第3話「ゴブリン三体と戦闘する」

 ダンジョン内の魔物が増えると『スタンピード』と言う魔物の大群の暴走が起きる。とうぜん、一番近いこの領都が襲撃される可能性が高い。そのために、この街の領主は冒険者ギルドに資金援助をしている。領主が抱える領軍の兵士だけでは守りきれない恐れがあるからだ。

それに、冒険者が持ち帰る魔物の素材は、この街の貴重な商品だった。領主としては冒険者が増えるほど商品になる素材も増えるので資金援助の分などはすぐに取り戻せるらしい。

 

 今日の薬草採集は全部で銀貨一枚と青銅貨六枚になった。魔法草は一本で銀貨一枚の買い取りだった。

残念ながら魔物を見つける事は無かったが、薬草採集は思いの外順調だった。おかげで銀貨二枚と青銅貨一枚の貯金ができた。




 今日も『西の川』を探索する。異世界転移して今日で十一日目、この川の探索は三日目だった。 朝一番で石槍を作り直したので二時間ほど浪費した。やはり、石槍を修理していては時間がかかりすぎる。


昨日は薬草採集だけで終わったので、今日はゴブリンを討伐したい。 今日の狙いは魔法草とゴブリンだ。 コボルトも同じEランクなのだが、ゴブリンよりもスピードがあるので群れと対峙するのは避けたい。

薬草は冬になると採集できない。今のうちに、金になる『魔物討伐』という手段を増やしたかった。

 

 ゴブリンは小学校高学年くらいの背丈で痩せており腕も細い。筋力が低いので攻撃力や防御力も大したことがない。知能も猿程度で言語を理解しない。

 それでも、ときおり武器を持っている事もあるので注意が必要だとゲイルに聞いた。

多勢に無勢の状況にならない限り、お前でも敗けることはないだろうとガットは言っていた。

 

 俺が前、マリエが後ろを歩く。

「マリー。後ろを警戒しながら薬草にも注意してくれ」

「了解」

 マリエをマリーと呼ぶのは登録名だからだ。そろそろマリーの呼び名に慣れておかないとまずいと思って、二人で相談してマリーと呼ぶことにした。ちなみに俺のショウも登録名だ。


 ゴブリンを見つけられなかった時のために薬草採集も並行してやる。

「ショウちゃん。あそこに薬草の群生地があるわ」

「わかった。俺が警戒しているから採集してくれるか」

「了解」

 薬草の採集はF級冒険者がやる仕事だ。その中でもソロ活動をしている新人の仕事だった。 パーティなら討伐依頼をやった方がずっと稼げる。ゴブリンを一体倒せば薬草十五本分になる。一人で周囲を警戒しながら採集するのは難しい。だから、ソロ冒険者はあまり奥に入っていかない。


 いくらF級の新人冒険者と言っても単独のゴブリンやコボルトなどにやられることは無い。だが、奴らは群れをなすことがある。三体のゴブリンがただひたすら押し倒しにかかる。倒してから、尖った歯で噛みついたり鋭い爪で引っ掻くのだ。

 

あまり人手が入っていないせいか、二時間で五十本以上の薬草が採集できた。

こんな事は初めてだとマリーは喜んでいた。

 金が無いので昼食は抜きだ。交代で川原の岩に腰をおろして、水だけを飲んで休憩する。休憩は見通しが良い川原でする事に決めていた。


午後からの採集も順調に進んだ。ゴブリンはまだ出てないが薬草は既に百二十本採集できた。魔法草も一本見つけていた。夕方までには時間があるけど、予想以上の結果が出たから街に戻ることにした。

しかし、街に着くまで油断はできない。周囲を警戒しながら、昨日ゴブリンを見つけた場所まで戻って来た。


 その時、川の側の森から音が聞こえた。俺はマリーを連れて大きな岩の陰に静かに移動した。

「何かいる。しゃべるなよ」

 マリーは無言のままコクコクと頭を縦に振った。その仕草は小動物みたいで可愛いが、今は和んでいる場合じゃない。 俺は両手に石槍を持って様子を伺った。

 

