第2話「武器が欲しい」
二人の戦闘スタイルはゲイルがショートソードで相方のガットが弓だ。ガットは父親が猟師で、本人も子供の頃から弓で鳥を獲っていたらしい。
なので弓の扱いが上手いそうだ。ガットが使っている弓矢は父親がくれた物だと聞いた。
だけど、二人だけで狩りをする事に限界を感じているのでパーティメンバーを募りたいと思っているようだ。ハッキリと口にした訳では無いが、二人だけの戦闘に不安があると言う。
二人しかいないので防御面が弱いと言うのだ。敵が単体なら前衛一人でも相手できるが、二体以上いると後衛が狙われる。先制攻撃で、一体を確実に倒せたらいいのだが、いつも上手くいくとは限らない。この間のゴブリン三体の討伐で危ない目に遭ったと言った。だから最低でも前衛があと一人ほしいようだ。
それでも、俺たちは武器さえ持っていないので相手にしてもらえないだろう。
俺でも、パーティーメンバーに加えるなら最低限の装備を要求する。仲間を庇いながら戦闘をすることも、仲間を早々に失って不利益を被ることも避けたいと思う。
とりあえず武器が無いことには現状を打破できない。
『なんとしても武器が欲しい』と強く思った。
翌朝は早めに宿を出立して昨日の川原に向かった。今日は石を叩いて槍先を作る。これはものすごい労力が必要だ。 黒曜石が見つかれば作り易いのだが、簡単には見つからないだろう。
中学の時に授業で知って興味を持ち、山や川を探した事がある。だけど、欠片さえ見つからなかった。
槍先にできるような黒曜石を探して川原を歩いた。川の中も探したが見つからない。仕方がないので別の石で作る決意をする。
金属製の槍先のように尖った円錐形の物を石で作るのは難しい。先端はいちおう尖っているが、全体的に見れば平べったい形をしている。貫通力は期待できない。午前中に二つの石の槍先を作った。
石の槍先は殺傷力こそ有るが、強度が無いので不安が残った。石を薄くすれば耐久性に問題がでる。しかし、現状ではそれ以上の物を作れない。
木の棒の先端に切れ込みを入れて割れ目を作る。そこに差し込むため、石の槍先はあまり厚くできない。それでも木の棒よりも遥かにマシだと思うが、一度使えば壊れる可能性は否定できない。
石槍を二本作るのにほぼ一日を費やしたから、俺には薬草を採集する時間が無かった。
だけど、マリエが川に近い場所で薬草採集をして五十五本を集めてくれていた。やはり、この場所は薬草が多いようだ。日暮れまでもう少しあるから帰り道でも薬草を探す事にした。
街へと戻るための川沿いの土手。雑草だらけの場所を、薬草を探しながら歩いていた。最低でも薬草十本を採集しなければ宿代に足りない。貯金には出来るだけ手をつけたくなかった。
そのとき、川原で一体のゴブリンを見つけた。這いつくばっているので、どうやら川の水を飲んでいるようだ。丁度いいので石槍を試してみようと思った。
「岩陰に隠れて」と小声でマリーに指示を出して、二本作った石槍のうち一本だけを預けた。そのあと、ゴブリンに近づくために身を屈める。
ところが、とつぜんゴブリンが身を起こした。どうやら水を飲み終えたようだ。そして、ゴブリンは森の方へと歩き出した。
まだ、こちらには気づいていないようなので岩陰からゴブリンの動向を探る。
森の中は膝まである草や枯れ枝のせいで音が出やすい。ゴブリンは気にせずに歩いていたが、俺はできるだけ音を出さないようにして後を追った。
気づかれないように距離を詰め、ゴブリンの背後を取った。
『いける』と確信して、一気に駆け寄り槍を突き出す。
俺が駆け寄る音に気づいてゴブリンが振り返る。俺は委細構わずゴブリンの腹に槍を突き出した。鋭利な刃物と違って石の槍は抵抗が大きい。後は力任せに押し込んだ。
悲鳴を上げてゴブリンが仰向けに倒れた。トドメを入れるため腹に何度も槍を突き入れる。二度、三度と突くうちにゴブリンは動かなくなった。
