第23話 飛行機にのる。お見送り



23話目


 お別れと言う訳では無いのだが、長期間別の場所に行くというのは心配をしてしまうらしい。たった1年間ではあるが、同じ家で過ごした中のレイリーは突然海外に行く僕を見送るために入っていた予定を後回しにして見送りに来てくれた。


「そんなに急いで来なくても良かったのに。」

「そうはいかないよ。この一年間研究をしてきた仲間なんだから見送りの一つくらいはするさ。」

「とはいってもレイリーは大事な予定が入っていたんだろ?」

「大事とはいっても後に回す事は出来るから大丈夫。」


 思えばこの一年間はずっと研究をしていた。家に帰るのは数日に一回でそれ以外は仮設されている仮眠室で寝ていたし、食事も簡単に摂取できるサプリなどを併用して手短にしていた。

 そのおかげでたった1年という月日で全ての事を成し遂げることが出来たのだが、流石の研究好きの僕としても気疲れしてしまう。


 さらに言えば、この手の活動でよくある研究資料を奪うなどの妨害工作は一切なく全てがスムーズに進んでいったんだ。


 まあ、何が言いたいのかと言えば、この一年間の思い出は「ない」ということだ。

 

 せっかく塔から出て、散歩に出かけているのに思い出が無いのは虚無感に駆られる。このままでは駄目だと気が早くなっている時、イギリスと言う面白そうなところから誘いを貰ったんだ。

 研究所という面白味が無い場所から早く抜け出したいのだ。

 

「じゃあ僕はそろそろ行くよ。」

「あぁ。行ってらっしゃい。」


 とはいえ、この一年間は面白くはなかったが色々な事が知れたし、最近はコネなんかも作ることが出来た。個性社会を楽しむうえでのチュートリアルと考えれば納得できる。


 レイリーはこれでお別れかとさみしそうな顔をしながら送ってくれる。それに対してアルトはと言うと、今後に起こるであろう楽しい事に対して胸を踊らせるのであった。

 女性に対してこの仕打ちは無いと思ってしまうかも知れないが、アルトはもう数千年生きているんだ。性欲なんてとうの昔に無くなっている。女性も男性も扱いは変わらないのだ。



『12時発イギリスヒースロー空港行きの準備ができました。』


 アナウンスによりどこに行くべきなのか簡単にわかる。空港内どこにいてもこの声が聞こえるというのだから科学というのは凄いものだ。

 魔術でも再現しようと思えばいくらでも出来るが、一日に何十回も行うとなるとどれだけの労力が必要か考えたくもない。


 毎回触媒を用意しなければいけないのであれば、簡単に破産するだろう。


 そう思えば、科学というものに対して興味が湧いてくる。これから行くのは学校なのだから、講義を受けさせてもらうことも出来ないものか。考えてみるが、教師をしながら生徒になるのは大変そう。

 しかし、大変だからと知を求めないのは愚行だろう。


 それに、僕は才が無いのだから愚直に求めていくほうがいいのかもしれない。


 そこで一度思考を止め、動くことにする。

 考えることは良いが飛行機を逃してしまうのは良くない。


「3はどこだ?」


 そう思い早めに搭乗口を探し始めた。しかし、思いのほか空港という場所は広くいくら歩いても見つからない。

 まだ時間に余裕があるとはいえ急がなければ。


 予約の際にもらったチケットを片手に練り歩く。


「マスター大丈夫ですか?」

「……都会って怖いね。広いからどれだけ歩いてもたどり着かないし、道に迷ったよ。もう元の場所には戻れない。」

「・・・」


 ピノは呆れたように見つめてくるが仕様がないだろう。こちらと1年間ずっと研究漬けだったんだぞ。

 テレビを見たりお昼ごはんを食べるために外に出たりすることは偶にではあるが合ったが、それでもここまで大きな施設に行ったことは数えるほどだ。


 その時だって一人で行ったんじゃなくてチームの誰かと一緒だ。

 そんな状態で無計画に歩いているのは僕が悪い。それは認めようしかし、ここまで迷ってしまうのは構造が悪い。


 これでも数千年の経験を蓄積している身だ。そう簡単に迷子になることはない。そのはずだったのに……


 もしかしたら辿り着けないかもと、パニックになりかけてくる。

 そんな僕を見かねてなのか、目の前にメシア(救世主)が現れた。


「そこの少年大丈夫かい?」

「え……あ、はい。3番の搭乗口が分からなくて。」

「お、イギリス行きだな! お姉さんも同じ飛行機だ。どうだい一緒にいくかい。」

「お願いします! 」


 声をかけてくれたのは日本人ではあまり見ない肌色の高身長の女性だった。




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