第25話 ヒーロー
25話目
『お客さま、機内で叫ぶなどの行為はおやめください。』
ワンタイムウォーターの声は機内に響き渡っており、明らかな迷惑行為だった。しかしワンタイムウォーターの声が聞こえた乗客は皆席を立ち、こちらを覗き込んでいた。
迷惑行為であるはずなのに、とがめる様子はなく反対に有名人を見ようとしているようだ。
「え……ワンタイムウォーターだって!!」
「どこ、どこに居るの!?」
「起きなさい! ワンタイムウォーターが目の前にいるわよ!」
「本当にワンタイムウォーターだ……」
周りは小言で満たされ始めた。その事にお姉さんは気にする事は無く、僕が知らなかったことに落ち込んでいた。
ロックスパイダーの時もそうだったが、ヒーローと言うのは人気者らしい。
「ワンタイムウォーター? さん? 通路で落ち込んでいないで席に戻って。目立ってるから」
「・・・」
落ち込みながらも席に戻ってくれた。しかし知らなかったから気まずい。
「えっと、お姉さんは何をしにイギリスに行くんですか」
この空気感を何とか変えようと、質問をしてみるがまだ落ち込んでいる。しようがないので本を読んで時間を潰そうかと思ったがこたえてくれた。
「ヒーロー研修に行くんだよ。」
「ヒーロー研修ですか。イギリスは個性の研究が盛んだからいい研修になるといいですね。」
「お! イギリスの事は知っているのか! イギリスは研究も盛んだが、ヒーローの国としても有名なんだぞ!」
個性やヒーローの事が好きなようで、いい感じに空気を逸らせた。
「ヒーローの国ですか。ヘラクレス学園に行く予定でしたからヒーローの事はあまり知らないんですよね。」
「おいおい! ヘラクレス学園なんてヒーローの代名詞じゃない!」
「そうなんですか? 個性の研究で行こうと思っていたのでヒーローとは関係ないのかと……」
「個性ある所にヒーローありさ。個性の研究はヒーローの発展に繋がるから、昔から親密な関係なんだよ。」
確かに、ヒーロー活動をするのであれば個性の事はちゃんとしっておかなければいけない。効率的な特訓とか、そう言うのは研究から育まれる物だからね。
それに、ヘラクレス学園は学園と言うのだから個性のことだけなはずはないよね。
ヒーローの事はあまりにも知らなくて勘違いしていた。
「それにお姉さんがヒーロー研修に行くのは、ヘラクレス学園だよ。偶然だね、目的地が同じなんて。」
「あ、そうなんですか。」
お姉さんは凄い興奮しているようでまだ見えぬ学園の事を考えているようだ。
「日本はどうなんですか? イギリスよりも劣っているとか」
「いやいや、そんな事は無いさ。日本のヒーローは質が高いし、教えられる所だって沢山ある。」
「それならなんでイギリスに研修をしに行くんですか?」
「ん~……」
聞かないで欲しい事だったのか考え込んでしまった。
僕としては、少しの間ではあるが研究をやってきて、確かに日本の研究に対する支援は凄い物だと思っている。
必要なものを縁側三に相談すれば最短でその日には持ってきてもらえたし、場合によっては死体だって用意してもらえた。
ここまで過保護に支援してもらえるのはイギリスよりも頑張っているのではないの? と感じている。
「言って良いのか分からないけど、今の日本の上層部って少しきな臭いんだよね。」
考えがまとまったのか、真剣な顔をして話してくれた。
「きな臭い?」
「関わりたくないからあまり知らないけど、裏で大きなお金が動いていたり、その詳細を一切明かさなかったり。ずっと前から不安定な状態で運営されていたことは分かっていたけど‥…」
……まったく知らないんだけど。そう言う権力争い的な事は興味なかったし関わろうと思っていなかったから、調べもしていなかった。だからのうのうと日本にいたけど、そんな事になっていたんだ。
「だから、逃げて来ちゃった!」
まあイギリスに行く僕には関係ないよね。
「ヒーローなのに肝心な時は無視なんですね。」
「ヒーロー二も手を出しちゃいけない領域はあるって事だよ!」
そんな風に話していると突然浮遊感を覚えた。何かと思うと、機内アナウンスが流れ始めた。
『イギリスの領土内に入りました。高度を下げて行きます。』
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