第13話 調査のち予知



13話目


一人目 個性 未発現


「こんにちは、アルトです。お名前はなんですか。」

「ぼく? ぼくは酒見日酒さかみ みしゅだよ!」


 父は酒で酔わなくなるアルコール耐性の個性を持っており、母は水を手から出せる個性を持っている。

 そのため、お酒関係の個性が発現すると予想されている。


「体を見る事は許可を頂いているわ。手を施すのはだめだけど、それ以外なら好きにやっていいわよ。」


 アルトは個性の調査のために巴に連れてこられた病室で日酒くんのことを見させてもらうこととなった。

 個性の暴走以外の病にはかかっていないが、最近ひどくなってきたらしく入院しているらしい。


 日酒くんに許可をもらい上の服を脱いでもらった。

 エレンくんを検査するときは服を着たままだったが、やっぱり服はないほうがやりやすい。

 

 痛むという肝臓に手を当てさせてもらい、魔力回路を見せてもらう。

 痛みはないだろうけど、触っている違和感で、くすぐったいようだ。


「どう?」

「まあ、回路が膨張しているという点では同じかな。」


 基本はエレンくんと同じではあるが、使える術式が違うから回路の形や大きさが違う。

 単純に魔力量で痛むのだろう。


 

二人目 個性 頑丈

 任意のタイミングで体を固くできるぞ! 


「アルトです。お名前は。」

「壁塚 かべつか がんです。」


 年齢は15歳と少し高めだが、まだ痛みがあるらしい。しかし突発的に起こることは少なくなってきている。


「個性を使用するときに強い痛みが全身に走り、強度を高めていくと痛みはましていきます。」


 体が大きくなり回路は安定してきているが、魔力を生成しようとするとまだ痛むようだ。


「それじゃあ見させてもらいますね。」


 腕や足だけ見れば良いかと思ったが、全身が痛むということなので胴体の部分も見ておく。全身見る必要は無いかと思ったけど、一応見ておくことにした。

 すると、全身の魔力回路は均一だと思っていたのだが、何と言う事かばらばらだったのだ。


 特に腹部に魔力回路が集まっており、足と比べて1.3倍程の膨張である。全身が痛いということだったから、魔力回路は統一だと思っていたけど、個性の事は分かっていないから、ちゃんと調査しなきゃいけないと思った時であった。



三人目 個性 腕力

腕の力が強くなる!


「腕を動かそうとするとき個性を使うと痛くなるらしいわ。でも、今まで個性ありきで生活してしまっていたみたいだから、筋力が成長していないの。最近はずっと筋トレらしいわよ。」


 腕力の個性をずっと使いつづけていると個性ありきの筋力しか付かなかったのだろう。個性を使わなければ箸すらもてなかったようだ。

 そのため最近は個性を使わないように生活をしているらしい。個性の暴走がいい機会だったそうだ。


「見せてもらいますね。」

「どうぞ。」


 腕力の個性を持っている力也くんに腕を見せてもらった。するとやはり、回路は膨張しており体身にはにつかない大きさだ。

 こんな大きさの魔力回路を体が丈夫な人が持っていたらどれだけの脅威になったか見てみたいが、局所的にしかなく、さらに一種類の魔術しか使えない不要ものでは直ぐに処理されてしまうだろう。


 そう考えると、この程度の膨張なら取ってしまった方が良いのかも知れない。


 実際の症状を見てみても新しい案は出てこないうえに、魔力回路を取るのに賛同したくなってきてしまった。

 それほど生きるのに大変そうなのだ。


 


4人目 個性 飢餓


 常に使用してしまうタイプの個性であり、エネルギーの消費量が高く、直ぐにお腹が減ってしまうぞ! だけど大丈夫!! コントロールが出来るようになればエネルギーの消費量は自分で変えられるようになるかも!


