第14話 予知のお婆ちゃん。切り捨て
14話目
「いや、今はそんな話より、私の魔力回路を見てもらいたくて来たんじゃよ。巴よ,
いいじゃろ?」
「え、はっはい。良いですよ。」
巴さんは僕の了承は得ずに応えてしまった。だけど、予知の個性の魔力回路は見てみたいと思っていたところだから何も言わない。しかし何もしないのは違う気がするから後でさっき言った購買の物を何か買ってもらおう。
「少年もいいじゃろ?」
「良いですよ。僕も予知には興味があります。……ですがなぜ見せたいんですか?」
「それはの、わたしが……え~と、回路の膨張? とやらだから。知りたいと思ってね。」
なぜなのかと考えても直ぐに理由は思いつかなかった。でも魔力回路の膨張であれば納得がいく。
だけど、いま痛みが出ているような様子はないし、気にしなくてもいいのではないのかと思ったが、その後に言われた言葉でそんな思いは無くなった。
「10歳の誕生日だったかの。私は回路の膨張によって入院する羽目になったんじゃ。その時はなんであんな痛みがあったのか知らなかったし、知っている人もいなかった。だからとある後遺症が残ってしまっての。そのおかげで、70年間ずっと社会に出れていない。」
「後遺症とはなんですか。」
どれ程の膨張にあったのかはわからない。けど、エレン少年の事例をみたとき後遺症もありえるのだとわかっていた。
だから、それほど驚く事ではない。そう思っていたのだが、目の前に後遺症によって人生を潰された人を見ると、遣る瀬無い感情になってしまう。
「脳の機能障害じゃよ。簡単な計算すら出来なくなってしまっての、治すためにトレーニングしておったからやっと2桁の足し算が出来るようになったさ。それと足元がおぼつかなくなって杖が手放せないのじゃ。」
片手に持っている杖をトントンと床についてくれた。その杖は長年使っているのか年季が入っており、大事にしているのが分かる。
「魔力の暴走でそうなったということは……」
「そうじゃよ。わたしゃ脳に魔力回路が集中してしまっていたみたいでね。誕生日に気分が高まっていたら、ボン! と魔力が溢れだしてしまったんじゃよ。」
「前に見させてもらった事あるわ。いままで見たことが無いくらい脳に集中していて……私にはどうする事も出来なかったわ。」
脳が傷ついてしまえば生きる事もままならなくなってしまうかも知れない。人間にとって一番守らなければいけないと言っても過言でない臓器だ。
そんな場所に膨張した魔力回路があったら、いつ死んでしまうか気が気でないだろう。
おばあさんが脳の回路によって傷ついているのにもかかわらず生きて入れているのは運が良かっただけなんだ。
脳に関しては魔術の中でも重要な要素だから、研究した事もある。だからこそ、脳の回路が膨張してしまっていることに関しての緊急性がわかる。
「……どうしたいんですか。僕なら回路を取り出す事も出来ますが、」
「いいさ。体が育ったからなのか、20歳くらいにはもう痛みはなくなったしね。」
「でしたらなんで、」
「……ただのお世辞さ。この先わたしのようになる人が少しでも減ればいいなって思っているだけ。良い資料になると思ってね。」
痛みを知っているからこそ自分のようになる人を減らしたいのだろう。何も出来ず死んでいくような人生は楽しくないのだから。
アルトはそのおばあさんの言葉が頭に残った。感銘を受けたわけではない。ただ、その心が美しいと思っただけだ。
「分かりました。出来るだけの事をしましょう。」
この時僕は決意した。おばあさんの様な事例はもう出させないと。
☆
「どうだったかしら?」
「ある程度方針が固まったよ。おばあさんのおかげさ。」
今まで肉体に負担がかからないような方法で魔力回路を見てきたが、おばあさんには少しではあるが負担がかかる方法を取らせてもらった。もちろんおばあさんに許可は取らせてもらったが。
正直体も劣化していているから、断られるかと思っていた節があり、ダメもとだったが快く許可してくれた。
そのおかげである程度解決の方法が見えてきた。
「それじゃあ、戻ったら教えてくれない? 院長と相談して実用化出来るか決めるから。」
「……いや、なじみのある研究者にお願いするからいいよ。後は僕が何とかする。」
「え、」
その過程で巴さんには治療の方法を教えるわけには行かない。そう感じた。
「その研究者は個性の分野に関しては有能らしいからね。僕が見落としている所も分かるとおもう。」
「患者と近くで接している私の方が良いんじゃない……それに魔術師なんだから魔力回路の事だって知ってる。」
確かに僕が言っている研究者であるレイリーは魔術の事はまだ知らない。しかし、研究者と言う面で見れば信用できるところは多いし、個性に関しては僕よりも断然多くの事を知っている。それに、
「君はさ、理解力が無いんだよね。」
巴さんと一緒に重要な事を考えたくはないんだ。