 岩陰から見ていると三体のゴブリンが川原に姿を見せた。 一体は刃渡り20センチくらいのダガーを持っていた。あとの二体は木の棒だった。ダガーは汚れていたが、色から見て青銅製と思われた。

 どうやら、ゴブリンは武器の手入れをしないようだ。それとも、ゴブリンは知能が低いと言われているので手入れが出来ないのだろうか。

 

 ゴブリンが武器を造ることは無い。あれは冒険者や一般人を殺して奪った物だ。 単体ならゴブリンはFランクのモンスターだ。俺でも勝てる。だが、ゴブリンやコボルトはこのように2~3体の群れで行動する事が多いので厄介だ。

 

しかも、集落が大きくなると上位種のホブゴブリンに進化する個体が現れると聞いている。ホブゴブリンが率いる群れは最低でも10体以上いる。それらが連携してくるのだ。討伐は難しい。D級のパーティーでも全滅する恐れがあるらしい。

 

 ゴブリンが武器を持っているということは、冒険者を殺せるだけの群れがいる証明になる。そいつらが他のゴブリンたちに余った武器を渡しているのだ。かなり大きなゴブリンの巣があると思われた。これらの事は全て教官の受け売りだ。


 ゴブリンが俺たちの近くまで来た。俺は石槍を左手で持ち、右手で手頃な石を拾った。そして、至近距離まで近寄って来るのを待って、中央のゴブリンに石を投げつけた。石はゴブリンの顔に命中した。ある程度重さがある石だったので、ゴブリンは顔を押さえて蹲った。


すかさず、飛び込んで近い方の左のゴブリンの腹を石槍で突いた。すかさず、ゴブリンの胸を蹴ってやりを抜き、残る一体のゴブリンに特攻する。

 

 とつぜん仲間が襲われて、恐慌したゴブリンは呆然と立ち尽くしている。何も対応出来ずに俺の石槍で腹を突かれた。引き抜いた槍で、今度は胸を刺す。そして、すぐに引き返して蹲っている中央のゴブリンを突き刺した。さらに、動けなくなった左のゴブリンまで駆け寄りトドメを入れた。


「マリー。終わったよ」

「ショウちゃんすごいねぇ。もう、全部倒しちゃったんだ」

 思ったよりも苦戦しなかったのは、先制攻撃ができたからだと思う。三対一で正面から対峙していたのなら、もっと苦戦していたはずだ。


 落ちていたダガーを拾った。その時にふと閃いた。

『これを使えばいいんじゃないか?』

 気づけば、すでに夕方近くになっていた。落ちていたダガーを使い魔石を取り出した。急いで街に帰る必要があるので、ダガーのことは明日考える事にした。


 ギルドで薬草を百二十本と魔法草を一本、それにゴブリンの魔石を三つ出した。 しかし、薬草のほとんどはマリーが採集してくれたものだ。かなり頑張ってくれた。

マリーは昔からものを探すのが上手い。一種の才能だろう。落とし物、失せ物の事で相談するとよく見つけてくれた。

 探すという事に対して、自分の中で何かが構築されているのだろう。対処すべき方法や行動を理解しているように思える。しかしそれだけじゃなく、たぶん第六感も強いのだろうと俺は推測している。

 

 三体分のゴブリンの魔石で青銅貨四枚と銅貨五枚、薬草が青銅貨一枚と銅貨二枚。魔法草が一本で銀貨一枚だった。魔法草は魔力回復ポーションの主原料だけあって価値が高いらしい。換金時に、街に近い西側の川沿いでゴブリンを三体倒した事とゴブリンがダガーを持っていた報告をした。

「すぐに調査依頼を出します」

とアニエスさんが言った。


  情報料の銀貨一枚は確認後に支払われるようだ。今日だけで銀貨一枚と青銅貨五枚、そして銅貨七枚を稼いだ。

ゴブリン討伐よりも魔法草の方が儲かるが、マリーが探しても見つけるのは難しかった。


「ここのところゴブリンをよく狩っていらっしゃいますが、魔物の討伐を主体にするのなら必要な道具を揃えた方がいいですよ」

受付のアニエスさんから助言を受けたので、冒険者ギルドの売店で討伐や探索時に必要な物を購入する事にした。この三日間で、銀貨三枚以上の貯金ができたから買う気になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る