「よろしくね。」


 ぺこり


 餓狼がろうくんはベットから動かずに頭を下げるだけであった。事前の説明では体を動かすと、飢餓の個性が強くなるらしくエネルギーが直ぐに消費されるのだ。

 だから必要最低限の行動に納めたいらしい。


 個性を使わなければコントロールは出来ないらしいから、そのせめぎあいで苦労しているみたい。


「さっきも言った通り個性のせいで常人の何倍もエネルギーを消費しているんだけどその分利点も合ってね。筋肉がつくのは早いらしいし、普通の人の何倍もの力が出せるみたい。ついでに怪我の治りも早いらしい。」

「でもそれだと寿命は縮まない?」


 筋肉が着くのが速いのであるならば細胞の消耗も早いのではないのだろうか? 元々100年しか良きれない体なんだからそんな何倍もエネルギーを使っていたら早く死んじゃいそうだけど。


「それについては大丈夫そうよ。この子の母親は再生の個性を持っているらしくて、消耗した細胞からどんどん再生していって、成長速度は普通の人と同じみたいよ。そのかわり、エネルギーの消耗が激しいようだけどね。」

「エネルギーの消費によって体の成長を早めているけど、その分回復して言っているのか。父の個性は?」

「パワーよ。これも母親と同じようにエネルギーを使用するんだけど、その分100キロ程度なら軽々と片手で持てる程の力があるみたい。でもそのおかげで魔力回路が膨張してしまったの。」


 エネルギーを大量に消費する同士の子供だから魔力回路が膨張するほどになってしまったのだろう。それに個性の内容も危うい感じがするが操れるとのことなので、それに関しては気にしなくてもいいだろう。

 

 アルトは個性の内容に少し引っかかる所があったが考えない事にした。もし突っかかってしまったら魔力回路の研究より個性の術式の研究に熱が入ってしまうと思ったからだ。



「それでどこが痛いんだっけ?」

「腸がいた痛いらしいわよ。」


 エネルギーを補修しなければいけないから腸に集中したのかな? と考えたが飢狼くんが服を上げてお腹をだしてくれたので見る事にした。


 するとやはりというべきか、4人目だから見るのに慣れてきたからあまり驚きは無いのだが、魔力回路が膨張していた。

 しかし今回は魔力回路の在り方がヘンテコであった。


 今までのように一部分が膨張しているだけだと思ったけど、今回の魔力回路は少し違った。何と、腸に絡みつくかのように魔力回路が生成されており、個性に特化されていたのだ。


 今まで見てきた魔力回路は個性以前の世界でもよく見た事が有る魔力回路の生成のされ方だったんだ。だから、膨張にだけ注目していた。

 だから、どのように生成されているかは気にしていなかったんだけど、この少年の魔力回路は見たことが無い生成の仕方だ。


「巴さん。魔術回路は見えますか?」

「多少は見えるけど……どうしたの?」

「この子の回路を見てほしいんです。出来るだけじっくり、腸の部分を。」


 巴さんは気付いていないようなので知らせる事にした。個性社会だからこその魔力回路だと驚愕しているからこそ、教えたくなったのだ。

 一種類しか魔術が使えないからこんな回路になったのであれば、もしかしたら魔力回路の生成のされ方で魔術の発動のしやすさが変わるかも知れないと、知的好奇心が高まって来る。

  

 もしその事について研究をするのであれば個性は絶好の研究対象だろう。

 今まで術式に重点を置いて研究していたけど新天地を求めて魔力回路を研究するのもいいかもしれない。


「あ、これは……」

「凄いですね。僕も始めてみました。」


 すこし時間をかけたが巴さんも見えたようだ。今まで気付いていなかったのか驚いている。





 飢狼君を見終えて診察室からでた。これで見れるのは最後だったようだ。それでも4人も見せてくれたのだから感謝しかない。


「どうだったかしら? 院長には無理をいったんだからこれで新しい案が出なかったとか言わないでよ?」

「ん~、思いついているんだけど本当出来るのか分からないんだよね。」


 いろんな人を見せてくれたおかげで新たな案は出てきた。しかしその案が本当に実行できるかがあまり分からない。もしこの方法を教えたとしても、理論的に出来ないようでは意味がない。

 

