第4話「新しい槍先」

  ロープと皮袋や布袋、それから松明や火打ち石などの物品。塩や携帯食料に木製の食器等も 狩りや休憩の際に必要な物らしい。全ての物品を冒険者ギルドの売店で揃える事ができた。これも支援の一環なので格安らしい。全部で銀貨一枚と青銅化五枚だった。

荷物が増えたので、マリーと二人で分けて持つ事にした。これで準備は整ったが問題が一つだけあった。


今日の戦闘で、予想通りに石の槍先が欠けた。やはり、耐久性に問題があるようだ。

壊れる度に作り直していては時間の浪費だ。それならば、いっそ青銅製のダガーを槍先にすれば、と考えた。

ちょうど青銅製のダガーを手に入れたので、これを槍先にする事にした。青銅製のダガーは銀貨一枚と安い。刃渡りは20センチと短いが、それでも一応は金属製だから石よりは遥かに耐久性に優れている。解体用に新品を一本買う。

 

 夕食後にいつものようにドアの外にいると、ゲイルとガットが通りかかった。よお、と言いながら愛想よく片手を上げるゲイルとガットに笑顔で挨拶を返す。二人とも気の良いやつだ。パーティを組めたらいいと思うが、マリーは戦闘が出来ないし重い荷物を持つことも出来ない。現状では、彼らがオレたちとパーティを組むメリットは少ない。

 

 一夜明けた早朝、いつものように『西の川』に向かう。

水辺の硬い石でダガーを研いだ。青銅は鉄に比べると柔らかいので研ぎすぎないように注意する。そのあと、ダガーを槍先にして青銅製の槍を作った。

 

 

 

 俺の家は母子家庭だったので母親の手助けのため、近所にあるスーパーでバイトしていた。その時に鮮魚部のチーフから包丁の研ぎ方を教わった。

「お前は返事もいいし、よく動くから好感が持てる」と可愛がってもらった。

 精肉部、青果部、塩干、デイリー(日用品)と応援に入っていたので色々と覚えたものだ。

「物覚えもいいし、各売り場のチーフからの評判もいいので、お前だけ時給を50円上げるけど内緒だぞ」

 店長に言われた時は嬉しかった。何より仕事ぶりを評価された事が一番嬉しかった。

 



 刀身の短いダガーよりもリーチが長い槍の方が圧倒的に有利だ。 技術的に差が有るのなら話は別だが、戦闘力が低い魔物なら武器の長さで圧倒できる。


 今日は川を起点にして戻れる範囲内で森の中に入るつもりだ。偶然、ゴブリンに出会うのを待っていては効率が悪い。積極的に探すべきだと思った。

一番の 狙い目はとうぜん魔法草だ。森でゴブリンと薬草を探索しては、川原に戻った。

それを繰り返しているうちに森の中でゴブリンを見つけた。先が太い棍棒を持っていた。

『一体だけだ』俺は心の中で叫んだ。

 チャンスと見て静かに近寄り、距離が詰まった所で一気に駆け寄った。俺は勢いよくダガーの槍を突き出した。俺に気づいたゴブリンがこちらを振り向いた時には槍が腹に刺さる直前だった。

 

「グギャ!」と悲鳴をあげて、腹に刺さった槍を掴んだままゴブリンが横に倒れる。

「ギャ!?」と反応する声が離れた場所から聞こえた。もう一匹いたようだ。

 引き抜こうとした槍に、重い抵抗感があった。倒れたゴブリンが槍を掴んで離さない。必死の形相で俺を睨んでいた。

 もう一体のゴブリンがこっちに向かってくる。俺は倒れているゴブリンの顔を思いっきり踏んづけた。ゴブリンは意識を手放したようで槍を持つ手がスルリと落ちた。俺は素早く体勢を立て直す。

 

 走ってくるゴブリンの手には長さ50センチくらいの木の棒があった。 当たったところで致命傷にはならないが出来るだけケガは避けたい。

 槍を振るにはこの場所は狭い。突くだけの攻撃では避けられやすいのだ。追いすがるゴブリンを引き連れて森の外へと向かう。川原に出てすぐに、森の方へと体の向きを変えて槍を構えた。

