第16話 生活というのは簡単になったみたい。ピノは寝たい
16話目
魔力回路の膨張を話してから一日が経った。レイリーは研究を行うために出資元と話をしなければ行けないらしいから、朝早くから出て行った。
せわしなかったが、僕は眠かったのでショボショボした目で見ているだけであった。ピノもまだ寝ている。
「……そろそろ起きなきゃな。」
「・・・」
ずっとゴロゴロしているわけにはいかない。堕落を貪るのは楽しいが、怠惰に生きたくはないのでそろそろ動こうと思う。だが、昨日の事が有ったので今日は外にはいきたくない。
そう頻繁に巻き込まれる事は無いと言うのは分かっているけど気分ではないのだ。
「ピノは寝てる? 今日はどこにも行かないから寝てても良いけど。」
「……起きます」
起きるようだが、眠気は覚めないようで膝の上に座ってしまった。僕は目が覚めてきたので着替えたいのだが、丁度乗ってきたピノに邪魔される。
昨日レイリーが買ってきてくれた服が有るから、それを着てみたいのだが……
このまま動かないわけにはいかないので一度ピノを降ろすことにした。
「ニャー」
嫌がっているがお構いなしだ。しかし無理やりすぎたのか怒ってしまった。
「シャー!」
降ろしても直ぐに膝の上に乗りなおしてくる。何度降ろそうとしても、降ろしきる前に手からすり抜けて膝に戻る。
もう降りないでいる気だ。
「もぅ、分かったよ。」
ピノの根気に負けて膝から降ろすのは諦める事にした。しかし、そろそろ膝が痛くなってきたので、降ろすのではなく頭の上に乗せた。
これは良かったようで暴れたりはしないようだ。
安定はしないが、立てないよりはいい。苦肉の策だ。
しょうがないと思いながらもかまってちゃんの相手は大変なのであった。
「水浴びしようかな」
魔術によって体は汚れないようにしているんだけど、たまには体を洗いたい。そう思っていたのだが、丁度良くレイリーが浴びれる場所を教えてくれたんだ。
せっかくだし浴びる事にした。
塔にいた時は水を用意するのが面倒くさかったので、本当に三桁年ぶりだと思う。【青】様と合う時は身を清めると言う意味合いで浴びてはいたので2000年ぶりと言うわけではないけど。
しかしピノは水を浴びるのは嫌いなようで水浴びと言った瞬間に頭から降りてしまった。
生物的にしょうがないけどピノは汚れないようにする魔術は使えないんだから水浴びくらいはした方が良いんじゃない? と思うが、大丈夫! と言っているので強要はしない。
実際に撫でてもふわふわで汚れているようには見えないからいいんだけどね。
寝ていた体を起こして教えてもらった場所へ行く。タオルは適当に取っていいと言われているから、一番上においてあるやつを使わせてもらおう。
☆
「久しぶりの水浴びはいいね。」
水浴びで冷えた体をタオルで拭く。水滴は全部落としとかないと風邪ひいちゃうからね。全部ふけた事を確認すると、レイリーが用意してくれた服を着させてもらう。
なんでも研究仲間に僕の事を話したらしいのだが、要領が良い女性が一緒に選んでくれたらしい。容姿を言ったらにやにやしながら見てくれたみたいだ。
現代の服は良く分からないから選んでくれるのは嬉しいのだが、その女性の話だけで寒気がする。レイリー談ではその女性は研究漬けになっていて出会いが無いから、暴走気味なんだと。
一応僕は未成年と言う事になっているから、手を出される事は無いと言われたが関わりたくはない。
何着か買ってくれたみたいだが、分かりやすく一度に着るものはペアになって置いてくれていたから分かりやすかった。しかし装飾とかのせいか着方が分かりにくくて、時間がかかってしまった。
その甲斐あってなのか、姿見で見てみると結構良い感じに着れている。時間かけただけはあった。
「どうかなピノ。」
新しい服をいた喜びでピノに見せに行く。流石にもう起きているだろうからね。
「……良いんじゃないですかね。」
まだソファーでゴロゴロしていたようで、眠いのか反応が薄い。ピノ用には何も買ってもらっていないから、関係ないと思ってしまうのはしょうがないけど、少しくらい反応してもいいのにな。
ピノはソファーの上で丸まりなおしてしまったので白けた雰囲気が漂っている。こんな事になるとは思ってもいなかったので、数秒立ち尽くしてしまった。
しかしこのまま立っていてもピノは寝てしまったので動く事にする。
気分を変えたので珈琲でも入れようかな。
レイリーは珈琲が好きなようで焙煎するような道具がキッチンにあった。許可は頂いているので使わせてもらう事にする。
ただ僕は焙煎とかは出来ないので粉になっているやつから抽出する程度にしておく。
使ってみたいと思うが、初めて使う時は教えてもらいながらがいい。壊してもお金は持っていないから弁償ができないからね。
キッチンの戸棚にある挽き豆と書かれている袋から適量フィルターにいれる。そこに沸かしておいたお湯を軽く注ぎ蒸らしていく。
昨日レイリーが珈琲を淹れている時、一緒に道具を説明してくれたので、手際は悪いが上手くできている。
フィルターなんて道具は使ったことが無かったから新鮮である。
珈琲のいいにおいがしてきたので、今度はちゃんとお湯を注ぎいれていく。レイリーが珈琲の淹れ方を色々教えてくれたが、あまり覚えていないので見よう見まねで真似しているだけだが様になっているだろう。
「……何しているんですか。」
「珈琲をいれているんだよ。ピノも飲むかい?」
「いいです。苦いのは苦手なので。」
嗅ぎなれない匂いに興味を持ったみたいだが、飲みたいわけでは無いらしい。
「出来た。」
抽出できたコーヒーをカップに移し入れれば完成だ。レイリーのように手際よくは出来なかったが、暇つぶしには丁度良かった。
ぬるくなってきてしまっている珈琲を持ち、ピノがいるソファーまで移動する。
すり寄って来るピノを撫でながら珈琲を一口。
まだ慣れない苦みが口の中に広がるが、苦みの中に感じる旨味が僕に珈琲というものを魅了してくる。
時代が進むにつれて様々な食べ物を食べてきたが、ここまで食に対して美味しさを追及できたのはこの時代が初めてではないだろうか。
魔術が繁栄している時代では、困らない程の食料を生産することは出来たが、食事よりも魔術に対して興味を持つ人が殆どだったから、いつまでたっても質素で深みが無い食事だった。
魔術の時代が終わってからは、それなりに食に対して興味を持っている人もいたみたいだが、なにぶん魔術が無い為に食料を調達するのは困難を極めた。日々の生活ですら身を削るのだから美味しさを求めることは出来ず。
しかし今は魔術の時代よろしく食べるのに困る事はなく、命の危険に脅かされることもすくない。そんな時代だからこそ、食に手を出せているのだ。
文明の味がする。といったら妙に感じるが、時代によって食はここまで変わるのだから、考え深いことだ。
ほとんど飲み終わり体が温まってきたころ、頭を動かしたくなってきた。
ここで魔術の研究をするわけにもいかないので、レイリーに魔術を教えるための教材を用意しておこうかな。残り数口の珈琲を机の上に置き準備するのであった、
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