第15話 帰宅。推測


15話目


「ただいま。」

「おや、やっと帰ってきたのか。」

「少し戯言に巻き込まれてね。ピノ、出てきていいよ。」


 この家に入らせてもらってから昨日の今日ではあるが、そんな事は気にせずにずかずかと入っていく。周りから見れば熟年の夫婦のようだと感じるかも知れないが、表情を見ればそんな事は無いと分かる。

 脅迫じみた説得から一日がたち、僕に対しても落ち着いてきてはいるが、何をしてくるか分からないから怯えている。


 口調が戻っているからほおっておけばいいだろう。


 態度についてはあまり深く考えずに、当然の権利かのようにリビングにおいてある高そうなソファーに座る。


「今日は知らない事ばっかで疲れたよ。」

「本当です。あんな人混みはもう行きたくはありません。」


 流石にピノも疲れてしまったようで、フードから出てきたはいいものの膝で丸まってしまった。塔にいた時は人と会う事は全然ないからね。

 魔術を使わない貧弱な生物がいる程度にしか思っていないだろうけど、それでも殺さないように立ち回るのは大変なのだ。


「どこに行ったのかい? 朝から姿が見えなくなったから、長い事外にいたみたいだけど。」

「少しだけ見て回る予定だったんだよ。何も知らないのは良くないからね。そしたら、目の前で子供が倒れたんだ。あれはびっくりしたよ。」

「つまり子供の看病をしていたのかい?」

「いや、治してあげたんだよ。魔力回路が過剰に膨張していてね、折角だから治してあげたんだ。そしたら病院までついてきてくれって言われてね。」

「へ~……魔力回路の膨張、と言うのは初めて聞いたがどんな症状何だい?」


 子供が倒れたところには興味を示していなかったが、魔力回路と言った瞬間に持っていた珈琲をおき、僕の顔を見てきた。

 知りたいのだろう。まったく知らない技術が個性に関係しているかも知れないと言う事が。


「魔力を生成する器官が膨張してしまっているんだよ。体に負担がかかるほど生成してしまうから、子供は膨張した場所を抑えてうずくまっていた。」

「へ~、どうやって治したんだい?」

「ちょちょいって魔術を使ってね。直ぐに良くなったよ。」

「……あぁ、あれか。思い出したぞ、治す方法が無いと言われていたな。」


 レイリーは断片的な情報のみでどんな病なのか見当がついたようだ。


「それを治しちゃったから御呼ばれしちゃってね。大変だったよ。」

「それは大変だったな。私も少し前ではあるがそれを専門的に研究している人に話を聞かれたぞ。苦手な人種だったからそれ以降かかわりはないがな。」

「巴さん?」

「……そんな名前だったと思う。」


 レイリーさんと合っていたんだな。それならなんであれほど考えなしに動くことが出来たのか、頭を悩ませるが馬鹿ゆえに何も考えていないのだろう。

 1人で開発した実績が欲しいがために、僕をのけ者にしようとしたやつだ。


 考えない奴は分かりやすいのだが、馬鹿は何をしでかすか分からないから本当に怖い。


「その人と会ってきたよ。研究がまったく進んでいなかったから無駄だったけど。」

「まだ研究途中なのか、私とあった時は半年で治すと意気込んでいたのが。それじゃあ治せないんだな。」

「そうみたいだね。あ、でも一ついい知らせがあるよ。」

「なんだい? 研究者である私を満足させるのはそうそうないぞ。」

「魔力回路の膨張を治す現実的な手段を思いついた。」

「ほう! 巴とやらから取ってきたのか?」

「自前だよ。患者さんを見せてくれてね、持って帰ってきてしまった。」

「……その情報を私に渡すということは何とかしろということか。」

「そうだよ。巴さんだと力不足だからね。信頼できる人に頼もうと思ってね。」

「そんな評価をしてもらっていたのか! アルトは私をおだてるのが上手いな! いいじゃないかやってやろう。さっさと教えな。」


 おだてるとそれに乗っかってくれた。レイリーは個性の研究者と言う事らしいから良い情報があれば断る事は無いと思っていたから期待通りである。

 断られても魔術を教える一環で、お題として出してやろうと思っていたから、結局はやらせていたんだけどね。


「じゃあ教えるね。」





 魔力回路の膨張について巴さんから教えられていたらしく、それなりに知っていたみだったけど時間がかかってしまった。

