第7話「奴隷商」
冒険者ギルドでゴブリンとコボルトの魔石を渡し、青銅貨九枚を受け取る。宿で夕食を取り部屋に戻った。マリーが首から下げていた貯金が入った皮袋(中)を魔法の袋に入れる。
代わりに本を取り出した。
『初級光の魔法書』と表紙に書いてあった。
「ショウちゃん、これって、どういう風に使うの?」
「俺にも分からない。明日、アリスさんに聞いてみよう」
「うん、わかった」
翌朝、ギルドに行ってアリスさんに魔法書の事を聞いた。
「本を開いて掌を押し付ければ、自然と魔法の知識が入ってきます。それで魔法が使えるようになります」
「ありがとうございました」とお礼を言って市場に向かう。武器と防具を揃えるためだ
俺達は装備を整えた。金貨五枚を消費したが攻撃力と防御力は格段に上がった。
俺の武器として鉄の槍を、マリーは魔力が少しだけ増加するという樫の杖を購入した。
『石や槍を投げて先制攻撃すれば大変に有利になる』
と実感している俺は、古い知識の中にある『クナイ』を作ることにした。手裏剣の一種である『飛び苦無』は、重心が刃先にあるので回転しないで真っ直ぐに飛ぶ。それだから素人には扱いやすい飛び道具だ。
刃先は、長い四角錐を少しだけ平らにしたような形をしているので穴掘りにも使える。そこに丸い棒を取り付けた形をしていた。本来は棒の後に環がついているが、俺が鍛治師に発注したものには付いていない。
十本で金貨一枚だった。鉄のクナイが青銅のダガーと同じ値段なので得したのだろう。
防具屋でクナイを収納できる革のベルトを作らせた。こちらは銀貨五枚だった。
左右に十箇所ずつ筒状のポケットがあり、走行中に飛び出さないように留め具が付いている。俺は左右に五本ずつ収納して試したが、『飛び苦無』は思ったよりも重量があった。
『もっと体を鍛えなければ』と思ったほどだ。
冒険者ギルドの訓練所は無料で使える。もっとも、自主練するような真面目な冒険者は少ない。俺は訓練所でクナイの練習をした。
投槍に比べれば重量が無いので、クナイは殺傷力が低い。もちろん急所に当たれば即死する事もあるが、的の大きい胴体を狙うつもりだ。そこそこの破壊力はあるので敵の動きを止めるには充分だと考えた。真っ直ぐに飛ぶ『クナイ』は思ったよりも扱いやすい。大した練習をしていないのに命中率は高かった。
宿でマリーが本を開いて右掌を押し付けた。暫くすると本が淡く光ってマリーが閉じていた目を開けた。本の中の文字が消えて、マリーが大きな声で言った。
「ショウちゃん、分かるよ。魔法の使い方が分かるの」
マリーが魔法を練習する。俺は自分の腕に小さなキズをつけて、マリーは治療魔法を使った。しかし、成り立ての新米魔法使いさんは悪戦苦闘していた。魔法の使い方は分かっても、魔力の使い方がよく分からないらしい。結果的に俺の腕の傷は治療できなかった。その様子を見て俺は思った。
『これは、師匠が必要かな?』
ギルドでアリスさんに相談する。
「魔法使いの講習はギルドでは実地していないので、個人でお願いしています。でも依頼して講習料を払うより、無理してでも魔法が使える奴隷を購入した方が将来的に得ですよ」
「奴隷ですか?」
「そうです。前衛一人、魔法使い一人ではバランスが悪いので、いずれダンジョンに挑むなら先行投資をした方がいいと思います」
「確かに、いずれパーティメンバーを増やしたいと思っています」
「お二人は最近この世界に来たドリフターなので、信頼できる人物を見つける事は難しいと思います。それなら絶対に裏切らない奴隷の方が安心ですよ」
アリスさんの言うことには筋が通っているし、冒険者ギルドの受付が言う事だから信用できる。
「奴隷はどこで購入すれば」
「信頼できる奴隷商会への紹介状と地図を渡します。冒険者ギルドの紹介で来た人を騙すような商人はいませんから安心してください」