そう思ったのは、神語を知らないのに魔術師と名乗った時。神語の重要性を教えたのにもかかわらず魔術師を名乗っている今。
そして、理解力がないと分かった時
魔術師として重要な要素が無く、さらに研究者としても探究者としても才能が無い脳みそ。もう少し理解力があるならば、教えてもよかっただろう。
しかし思いついた案を、間違った理解をされてしまえば、それだけで尋常じゃない被害が及ぶ。
無能はいらないんだ。
「魔力回路は奇跡を生み出す魔力の生成器だ。それに手を加えるということは、肉体の改造以上の意味を持つ。未熟な知識で手を出されては堪ったものじゃない。」
「で、でも魔術について知っているのはそれだけでアドバンテージになるはずよ!」
「君程度の魔術でどうにかなるのかい? 魔術はそう簡単に公表してはいけない事は知っているだろう。秘匿しなければいけない技術でどうやって人々を助ける?」
「それは……でも、役には立つはずよ!」
「神語も知らない知識量でどうやったら助になる?」
「人が多ければ出来る事は増えるわよ。」
「はぁ……分からないのか? 君がいても手助けにはならないんだよ。味方の無能は敵の味方だ。下手に手を出されると迷惑なんだ。」
何を言っても納得しなさそうだ。しかしここで引くわけにはいかない。おばあさんと合う前なら何でも良かったが、治すと決めた手前最善の手を選ばなくてはならない。
研究とは一歩の過ちが命取りになるんだ。どれ程保険を書けたとしても踏みぬいてはいけない床がある。それが分からない奴を仲間にするわけにはいかない。
巴さんは引く気が無いということが分かったが、アルトは教える気はさらさらない。これ以上話していても何も変わらないと悟ったアルトは一言残して帰る事に決めた。
情報はこちら側にあるのだから、帰られたら何もできまい。
「そもそも僕が来る前に分かっていたことと言えば魔力回路が膨張していることくらいだろう? そんな君が出来る事なんて、提案された方法が安全か否かを判別するための被験者、もしくは皿洗いよろしく雑用くらいだろう。」
「私は貴方に病で悩んでいる人たちを見せたのよ。」
「それはありがとうと言っておくよ。でも、見せることを決めたのは君ではない。手配はしてくれただろうがその程度。今後の医療の発展のために手伝ってくれて世界中の皆が泣いて喜ぶよ。」
「っ! それなら私にも何か手伝わせなさい!」
あらら。
アルトは巴さんから見え透いてきてしまっている感情に笑ってしまう。
「もしかして君は権威が欲しいからここまで噛みついてきているのかな。これが魔術師を名乗っていることに飽きれてしまうよ。」
もし、死ぬ可能性がある病を治す方法を見つけましたと言ったら、それだけで世間から注目が集まって様々な業界に力を及ぼすことが出来るかも知れない。
それを狙って研究していたのかも知れないが、そこに僕が来て成果を搔っ攫らおうとしているんだ。そりゃあ頭にくる。患者の様子から見て純粋に治してあげたいと思っていた節はあるのだろうけど、我慢が出来なかったようだ。
それと比べてレイリーは研究に純粋だったな。
僕と合って最初に言ったのが「魔術師は何とか出来なかったのか?」だったからね。純粋に死んでしまう人を減らしたいと思っていた。
それに、自尊心を沈めてまで僕に教授をお願いしてきたしね。
いつの時代だって権威を欲している人はいたから人間の
思わず口を潰してあげたいと思うが今の世の中は、暴力は駄目らしいから何もせずに帰ろうかな。
言いたい事は言ったので踵を返して出口を思い出しながら帰る事にした。
しかしその様子に興奮してしまったのか、巴さんは微量な魔力を生成しはじめた。
魔術を使おうとしているのだろうとすぐにわかった。
こんな所で魔術を使用してしまっては騒ぎになるのではないかと顔を見るが、頭に血が上っていて何も考えていなさそう。
しょうがないから何とかしようか。ここには病人がいるんだしね。
「ごちゃごちゃ言って! 私をのけ者にしたんでしょ!」
大きな声で叫んでいる。その声が魔術の起動式なのか連動して術式が浮かんだ。
何事かと周りにいる人たちはこちらを見てくるが、年を取って足腰が悪い人が多いのか逃げようとしているが凄く遅い。
ため息をつきながらしょうがなく対処するしかなくなるのであった。
「だから駄目なんだよ。」
何の魔術なのかは一切わからないが、その程度の魔力であればもみ消すのも容易。魔力回路を起動させて魔力を放出しながら手を振るう。
するとその魔力に負けてしまったのか術式がパリンっと割れてしまった。
「なん…で」
「その程度だからだよ。実力差もわからない凡庸な脳味噌だから意味もなく怒ってしまう。そんな奴を仲間にしようと思う人なんていないんだ。」
意気消沈して膝から崩れ落ちてしまった。怒りで攻撃してくる人にかける言葉なんてない。
もう何もして来ないようなので帰らさせてもらった。
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