第12話 治す方法



12話目



「改めてだけど、個性の暴走について教えてくれる。」


 あの後に神語について何回も懇願されたが全て突き返させてもらった。すると入れてもらったお茶が無くなったところで気を切り替えたのか、やっと本題に入った。

 もちろんお茶は入れなおしてもらった。


「良いけど、巴さんの知識で分かるかなぁ。」

「別にいいわよ。人間の体の事は論文を書くくらいにはしらべているし、魔術の事ならまだしも、個性なら私以上に知っている人は少ない。」

「そっか。ならいいかも。」


 流石に神語の事を知って助長された気が落ち着いたのか、話を聞いてくれるようだ。もしここで傲慢に分からない事なんてないって言ったりしたら、離さなかったかもしれないしね。


「それなら説明するよ。まあ、僕は個性の事なんてこれっぽっちも知らないから、殆どが予測なんだけどね。」

「いいわよ。私だけだと個性の暴走を抑える方法何て知らなかったし、少しでも情報は欲しいもの。」

「ありがとう。じゃあ少年を治したときの状況から説明しよっか。」


 それから一時間後。

 エレン少年の状態がどのようだったのかを説明した後に、アレンが使った魔術を説明した。しかし術式は機密が多いから教えられない事に対して、巴さんがどの様な反応をするか覚悟を決めていたのだが、一応は魔術師と名乗っているだけあって「安定させた」と一言言ったら引いてくれた。

 予想では全てを教えろと引き下がって来ると思っていたけど、マナーは流石に知っていたようだ。


 だが引けない部分もあるようで、魔力回路の膨張については何度も聞かれた。

 僕も個性の暴走の大本だけあって、膨張についてはちゃんと説明しなければいけなかった。しかし、巴さんも魔力回路が膨張していることを、ある程度は分かっているようでスムーズに理解できたようだ。


「それにしても……体が成長に追いつけなかったなんて。」


 魔術師である僕たちは魔力回路のうち一箇所だけ過剰に膨張することは無いからこそ魔術を使えているから、そもそも想定できていなかったのだろう。


「最初見た時はそんなことになっているとは思わなかったよ。長生きしているけどこんな事は数えれる程度しか知らない。」

「……直す方法は知らない? 何回か合った事はあるんでしょ?」

「知らないさ。僕に起こった事ならまだしも、他人に起こったことについて研究しろなんてどこの王様がいったって無視するよ。利益が無い。」

「……」


 自分に起こる事でもないのだから、気にする必要はない。それは、探究者としては最低だが、研究者としては取捨選択が出来ているといえよう。

 もし僕が他人を助ける事をモットーとした自虐者であれば、被害者が少ない魔力回路の膨張について研究したかもしれない。しかし、現実として今までそんな症状を持っていた人は数えられる程度であり、そんな病を研究する時間があるのであればもっと有意義なことに使った方が良い。


「……それなら治し方は分からないよね。」

「放っておけば治るんじゃない?」

「っ、それじゃあ解決しないでしょ!」

「結局は体の成長がズレているだけだから、大人になれば治るさ。」

「そうだけど……」


 安定の魔術を使えば一時的にではあるが解決するかもしれない。しかし、今の時代に魔術師はどれほどいるのだろうか?

