ところで、西の川のことだけどショウ君たちは、あそこを狩り場にしているでしょう。何か気づいたことはない?」
「そういえば、昨日はかなり多くの魔物と遭遇しました。主にゴブリンとコボルトですけど」
「やっぱりね。あっ、ちょっと待っててね」
アリスさんは小走りに一番奥まで行って、男性職員と何かを話していたようだが、すぐに戻ってきた。
「どうやら、西の川の側にある森の中に魔物の集落ができているようなの。今日にでも確認のために調査が入るわ。もし、今日も西の川に行くなら気をつけてね。いつもと違う雰囲気を感じたらすぐに帰還するのよ」
「わかりました。注意して行きます」
「もしも、魔物が多く出たなら、今日は途中でも帰還しよう」
俺はミレイにそう言ってから西の川に向かった。
西の川の下流域で午前中を過ごし、いつもと同じくらいの魔物を狩った。そして、昼休憩を取ったあと、中流域まで進んだ。
「ショウ、急に魔物が増えた気がするにゃあ」
確かに中流域に入った途端にゴブリンの数が増えた。すでに午後から九体のゴブリンを倒している。しかも、いつも遭遇するコボルトが一体も出てこないのだ。
「嫌な雰囲気だな。今日はこれで終わりだ、街に戻るぞ」
俺たちが方向を変えて下流に向かっていると森からゴブリンが飛び出してきた。その数、五体。数が多いことから違和感を察した。
よく見ると、中央の一体だけが他のゴブリンより二回りほど大きかった。
「ホブゴブリンにゃ、気をつけるにゃあ。あいつはDランクにゃんだわ」
「ホブゴブリン! 初めて見る魔物だ。ミレイ、俺はゴブリンを一体倒したら、すぐにホブゴブリンの相手をする。残りのゴブリンを任せていいか?」
「任せるにゃん。ゴブリン三体くらい軽いもんにゃ」
一番右端のゴブリンに飛苦無を投げる。胸に命中したのを確認して、続けざまにホブゴブリンにも投げた。飛苦無は刃先に重心があるから、投擲用のナイフに比べると速度と破壊力が全然違う。ホブゴブリンは飛苦無を躱し損ねて左の腰に受けた。
上半身を反射的に前後や左右へ振るのは割りと簡単だが、下半身を瞬間的に動かすのは難しい。足は動かせても腰は残ったままだ。
ホブゴブリンは腰を傷つけた俺に憎悪を剥き出しにした。右手に持っていた太い棍棒を振り上げて、俺に突進してきた。俺はすぐさま土手を駆け上がり高い位置を確保した。土手を登るホブゴブリン目掛けて連続で飛苦無を投げた。最初に腰に刺さった飛苦無は落ちたが、至近距離から投げた二本目と三本目は腹に深く刺さった。痛みを堪えきれなくてホブゴブリンが蹲る。俺は槍を両手で持って土手を駆け下りた。そして、その勢いのままにホブゴブリンの胸を刺した。
ホブゴブリン一体とゴブリン四体の魔石を手早く採取して、俺たちは走って帰った。
「ホブゴブリンが出たにゃん」
並んでいた冒険者を無視して、カウンターにいたアリスさんにミレイが報告する。こういう報告は順番を待たなくてもいいらしい。
「アリスさん、これを」と言って、俺は魔石をカウンターの上に置いた。
「ホブゴブリンの魔石に間違いありません」
アリスさんは魔石を掴んで奥の方へと走っていった。
「あそこにいるのは、このギルドのサブマスターにゃんだわ。相変わらず怖い顔をしているにゃん」
俺はサブマスターと話すアリスさんを見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます