第6話「滝」

 西門を出て、いつものように川を目指す。今度こそ滝まで行きたい。川に沿って上流を目指した。

今日は森の探索をしない。ひたすら滝を目指す。マリーが気にしているからには、きっと何かあるはずだ。ゴブリンに遭遇しない限りは戦闘をするつもりはない。できるだけ移動を優先したい。

 

 俺は青銅のダガーで作った槍を持って先頭を歩く。

暫くしてゴブリンに遭遇した。二体連れだ。俺は駆け寄って槍を突き出した。俺の姿を見てゴブリンたちも身構えたが、何も持っていないので太刀打ちできない。すぐに二体とも倒した。魔石を取り、ふたたび上流を目指す。


 けっこう歩いて、滝が見える場所まで来た。それでも、まだ昼にはなっていない。

「マリー。魔法草だけは採集してくれ」

「了解。見つけたら言うね」


森に近い場所を歩く。

川原の石の上は歩き辛いのと、出来れば魔法草だけは採集したい。 魔法草は見つからないが、ゴブリンはよく出てくる。滝にはまだ到着していないが、朝から既に四体のゴブリンを倒した。やっぱり、川の上流はゴブリンが多いのだろう。


石の槍とダガーの槍では殺傷力が違う。素人が作った石器と武器として製造されたダガーの違いは明らかだった。暫くしてコボルトに遭遇する。三体の群れだ。俺の実力では無理だと判断したので、岩陰に隠れてやり過ごす。

コボルトたちは川で水を飲み終えると森に帰っていった。


なるべく足音を出さないように進む。幸い、草の地面だから足音はほとんどしない。それでも、周囲を警戒しながら進んでいると今度はゴブリン三体の群れを見つけた。一体がダガー、二体が木の棒だ。回避するのは難しいと判断して戦闘を覚悟する。

さすがに三対一だと緊張したが、やはり槍のリーチは有利だった。大した時間もかからずに討伐を終えた。

『俺は、こんなに強かったのか?』と自分でも驚く。

ここのところ体が軽く感じるのも、関係しているのかも知れない。


三本目のダガーを入手したので、一本はマリーに預けて石包丁は捨てた。

ゴブリンとの遭遇率が高い。午前中だけで五体も倒した。おまけにコボルト三体の群れとの遭遇だ。やはりこの川沿いは魔物が多い。それだけに薬草も多いがソロでは無理だろう。

午後からは戦闘が増えたので時間がかかった。太陽はかなり西に傾いている。


滝までもう少しだが、今日は断念する。懸念した通りに、帰りも二回ほどゴブリンに遭遇した。十一体目のゴブリンを倒した時、日が沈み始めていた。俺たちは門まで走った。




冒険者ギルドにゴブリンの魔石を出す。薬草は魔法草二本だけだ。銀貨三枚と青銅貨六枚と銅貨五枚になった。依頼完了の報告と精算が済んだあとに、アリスさんから声をかけられた。

「討伐したゴブリンの数が二十体になったのでレベルの確認をします。お二人の冒険者カードを出してください」

 アリスさんに冒険者カードを預ける。その後、水晶に手を乗せるように言われた。

「お二人共にレベル5になっています」

「俺一人で戦闘していたのですが?」

「パーティを組むとメンバー全員に経験値が入ります。なぜこうなるかは解明されていませんが、検証の結果に判明した事です」

『最初に、マリーとパーティを組んでいて良かった。これもアリスさんのおかげだ』

 と内心で感謝した。

 そうして、レベル5になった俺たちはE級に上がった。




 E級になった翌日も西の川の滝を目指した。 レベルアップと講習のおかげで、コボルトやゴブリンの三体の群れでも時間を掛けずに正面突破できるようになった。進行速度が上がったので、昼頃には滝に到着できた。

滝の高さは10メートル位で幅は3メートル位あるだろう。思ったよりも水量が多い。


「ショウちゃん、滝の裏側が気になる」

とマリーが言うので、調べる事にした。

槍を滝の裏側に差し入れて調べる。どうやら空洞のようだ。


滝の側面にある岩に、丁度いい足場があった。体を岩に張り付けるようにして、滝の裏側に回り込んだ。

 水飛沫を避けるために滝の入り口から少しだけ中に入り、皮の袋に入れた松明と火打ち石を取り出す。 入り口は薄暗い程度だが、奥は真っ暗だった。松明に火がつき燃え始めると洞穴の中が明るくなった。

