第17話 話し合い。結構大切
17 話目
「明日研究所に来てもらうけどいいよね?」
それは突然の事であった。夕飯を食べ終わり食後の珈琲を楽しんでいた時の事、忘れていたかのようにレイリーが話しかけてきた。
手に持っていた歴史書を一度降ろし、目線を向ける。
「いいけど何をするの? 研究の成果を見せてほしいとかは言わないでよ。」
「流石にそんな事はいわないさ。同じチームでもないのに情報を強奪するのは倫理観的にヤバいしね。」
「それなら何を?」
「うちの研究メンバーにアルト君の事を紹介したんだ。魔力回路のこれからかかわりが多くなると思うからね。」
研究メンバーと言う事は魔力回路の膨張についても手伝ってくれるのかも知れないね。それならちゃんと顔を合わせなきゃいけない。顔すら知らない人の情報は信用するにあたらないだろうからね。
まあ、そんな事は置いといても、僕の服を選んでくれた人もいるだろうからお礼を言わなければいけない。レイリーの情報からではただの変人であったが、選んでくれたのだから。
「いいよ。それなら準備をしないとね。」
「準備? 必要な物はないぞ?」
「いやいや、僕が魔術師だと証明するための小道具は必要でしょ。レイリーの時みたいな荒業でいいなら杖すらいらないけどそうもいかないからね。」
「あ、あぁ。それはお願いしたい。あいつらは私よりかは脳味噌が柔らかいだろうから直ぐに納得できるだろうから。」
手に持っていた歴史書を一度閉じて、必要そうなものを考える。正直戦時であれば杖さえあれば他に必要なものは無いのだけど、今回に限っては魔術師であることを教えなければいけないため役不足だ。
杖に何らかの細工を施していると思われたらそれまでだし、どんな魔術を使ったとて個性だと思われたら意味がない。
だから、個性ではないと一目でわかる事をしたいのだけど……
「そうだ、魔力回路の事は教えたの?」
「軽くだけど教えたぞ。アルトを研究所内にいれるために理由を付けないといけないからな。それに、今後行う研究のさわりだけでも教えとかないとアルトを合わせる意味がない。」
「あんまり広めないでよ。個性が繁栄しているとはいえ広まったら何が起きるか分からないんだから。」
「秘匿の為だったか。」
魔力回路を教えたのであれば出来る事はありそうだね。
正直魔術と個性の違いを何も知らない人に説明するのは困難極まるので、魔力回路の事だけでも説明してくれているのはありがたかった。
もし何も知らなくともなんとか出来るかと問われれば「出来る」と断言できるが、かけるコストが格段に上がってしまう。
「そう秘匿だよ。魔術は秘匿と歴史を歩んでいると言ってもいい程、内密にされているんだ。」
「争いがおるから……だったか。」
「数少ない魔術師同士であれ数千人が死ぬ争いを起こすんだ。もし数億人にもなる人たちが魔術を知ってしまったらどうなるかは想像に難くない。まあ、その縮小版が個性なんだろうが。」
「……」
「レイリーが烈々に語っていたからね。僕も興味が湧いて個性の歴史を調べてみたんだ。」
魔術を公開しないことに疑問を持っているようだから説得するために話をする。
机に置いた歴史書をコンコンと叩く。本棚に置いてあったから勝手に読ませてもらっていたんだ。
「残念な事に理解できない単語が沢山あったから、ほとんど分からなかったけどそれでも読みとけた事が有る。」
「……」
「何らかの現象によって個性が発生し、世界は混乱に包まれた。人々は授けられた能力によって傍若無人な無秩序な世界に移行しようとしていた。だが、様々な思想の混雑により一時的な安定を手に入れた。簡単に読み解いたけど、合っているかな?」
神語は知らない概念を理解することは出来ないから分からない事が多かったが、それでも頑張って読み解いた方だ。一番わからなかったのは個性が発現した時の説明と表現かな。
似たような概念はキリストの弟子? 付き人? かなんかが熱心に広めていたからなんとなくは分かるんだけど、それでも理解しきれてはいない。
「そうね。個性が発現した暗黒期何て言われている時代は、荒れに荒れたそうよ。」
「もし発現したのが何の制約もない個性。つまり魔術だったら、世界はどうなっていたとおもう?」
「貴方の言い方では、沢山の死人が出るのよね。」
「少数ならね。でも世界中の人が魔術を使えるようになったら、それだけではとどまらないよ。」
「どうなるって言うの。」
「星が死ぬだろうね。焼野原とかそういう次元じゃない。荒野の大地がどこまでも続く……火星とかがいい例なんじゃないかな。」
「……個性が発現してもそんな事なっていいないじゃない。」
「個性だからね。それに発現した初期のころは真面に個性を使えなかったんじゃない。理解の仕方が悪いのかも知れないけど歴史書を読んだ限り、世代が進むにつれて個性が強くなっているって書かれているしね。」
「確かに少しずつだけど、世代が進むにつれて個性の力が強くなってきている。でも、魔術が発現していたとしても同じなんじゃないの? 個性は魔術とおなじなんでしょ。」
いい所を突いてきた。確かに魔術の劣化とは言え人を殺せる程度の力は持っているだろう。しかし重大な違いがあるんだ。
「確かに個性は魔術と同じようなことが出来る。でも、大切なところが違うんだよ。」
「なにがちがうの。」