この世界に来て初めて魔物を殺した。だが、感傷は無かった。それは対象が魔物であったからだろう。しかし、思ったよりも簡単に殺せたので、少しだけ自信が付いた気がする。やはり、武器は偉大だ。
ゴブリンやコボルトは魔物の中でも最弱に近いEランクだ。本来なら、そういう弱い魔物は群れで行動する習性がある。単体のゴブリンに遭遇したのは運が良かったのかもしれない。
ちなみにスライムはFランクの魔物だが、汚物処理に使っているので討伐禁止である。
討伐証明の魔石をとるために、石包丁を取りにマリーのところに戻る。
ゴブリンの魔石は買い取りで銅貨五枚にしかならないが、それでも薬草採集の一回分だ。今の俺達には価値がある。
日が沈むと街の門が閉まる。俺たちは急いで街に戻った。薬草五十五本にゴブリンの魔石が一個。これで青銅貨七枚になった。
随時依頼
討伐:ゴブリン1体
証明:魔石
貢献:1点
報酬:青銅貨1枚
特記:魔石買取価格は一個につき銅貨五枚
翌朝、陽が昇るとすぐに出発した。せっかく石槍の有用性がわかったのだから、今日は『西の川』でゴブリンを討伐するつもりだ。
川沿いを上流に向けて歩く。できればゴブリン四体以上を倒したい。それで青銅貨六枚になる。 川沿いの場所は薬草が豊富なようだから、ゴブリンの分だけ貯金ができると考えた。
橋の手前で川の側の森に入り、昨日隠した石槍を一本持ち出す。石槍を街に持って入りたくなかった。手製の石槍など、下卑た冒険者の『格好の餌食』だ。
昨日使った石槍はやはり壊れたので、時間がある時に作り直すつもりだ。
水辺だけあって動物がよく見られる。でも、俺たちに気づくとすぐに逃げる。
好戦的な魔物と違って、動物は人の気配を感じると一目散に逃げる。弓でも持っていなければ獲れないだろう。
だが、予想通りに薬草は多かった。こちら側は人が来ないのだろうか。人が入った形跡がほとんど無い。
下級薬草の他に、珍しい魔法草なども見つかった。俺は知らなかったが、マリエは冒険者ギルドの資料室で調べたらしい。冒険者ならギルドの資料室は無料で使えるとマリエは言った。
「ショウちゃんが訓練場に行っている間に調べたの。だって退屈だったんだもん」
と、マリエは少し口を尖らせてみせた。
新人冒険者を対象とした無料訓練がギルドで開催されている。俺はできるだけ時間を作って参加していた。
普通の高校生である俺たちには戦闘術などの知識は無かった。生存率を少しでも上げるために俺は戦闘術を知りたかった。
「新人冒険者を対象にした戦闘術の講習と訓練が無料で行われているんですよ。良かったらショウさんも参加しませんか?」
冒険者ギルドの受付をしているアニエスさんが親切に教えてくれた。 俺は迷わず参加の意思を伝えた。訓練場に行くとゲイルとガットも居た。
俺は槍を習っている。
Eランク程度の魔物なら、武器の長さで戦闘が有利になると聞いたからだ。
もっとも、最初の武器は石器になると思っていた理由もある。石の槍は作れても、石で剣は作れない。
ガットは子供の頃から扱っている弓には自信が有るらしく、接近された時のために短剣術を習っていた。
ゲイルは腕に装備した小盾で防御しながら、片手剣で攻撃する戦闘方法を訓練していた。前衛に徹するつもりなのだろう。
教官はD級の冒険者だ。指導料は冒険者ギルドが負担している。
一人前と言えないD級冒険者でも戦闘の基本くらいは教える事ができると教官は言った。
こうまでして、冒険者ギルドが新人育成に力を入れているのはスタンピードと呼ばれる魔物の大暴走に備えているからだ。そのために戦力になる冒険者が一人でも多く欲しいのだ。
この領都の近くにもダンジョンがあるそうだ。領主も冒険者ギルドもそのための対策を取っていると教官に聞いた。
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