入り口の近くに竈があった。側には薪も見えるが、水を吸って濡れていた。

『人が住んでいたのだろうか?』と推測する。

 洞穴の奥へと進む。ベッドとテーブルがあった。 テーブルの上にある木の板を見て驚く。


「これは!」

木の板の表面には文字が書かれていた。文字は墨で書かれた日本語だった。

冒険者ギルドでは炭を使っていた。炭はゆっくり使わないと折れるし、手が汚れる。しかし、この文字は明らかに墨だった。俺は松明を近づけて文字を読んだ。


【これが読めるということは日本人だろう。親愛なる同郷の後輩よ、苦労していると思う。そこで貴方たちに贈り物を渡したい。テーブルの下の地面を掘れば壺がある。その中の物を持っていきなさい。私は、この世界に馴染めなかったのでここで暮らした。貴方達に幸多からんことを願う】


俺は滝の入り口に戻って叫んだ。

「マリー。大丈夫か?」

すぐに返事がきた。

「ショウちゃん、大丈夫だよ」

「マリー、槍をくれ」

  暫くして洞穴の入り口に槍の端が届いた。

「ありがとう。もう少ししたら出るから」

「うん、わかった」


俺は槍からダガーを外して奥へと走った。そして、ダガーを使い穴を掘った。

「カチン」という小さな音がした。手で土を掘ると壺が見えた。

掘り出した壺は、両手で抱えるくらいの大きさだった。皮で封がしてあったが破れていた。


壺の中身を持ってきた皮の袋に移し替える。木の板と

岩場を渡る。足場があったので渡りやすい。

ひょっとしたら、足場は先輩が作ったものかも知れない。しかし、今となっては知る由もない。 体中がびしょ濡れだったが、それどころじゃない。中身が気になった。


大きな岩の上に皮袋から取り出した中身を並べた。

小さな木の板を数枚取り出す。そこにも文字が書いてあった。あとは小さな皮の袋があった。壺に被せてあった皮の封は破れていたのに、この小さな皮の袋は何ともなかった。木の板を持ち上げて読んだ。


【親愛なる後輩ドリフターよ。ダンジョンを探せ。日本に戻れるものがあるらしい。それがアイテムか魔法かは分からないが別の世界に行けるものらしい。強くなって最難関のダンジョンに挑め。これが私からの贈り物だ。壺の中の皮袋を忘れるな】


 別の板に皮袋の説明があった。『魔法の袋』というもので家一軒くらいの容量があるらしい。手を入れると収納してある物がわかるようだ。魔法の袋に触れた状態で、収納してある物の名称を念じると出せると書いてあった。

 試しに手を入れようとしたらマリーがやりたいと強く言う。俺は心配したが、結局マリーに任せた。

『皮の袋(小)』と『本』が頭の中に表示されたとマリーが言う。『魔法の袋』に触れて『皮の袋(小)』と念じてみるね、とマリーが言うので任せる。小さな皮の袋が出てきた。

皮袋の中身を確かめると金貨だった。二人で数えると二十枚あった。


生きているのか分からない先輩に手を合わせて感謝した。

「先輩、ありがとうございます」

 木の板に書いてあった『魔法の袋』の事が真実だったので、日本に帰還する方法も現実味を帯びてきた。


「日本に還ろう、マリー」

「うん、日本に還ろうね」

「この情報が真実かどうかは分からないけど、貴重な手がかりだ。強くなってダンジョンに挑もう」

「うん。私も強くなりたい」

 太陽が大きく西に傾いていたから、金貨を入れた皮の袋(小)を魔法の袋に戻して俺たちは街に戻ることにした。本は宿に戻ってから調べればいい。

街までかなりの距離があるので急ぎ足で街を目指す。幸いなことに魔物に出会わなかったので日が沈む前に戻れた。

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