 魔力回路はあるのに、使用できる魔術は制限されてしまっている。


「考えられる方法は2つかな。」

「なにかあるの。」


 ずっと悩んでいるため、助言をしておくことにした。アルトとしては放置すれば治るのだからそれでいいと思っている。

 しかし、そうも言えない形相になにか理由があるのかも知れないと感じた。


「その前に聞きたいんだけど、なんでこの病に熱心になってるの? 魔術師ならもっと有意義なことがあるでしょ?」

「……そうも言ってられないのよ。個性の暴走をする人たちが増えてきて、最近は子供の5人に1人は発症してる。

このまま放置していると、何もできないまま死んじゃう子達が増えるのよ。」

「あれ? 個性の暴走って結構起こるの?」

「言ってなかったかしら。それはごめんなさい。」


 5人に1人ということは、相当なりやすいのだろう。先に言ってくれればいいのに。

 それにさんな確率で発症するということは早めに対処しないと、今回の子どもたちはよくてもその次に産まれた子どもたちの被害が強くなる。


 何が言いたいのかといえば、魔力回路は遺伝するから、膨張した同士の子はもっと膨張するかも知れないということ。


 つまり、個性の暴走の症状が強くなってしまう。

 だから、早めに対策を考えておかなければならない。


「それなら早めに言ってほしかったよ。まあいいや、解決案を出しておくね。」

「おねがい。」


 しかし、僕の研究テーマからは遠ざかり過ぎているので、今回しか関わらないと思う。


「一つは今いった通り、放置すること。」

「でも、そうすると…」

「なんの解決にもなっていない。だけど考えないで切り捨てるのは愚行だ。放置するということの目的は体が魔力に耐えられる時期までまつということ。つまり、耐えられるようにすればいい。

体を強くするか、魔力を弱めるかは好きにすればいいと思うよ。」


 我ながらいい案だと思う。体を鍛える方法なんていくらでもあるし、最悪筋力増強剤でも飲めばいいだろう。


「2つ目は魔力回路を止めること。魔力の被害が出ないように、魔力回路を停止させて魔力を生成できないようにする。もしくは体から魔力回路を取り出してしまう。

これなら、直ぐに効果が出るだろ。」

「……それは。」


 魔術師であればありえない選択だが、元々魔力がなかった人たちにとっては選択の一つに入るだろう。

 しかし、止めるにしても取り出すにしても魔力を生み出す力は小さくなるだろうから、今後のことを考えるのであれば選びたくはないだろう。


「僕としてはこの2つの案のどちらかを選んだほうがいいと思う。」

「それ以外はあるの。」

「ない。といったほうがいいのかも知れないけど、あるにはあるよ。」

「教えて。いまは何にでもしがみつきたいの。」

「いいけど……」


 教えたところで、どうせ選ばないしな。


「3つ目は子供を産ませないこと。もしくは結婚を強制すること、かな。」

「どういうこと。そんなことして意味があるの。」

「魔力回路は遺伝するだろ? だから、個性の暴走が起こる確率が高い同士の結婚は禁止するんだ。そうしたら100年後には個性の暴走なんて問題はなくなる。」


 現代の倫理観だとできないとおもうからいってもしょうがないと思っていた。魔術師であれば政治婚は割とあるから、自由恋愛禁止は受け入れられる部分はある。

 現代では認められない人もいるだろう


「それ以外は。」

「現実的な手段は思いつかないね。悪魔と契約しても良いならそれが4っつ目だね。」

「それはダメ。解決してないし。」

「だよね。」


 否定する事を分かっているうえで3つ4つ目を言ったが、欲しいあんは出てきていないよう。しかし個性についての知識が浅いアルトにはこれくらいしか出てこない。

 もし求めている結末があるのであれば、自分で考え切って欲しい所だ。


「現実的なのは二つ目ね。回路を摘出する難題はあるだろうけど、数年で可能な所まで持っていける。」


 確かに2つ目だと、症状は治まるだろうし摘出は難所ではあるが出来る範囲だろう。体を切って取り出せばいいだけだから、魔術が使えなくても何とかなる。

 でも、魔術師としてはあまり推奨したくはない。


「いいの? 二つ目だと一生魔力量が減るけど。」

「背に腹は代えられないわよ。回路を取るだけで生きていけるんだったら、そっちの方が良いでしょ。」

「そっか。でも本当にそうすると一定以上の魔力を生成できる人は現れなくなっちゃうよ。」

「しょうがないでしょ?! そのままにして、なんかの拍子に魔力を生成したら体がぼろぼろになっちゃうんだよ!」

「いや、別にいいならそれでもいいんだけどね。」


 個性と言うくらいだから、稼働できる時間は長い方が良いと思ったけどね。魔力回路は魔力量に直結するから、そう簡単に摘出する事を決めてしまうのは安易なんだけど、そうも言ってられないのだろう。