「何でも良いから教えなさい。出来るか出来ないかはこれから決めるの、今は考えれる限りの情報が欲しいのよ。」

「ん~」


 いや、だけど、と言うか言わないか元の所に戻りながら考えていると丁度後ろから声をかけられた。

 一瞬アルトにかけられたと思っていなかったからそのまま歩いたが、直ぐに肩を叩かれたので振りむいた。そこに居たのは、目の焦点が合っていないおばあさんであった。


「おお!! きみ、きみだよ。」

「え、だれですか。」


 そのおばあさんは患者用の服を着ているのでこの病院で入院している患者のようだ。


「はぁはぁ。やっとみつけた。」


 しかし患者であるのに僕を見つけるために歩き回っていたのか息が切れている。


「どうしましたか。」

「少年を待っていたんだ、今日を待っていたんだ。」

「えっと、、、僕と貴方は合った事が有りましたっけ?」

「個性じゃわ、個性。」

「個性?」


 巴さんはなぜか思考が飛んでしまっているようなので、僕一人でおばあさんと頑張って会話をしてみるが何を言っているか良く分からない。

 個性で僕がここにいるということが分かったようだが……


「思い出した!!」


 すると巴さんが回復したようで、声を上げながらおばあさんの前で頭を下げた。


「柊木さんですよね。今日合えたことに感謝します。」

「んぁ? ……巴さんだったかい。貴方も少年の関係者だったかしら。ちょっと待ってなさい。」


 目上の人なのか頭を下げているようだ。おばあさんの事はまったく知らないけど、もしかしたら凄い人なのかもしれない。

 頭下げた方が良いのかな?


 おばあさんは、頭をかかえながらムムムと声を漏らしている。巴さんの事を思い出しているのかな。


「そうだ、そうだ。貴方も一緒に聞きなさい。」

「ありがとうございます。」

「えっと、このおばあさんは誰なんですか?」


 巴さんが頭を下げているところを見ると、この言い方は無礼なのかも知れないが、おばあさんが誰か分からないので思わず言ってしまった。

 すると、巴さんが焦ったように僕の頭を掴んで振り降ろそうとする。


「ちょっと! 分からなくてもいいからひとまず頭を下げなさい。」

「え、えぇ?」


 その細い腕からは感じられない程の力で頭を下げようとしてくるが、もしかしてヤバい事でもしてしまったのだろうか…


「いいのじゃよ。わたしゃそこまで堪忍袋が小さくない。それにこの日を待ち遠しく待っていたんじゃ。」

「待っていたんですか?」

「そうじゃよ、わたしが個性を発現してから70年間ずっとさ。」

「70年!」


 アルトが塔を降りてきてまだ1週間も立っていない。だから、70年も前からまつことなんて出来ないと思うんだけど…‥もしかして個性で予測していたのか!


「自己紹介がまだだったね。わたしゃ柊木 神野と言うんじゃ。個性は予知。今年で80歳になるおばあちゃんじゃよ。」


 予知!


 魔術でも未来を予測する事は難しいと言われているはずなのに、魔術の劣化だと思っていた個性で際限が出来たのか!

 僕はその個性に驚愕して本当なのか疑いたくなった。


「その証拠にほら、お主がここに来ることを見事予知したじゃろ?」

「あ、確かに。」


 僕がここに来ることは僕自身も分からなかった。元々ぶらりと歩いていたのでどこにでも行く予定だったから、しょうがないがそれを……70年も前から知っていたとすれば疑いようがない。


「どうじゃ、わたしゃすごいだろ?」

「凄いです……どんな原理で予知できているのか、知りたいほどに。」

「おぉ、自然死するまでは解剖はやめてくれよ。余生は元気に過ごしたいんじゃから。」


 ほほほ、と茶化してくるが、なぜ解剖したいということが分かったのだろうか。もしかしたら、解剖した意欲が分かるほど顔に出ているのかも。


「僕はアルトです。ファミリーネームは内緒です。」

「知っとるぞ。知っとる。少年が魔術師であることも、魔力回路の膨張の研究をしていることも。」

「それも予知ですか?」

「そうじゃよ。」

「ふふ。それなら間違っていますよ。僕は回路の研究をする気はありませんから。予知で多少情報を選らっるのかも知れませんが外れる事もあるんですね。」


 今は巴さんにお願いされただけで、研究を本格的にしているわけではない。予知と言われて驚いたが、外れるんだったら個性でも出来るのかも知れない?


「いやいや、わたしゃ予知を外すことはないんじゃよ。」

「ですが、研究なんてしていませんよ?」

「それはどうかぉ?」


 おばあさんは神妙な顔をしながら僕の顔を見てくる。どこか心の奥まで見られているようだった。





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