俺は紹介状と地図を受け取り、近日中に行こうと決めた。
マリーと相談して奴隷商会に行くことにした。「ダンジョンに挑むなら必要」と言われた事で、俺たちの心は決まった。
冒険者ギルドのある中央広場から北の大通りに向かう。
大通りに面した建物は三階建てで、冒険者ギルドよりは小さい煉瓦造りだ。二階に横書きの看板が見える。『公認奴隷商』と書いてあった。ドアを押し開けて中に入ると、紳士然とした四十代の男性が迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。トマソン奴隷商店にようこそ。私はトマソンと申します。ささ、お客様こちらにどうぞ」
割りと広い店内の一角にソファーとローテーブルの応接セットが見える。二人がけのソファーにマリーと一緒に座った。俺たちの対面にトマソンが座った。
すぐに綺麗な女性がお茶とお菓子を運んできてテーブルに並べた。並べ終えるとスタイルが良い美人のお姉さんは店の奥へと消えた。直後に、俺は足を踏まれた。トマソンが見知らぬふりをして、俺に向かって尋ねてきた。
「あれも奴隷でございます。ところで、お客様方は初めてのご来訪でございますね?」
「はい、冒険者ギルドの紹介で来ました。俺はショウと言います。こっちが相棒のマリーです」
と言って紹介状をテーブルの上に置いた。
「当店をご利用いただきありがとうございます。拝見させていただきます」
「どうぞ」
「なるほど、冒険者パーティのメンバーになるような、魔法が使える奴隷をご所望ですね」
「はい、できれば」
「失礼ですが、魔法が使える奴隷は少々お高くなっています。ご予算の方をお聞きしても宜しいですか?」
俺は正直に答えた。
「金貨十五枚です」
トマソンは渋い顔をして顎に手を当てた。そして、ゆっくりと手を降ろしてから言う。
「金貨十五枚では、魔法が使える奴隷は無理ですね。少なくとも金貨百枚からが相場となっています」
「そんなに!」
「はい、申し訳ありません」
トマソンが頭を下げるのを止めて、俺は聞いた。
「すみません。奴隷を買うのは初めてなので相場を知りませんでした。金貨十五枚で買える奴隷はいますか?」
「お客様、金貨が十五枚もあれば能力の高い奴隷が買えます。魔法を使う奴隷はほとんどが貴族様で購入されるので希少なんです。なので値段も高騰しています」
「そうなんですか? なら見せてもらうことは出来ますか?」
「もちろんでございます。ご希望がお有りですか?」
「ご希望とは?」
「人種、容姿、能力、性別、年齢などです」
「人種は獣人族は安く、エルフなどの妖精族は高くなります。人族は中間ですね。容姿はとうぜんながら器量が良いほど高くなります。女性は若いほど高く、男性は若いほど安くなります。レベルが高くて基礎能力値が高いほど値段も上がります」
俺とマリーは考えていた。するとトマソンが聞いてきた。
「お客様は魔法が使える奴隷をご所望ですが理由がお有りですか?」
「実は、私が魔法を覚えたんですが、魔力の使い方がよく分からなくて魔法が行使できないんです」
マリーは正直に話した。冒険者ギルドが紹介できる店なら心配は要らないと俺たちは感じていt。
「そうでしたか! それならばご予算でも買える奴隷がいます。事情があって魔法は使えないのですが、魔法を教えることは出来ます。ただ、一つだけ難点があるのです」
「難点とは?」
「子持ちなんです。小さな娘が一人いるので、二人合わせての購入をお願いしています」
「でも、魔法を教える事は出来るんですね」
「はい、問題無く」
マリーを見ると頷いたので、俺は会わせて欲しいと申し出た。
「では、こちらにどうぞ」
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