 俺の姿を見て、追ってきたゴブリンが立ち止まる。しかし、魔物の本能か、すぐに襲いかかってきた。ゴブリンが振り下ろす木の棒を槍で横に払う。少しだけゴブリンの体勢が崩れた。すかさず、引き戻した槍を突き出す。槍先のダガーがゴブリンの胸を突いた。


  戦闘が終わって気づいた事がある。訓練の成果が出ているのか、以前より戦闘力が上がったような気がする。心なしか体も軽い。前よりも動きがいいと感じていた。

 

 新品のダガーを使い、森と川原で二個の魔石を回収した。これで青銅貨三枚の収入だ。もう少し稼ぎたい。

「マリー、もう少し上まで行こうか」

 マリーの了承を得て上流を目指す。

「ショウちゃん、滝が見えるよ」

 マリーが指差す方向を見ると、かなり遠くに滝が見える。

けっこうな水量があるようで、この場所からでもハッキリと滝を認識できた。

しかし、あそこまで行くと街に戻る前に日が暮れる。今日は諦めて、明日また出直そう。固執するマリーを説得して街に帰ることにした。


ただ、絶対に滝まで行こうね、と執拗にマリーが言うので滝には何か在るのかも知れない。マリーは、こういう第六感的なものが強い。

 帰り道の途中でゴブリン三体と遭遇する。石槍を投げた先制攻撃が成功したので、問題無く倒せた。 二対一 ならゴブリンに負けることはない。先制攻撃で一体だけでも戦闘不能にすることは大きなメリットだ。


 やはり、東の森と違い、西の川はゴブリンが多いようだ。東の森では魔物に遭遇したことは無い。そのためか、薬草採集の新人冒険者が多くいた。だけど、西の川ではこれまで相当数のゴブリンに遭遇している。

『どうりでソロの新人冒険者に会わないはずだ』と思った。

 

 ギルドで今日の収穫をカウンターに並べる。魔法草は見つからなかったが、薬草採集とゴブリンの討伐で合計が銀貨一枚と青銅貨七枚になった。今日もマリーがたくさんの薬草を採集してくれたのだ。


 ギルドを出て、市場にある服屋に行く。マリーと俺の下着を買うためだ。毎晩、寝る前に井戸で洗って夜のあいだ部屋に干しておく。朝、生乾きのものを履いていた。

 下着くらい買ってあげたかったけど、金は貴重だ。それまではギリギリの生活をしている状況だったので貯金を優先させていた。

 だから、二人とも裸で寝ていた。一緒のベッドじゃないからいいけど、このままじゃ俺の精神が疲弊してしまう。

 

 結局、俺とマリーの下着を二枚ずつ買った。銀貨一枚が無くなった。

「もう少し稼いだら服を買ってやるからな」

「本当! 嬉しいよ、ショウちゃん」

 マリーの喜ぶ顔が可愛い。その笑顔をもっと見たいから俺は頑張るよ。

 

 マリーは体臭を気にしていた。女の子だもの当然だ。この世界にも風呂は有るが個人の家や普通の宿に風呂はない。

公衆浴場はあるけど一人銀貨一枚かかる。日本でいうなら約一万円とかなり高い。石鹸も有るけど、臭いがキツイ動物性の物でも小さな一瓶が青銅貨五枚もする。現在の貯金では全然足りない。もっとゴブリンを討伐する必要がある。


 服を買う前に公衆浴場に連れて行ってあげたい。水浴びやお湯で拭くだけでは脂は落ちない。ましてや、髪の毛の脂はしつこいのだ。

マリーが自慢にしていたサラサラの長い黒髪が今は無残な状態だった。

「髪は女の命」と聞いた事がある。以前のような綺麗な髪に戻してあげたい。マリーの笑顔を見るためなら俺は頑張れる。しかし、怪我をすればマリーが悲しい思いをするので気をつけなければならない。マリーを喜ばせるために怪我をして悲しませたら本末転倒だ。そのためには俺はもっと強くなる必要がある。

『冒険者ギルドの毎日の訓練をもっともっと頑張るぞ』と心に誓った。


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