第24話 お姉さん
24話目
肌は水のような感触である。潤い肌というわけではなく、正しく水なのだ。
「どうだいお姉さんの『水体』は。この個性のおかげで腕が吹き飛んでも水を使えば簡単に直せるんだぞ!」
「すごいですね……」
その個性は僕たち魔術師の領分から外れていると言えよう。ここまで卓越した魔術の操作を行うには、生まれてから体の機能として馴染んでいなければいけないからだ。
もちろん魔術師の中に『水体』の個性のようなことをしたやつもいるかも知れない。
しかし、成功する確率は相当低く、僕はやりたいとは思わない。
「無制限じゃないから気をつけなきゃいけないけどな! ヒーローやってるとド忘れして死にかけたことが何度があるんだよな。」
確かに魔術を際限なく使っていると、知らぬ間に底が見えていることは多々ある。僕なんかは魔力量がそこまでないから徹底的に管理しなきゃまともに戦闘なんかもできない。
それにしても…
「ヒーローなんですか?」
お姉さんがポロッと言っていたヒーローという単語。一年前にロックスパイダーにお世話になってから関わりがなかったが、今になって知り合うとは。
「ありゃ、言ってなかったか。そうさお姉さんはヒーローとして活動しているのさ。」
「凄いですね。僕も前にロックスパイダーに会いましたよ。」
「お! あの目立ちたがり屋にあったのか。どうだった?」
「ずっと見ているはずなのに、知らぬ間に糸が張り巡らされていて凄まじい技量でした。」
あの後に調べたのだが、ピノの獣化が止められた原因は糸であった。ロックスパイダーの個性である『創糸』は様々な糸を作り出すことができるらしい。
そのことを知らなかった僕は、動く指を見ているだけで何もできなかった。
「そっか〜。あの嬢ちゃんはちゃんとヒーローやっているんだな。そうだ.、せっかくだし教えてあげよう。ロックスパイダーはな私が育てたんだぞ!」
「育てた? お子さんなんですか。」
「いやいや、子供なわけあるかい! 先生だよ。ロックスパイダーの先生をしていたことがあるんだ。」
「へー。」
「あ、興味ないな! わからないかも知れないが凄いことなんだぞ。」
いや、先生をやるというのが凄い事は分かる。僕だってこの一年間、チームの皆に魔術を教えていたけど、たった四人のはずなのに凄い大変だった。
それなのに小学校や中学校と言った学校の先生は30人もの人を相手にしているのだとか。どれほど過酷なのか予想もつかない。
だから凄いのは分かるのだが、目の前にいるお姉さんが本当に先生をやるほどの人なのか疑問を持ってしまったのだ。見た目が20代程と若くフランクで話しやすいが……あれほど大変な事をやり遂げる事が出来るのだろうか?
「お姉さんは名門である遠塔大学でヒーローを育てていたんだ。」
……遠塔大学。どこかで聞いた事があるような。
「そうだ、歌瀬さんが行っていたところだ。」
「友達に卒業生でもいるのか?」
「前に一緒に仕事をした歌瀬さんが遠塔大学大学院を卒業した、といっていたんです。知っていたりしますか?」
「え、ちょっと待てよ。からいだったよな。」
「そうです。歌瀬 奏です。」
すると思い出したようで、手をポンと叩いた。
「奏か! それなら覚えているぞ。昔ヒーロー科に一瞬だけ入って1か月も経たずに編入してたな。」
歌瀬さんそんな事してたんだ……
確かに大学の頃はヤンチャしていたと聞いていたけど、そこまでアグレッシブだったとは。
今の性格では考えられないや。
でも個性は強かったから、ヒーローとしてやっていてもいまと同じように成功していそうだな。
「その一瞬の間だけど私が担当していたから覚えていたぞ。」
「お姉さんが先生だったんですか?」
「そうさ。親に強制されてヒーロー科に入ったけど、荒事は嫌だから……あ、これ言っちゃいけないやつだ。聞かなかったことにしてくれ。」
「あ、そうなんですね。」
歌瀬さんがヒーロー科に入っていた事は知らなかった。……でも本人はヒーローになる気が無かったみたいだからあまり気にする事でもないのかもしれない。
それよりも一緒に口を滑らしていた、親に強制された事の方が気になる。
でも、聞かなかったことにするのでこれ以上は詮索しないようにしよう。お姉さんも教えてくれる気は無さそうだし。
「それにしても本当に先生だったんですね。」
「そうだぞ! 今のヒーローの半分は私が直々に助言を下したといってもいいほどだ。」
「……それなら一つ教えてほしいんですが、ヒーローネームはなんですか。」
ヒーローはヒーロー活動をする上での名前がそれぞれにある。その名前はヒーローをやって行く上で必ず必要と言っていい物らしい。なぜならヒーローをやっていない時、つまり私生活を安全に過ごすためだ。
一般的にヒーローとは個性を用いて行う犯罪行為を取り締まる、対個性の集団だ。そんな人たちが本名を堂々と公開すると、犯罪を起こしたい人たち(ヴィランと呼称)がヒーロー
として活動していない時間帯に襲ってくる確率が上がる。
だから、ヒーローネームがあるのだ。
僕はロックスパイダーと言う凄腕のヒーローを育てた人がどの様なヒーローなのか知りたいので、聞いてみる事にした。
「お! やっと聞いてくれた。まだかまだかとずっと待っていたぞ! とう!」
お姉さんは席から達僕に見えるようにポーズを取った。何かと思ったが、随分と気合をいれているみたいなので止めない事にした。
「私は星3ヒーローのワンタイムウォーターさ!」
バーンと音が鳴ったかのように錯覚するほど自信満々で知らない人がいないと確信を持っているみたい。ワンタイムウォーターといえば誰もが知っていると全身から示されている。
しかしだ、その常識が当てはまるのは普通の人だけだろう。
「知らない…」
「な、なだって!!!」
1年間ずっと研究三昧で、ロックスパイダーを調べる時間は合ったものの、数多くいるヒーロー全てを調べる時間は無かった。そんな僕に常識をあてはめないでほしい。
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