 魔力回路の事についてまったく知らない人に一から教えなければいけないから時間がかかるということは想定していたが、それでも疲れてしまうのはしょうがない。


 しかし、教えなければいけない事が多かっただけで飲み込みは早かったので、全体的にスムーズであった。


「つまり個性の影響で魔力回路が一か所に集まって膨張してしまっていると……」

「原理は分からないけどね。」


 あらかた教えることが出来たので、やっと本題に入る事が出来そうだ。


「で、その膨張してしまっているのを何とかしたいって巴さんが頑張っていたんだ。」

「ここで最初に戻ってくるわけなのね。」

「そう、ここまでは全部わかった?」

「あらかた覚えたけど使えるかは分からないね。」

「今はそれでいいよ。」


 レイリーは記憶力がいいらしく一度教えただけで覚えてくれた。


「それで本題だけど、魔力回路が膨張してしまっている人たちを見てきて、直す方法がいくつか思いついたんだ。一つは魔力回路を取ってしまう。そうすれば魔力は生成できなくなるから体を悪くすることはない。」

「……魔力回路は全部取らなければいけないわよね。」

「おぉ! さっそく分かってきたね。取るとしたら全部取らないと魔力回路が誤動作してしまうかも知れなくなるからね。下手に残すとずっと魔力を生成し続けてしまうかもしれない。」

「そうなってしまうと体の中に魔力だまりが出来てしまうのね。」


 魔力だまりが出来てしまったら、それこそ魔力によって体を傷つけてしまったり、最悪はなんかの拍子に爆発してしまうかも知れないんだ。オイル? と同様の物だと考えてもいいかも。


「でも、魔力回路を全部取ってしまうということは個性が使えなくなってしまうということでしょ?」

「そうだね。だから推奨はしない。2つ目は一時的に魔力回路を停止させること。特別な薬物が必要だけど、魔術を知らない人でも出来る範囲だ。」

「確かに一時的なら、体が成長したタイミングで戻せばだいじょうぶ。」

「でも決定的な欠点があってね。その薬物っていうのが劇薬なんだ。もしかしたら大人になるまで生きられないかも知れない程のね。」

「……今までの中では一番可能性がある。毒性に関してはこれから何とかして行けばいい。」

「最後に3つ目。僕はこの中では一番推奨したいよ。」

「どんな方法だい?」

「魔力回路を矯正するんだ。」

「矯正? 出来るのかい。」


 矯正とは、正常な状態に治すことだ。つまり一か所に集中してしまっている魔術回路を体全体へ広げる。


「出来るかできないかで言えば出来るよ。もちろん体の負担は大きいだろうし手術もしなければ行けないだろうけど、可能性はある。」

「手術か……懸念点はあるかい?」

「手術をしなければ行けないから魔力回路が見えなければいけない。」


 魔力回路を見るためにはそれなりに訓練が必要だ。


「魔術回路を体全体へ広げるから、個性が変質してしまう可能性がある。」


 個性によってなったと思われる膨張を無理やり体全体へ広げるから、今までとは違った個性になるかも知れない。例えば、火を出す個性だったとして元は手からしか出せなかったけど、体全体へ魔術回路を広げた事で全身から火が出せるようになるかも知れない。

 しかし魔力回路を分散させるということだから出力は減るだろうし、もしかしたら予期せぬ結果が訪れるかもしれない。


 例えば上手く操作が出来なくて全身やけどを負うかも知れない。


「たしかに……可能性はあるね。」

「切ったりしないから誤動作をする可能性は少ないし、個性を持っている人の多くは魔術回路が偏っているから治療もしやすい。」

「どう?」

「……何とかなると思う。でも未知の分野だから慎重にやらないといけない。」

「それなら良かった。時間がかかってしまうのはしょうがないからね。」


 断られたらどうしようかと思っていたけど、研究してくれるようだ。今の僕には研究するための施設なんてもっていないからレイリーの協力は不可欠だったんだよね。


「でも、研究するためには魔術の知識が必要だからアルトくんも協力してね。」

「任せてください。協力は惜しみませんよ!」





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