「使用できる魔術の量だよ。個性だと一種類しか使用できないのに対して、魔術は特訓すればいくらでもだ。力が弱かったとしても、火を操る事が出来る人を1000人用意すれば一つの都市は崩壊させられる。一種類しか使えない個性だとその人数を用意する事が難しいけど、魔術だと簡単だ。」
上級と言われるほどの魔術師であれ、見習いの魔術師が1000人集まったらあっけなく死んでしまうなんて言われているほど数と言うのは大事だ。
だから、数億人もの人たちが魔術を使えるようになったら星一つなんて簡単に崩れてしまうだろう。
しかしそれが出来るのは魔術だからだ。協調性のない魔術しか使えないのであればどれだけ数が揃っていたところで関係が無い。個性はその例に当てはまってしまっているから脅威とは感じないんだ。
「出来る事が多ければ多い程可能性は広がっていく。いまでこそ、個性の力が上がっているから脅威に見えるかも知れない。それでも魔術には到底及ばないんだ。」
使える魔術の量しか違わない。たったそれだけと思うかも知れないが、その差で天と地ほど空いているんだ。
一つの事しか出来ないんだったら対処は一つだけでいい。
「火事がおきているなら水をかければいい。地割れがおきているなら地面を操ればいい。強盗がおきているなら殺せばいい。適材適所なんて言葉が有るらしいけど、魔術師であればその全てを1人が出来るんだ。」
「だから秘匿するべきだと。」
「そう。もし一般人に知れ渡ったら、個性どころじゃないからね。」
まあ、個性によって一種類の魔術しか使用できないようになってしまっているので、たとえ広まったとしても使えはしないだろうけどね。
でも、将来的に個性の縛りから解き放たれたら本当に大事件が起きる。
だから、個性が蔓延したからと言って楽観視しないで秘匿しておきたい。世界にとって。
「しょうがない。私としてはすぐにでも公表して様々な問題を解決していきたいところだけど、性悪説よろしく良い事に使わない輩はいくらでもいるんだ。誰にも言わないよ。」
「それならよかった。もし広めるようだったら口を封じなければいけないところだったから。」
そう言いながらレイリーに見えるように杖を弄る。
「あ、ああ。誰にもいわないさ。」
レイリーは魔術を直に喰らった事が有るからか、言葉の節々から怯えていることが分かる。教えた責任があるので口止めしなければいけなかったが、出来たようでひとまず安心だ。
しかし、杖を見せただけで怯えてしまっているのはやりすぎた気がしてならない。無知は必要だが、飴も大切だろうとレイリーに一つ仮説を与える事にした。
仮説とはいっても確証を持っているので、これから与えていく知識を使って研究すれば答えにたどり着くことが出来るだろう。
「ちゃんと守ってくれるならいい情報を一つ教えてあげようか。」
「?」
「実は歴史書を読んでいた時にね、とあることが目に着いたんだ。それが個性の力。世代が変わっていくにつれて個性は強力になって行く。」
「あぁ、まだ未解明だが確実にはっせいしているもんだいだな。このまま強くなって行くと次の次の世代では個性によって自滅してしまう例が出てきてしまうかもしれない。」
「問題になっているのだろう? だから、なんでそんな事が起きているのか……とある仮説を提案してあげよう。まあ、確かめてはいないし想像上の中だけだけどね。」
「分かったのか?! もしかしてそれも魔術によってか。」
話が早い。と言うよりは僕が持っている情報のほとんどは魔術だからか。
「近いね、正確には魔力回路がの成長が影響しているんだよ。」
「成長?」
「そう……いや、魔力回路に適合してきたと言った方がいいのかも知れない。世代が進むにつれて、体が魔術回路に慣れてきて量が増えてきた。親より子の方が魔力回路が多くなる。それが個性が強くなっている理由なんじゃないかな?」
「……たしかに。理にはかっているか。」
「最近だって魔力回路の膨張が増えてきたらしいじゃないか。あれは個性によって魔力回路の在り方が偏ってしまっているから別の症状に見えるかも知れないけど本質は同じ。魔力回路が成長しているんだ。」
だから個性が強くなったことに目を付けたんだけどね。魔力回路が成長しているという本質は同じだから。
「まって、それなら……」
「あ、分かった? 理解力が高くて楽だよ。」
「このまま放置していると人類全員が魔力回路の膨張になるってこと。」
「そう、うかうかしてたら死んじゃうよ。」
点と点が線に繋がった時のようにハッとしていた。真っ先にやるべき事が分かったのだろう。僕もこれに気付いたときはびっくりしたよ。
一般人が魔術を使えるようになってしまっているのはもうしょうがないと思っていたけど、一種類しか使えないのであれば魔術師が立ち入る必要はないと思っていた。歴史を見れば、魔術師が落としてしまった魔道具を拾った王様や、神によって天罰が下った都市なんかはいくらでもある。
今回もそのうちの一つくらいにしか考えていなかったんだ。
でも、死んでしまうのは無視できない。救うための手段は持っているのだから立ち直るための手助けくらいはしてあげなければいけないと魔術師として思っている。
「それなら早急に研究を進めなければな。」
「そうした方が良いよ。」
気合をいれたレイリーを横目に見てピノを撫でるのであった。
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