 確かに5人に1人も魔力量が体に合っていないのであれば、早く動かなければいけないのかも。


 何が正解で不正解のか頭の中で喧嘩する。アルトにとっては命よりも魔力が正義だと思っているけど、巴さんにとっては命は何にも代えがたい物。つまり意見が違っている。

 長い間生きている中で魔力量に嘆く人を何回もみているアルトのに対して、魔力の量によって苦しんでいる人を見ている方が多いからこその選択だ。


 時代が違えば価値観は変わると言うが、力に対してここまで固執することが無い時代は初めてだ。力を求めるために命を捨てるのは普通だと言う固定概念が壊れていく。

 力が無ければ命はないと言う常識が変わったのだろう。


 その意識はこの国の法律にも出ていたと思い出す。


 無理やりやらされた、保護者の契約。それは18歳になるまで保護をすると言う、過保護にもほどがあるだろうと吐き擦れられそうな法律だ。

 しかしこの時代では当たり前で否定するほどの事でもない。


 だから、この差異を出してしまう。

 命一番の行動は生ぬるいと感じてしまうから。


「いや、やっぱり駄目だ。ぬるすぎる。」

「な、何が駄目なのよ。命が助かるのよ!」

「そもそもなんで僕は何の交換もなく情報を提供しているんだか。この程度の問題であれば見て見ぬふりをすればいいだろう?」

「この程度ではない! 命に関わるのよ!」

「で? 命を落とさないとしても、未来はあるのか?」

「生きていれば何とかなるわよ。」

「確かに元々魔術が無い世界だ。魔力が無くなったとしても生きていくには支障が無いだろう。しかし目の前に殺人犯があらわれたとして自衛は出来るかな? 個性が使えるか使えないかで大きく変わってきてしまうだろう。」

「そ、そんなの通報してくれたら大丈夫よ。」

「それは相手が個性を使わない時代の常識だろう? 今は誰でも魔術を使えてしまう。個体さが有れど誰でも殺人を侵せてしまうんだ。」


 墨を吐く魔術だって魔力さえあれば、ナイフを持つ相手にだって勝ててしまう。


「そんな殺人鬼の前に魔力回路が摘出されてしまった人がいたとする。どうなるかは明白だろう。もし魔力回路が摘出されていなかったら生きながらえれたかもしれないと言うのに。」

「で、でも摘出しないと死んじゃうわよ。」

「それは目先の結果にとらわれているだけだよ。考えてみればわかるだろ、街中は剣を抜き身で持っている人がうろついているのと同じなんだ。いつ切られるかわからない。現代の犯罪率がどれくらいか分からないが、相当高いだろう? 目の前に剣があるのだから。」

「……」


 思い当たる節があるからなのか、だんまりだ。しかし、言いたい事は伝わったと思う。

 手段があるのにやらない臆病者しかいない時代ではないんだから。


「で、どうなんだ?」

「確かに犯罪率は相当高いわよ。外に出れば盗難を見かけない日はないし、路地裏に入れば闇組織なんていくらでも見付かる。」


 ……あれ、割と普通じゃない? 

 想定していたよりも治安が良くて驚いた。だって2000年前だと市場に出向いたら異民族の皮を売っているのなんて普通だったし、お釣りとしてもらうのは偽装コインだし、死体なんてそこら中に転がっているくせに兵士たちは賄賂を貰っているのか見て見ぬふりをしているし。


 それに比べたら凄い治安いいじゃん。


「そんな世界なのに回路を摘出した人を歩かせるのは酷だわ。だけど、他に手段なんて……」


 なんだかんだ納得してしまっている。

 いいんだけどね。魔術師としては魔力回路を摘出するなんて見たくないし。


「他にはないわよね…」

「ん~、見た事が有るのかエレン少年くらいだから、そもそもデータが少ないんだよね。だから、もしあったとしても分からない。」


 エレン少年の事しか知らないのに、ここまで考察を巡らせることが出来た僕を褒めてほしい。もし他にも見たことがあるのであれば考えれることもあったかも知れないけど、資料が無いのでそうも言えない。


「分かったわ。患者さんに許可を貰えればだけど見せてあげる。」

「え、良いの?」


 見せてもらえるとは思っていなかった。そもそも巴さんがこの病院でどの様な地位を確立しているのか知らないから、お願いしようと思っていなかった。



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