第10話 時代は変わっている。実感は視覚から




10話目


 多摩総合病院。その名で建っているのは巨人族ですら入る事が可能そうなデカい建造物である。

 少年とお母様、そして僕とピノは甲高いサイレンを鳴らして走行していた鉱物の塊に飲まれて多摩総合病院に向かっていた。


 鉱物に飲まれる事は無いから奇妙な気分で内部を見たが、少年を中央で寝かせている以外に常識的な物はなかった。

 壁には様々な器具がおいてあり、その一つ一つに透明な袋がかかっている。


 魔術の技術は見るに耐えないが、別の技術で作ったであろうその器具には興味が湧いてきた。魔術でこれほどまで精密な針や袋を作ろうとすると、それこそギリシャ神話の神であるヘファイストスの力を借りなければ行けないだろう。

 もしくは、数少ない作る事に関する宝具を使わなければいけない。


 だから僕はその一つ一つの器具を見るや否や圧巻のあまり、目を大きく開き、口を丸く開け体は一切動かないでいた。

 魔術に関しては個性と言う劣化品になってしまっているが、新たな技術をつかってこれほどまでの物を作っているのだろうと大変驚いた。やはり2000年ぶりに塔を降りてきて良かったかもしれない。


「アルトさん大丈夫ですか? つきましたので降りて大丈夫ですよ。」

「……え、あ。分かりました。」


 するといつの間になのか病院という場所へ着いたらしい。

 医術は進化しているのだと思っていたけれど、あらためて革新的な物になっているのだと鉱物の中においてあった器具を見て改めて確信した。

 

 しかし感銘を受けるのはそこまでのようだ。もう降りなければいけないらしい。


 言われるがままに降りるとそこには、王が住むほど大きな建造物が建っていた。医者が言うにはここは病院だ。その規模に圧倒されて立ち止まっていると、少年や医者たちが中に入ってしまっている。

 こんな所においてかれてしまったら迷子になってしまうから、気を取り直してついて行った。

 中に入ろうと歩いて行くと自動で開く扉や、清潔で濁りのない色で構成されている道に気を取られるが医者達の歩くスピードが早すぎて一つ一つ見て居られない。


 すると目的の所に着いたのか椅子が沢山ある場所で立ち止まった。


「こちらでお待ちいただいてよろしいでしょうか?」

 

 天井にかかっている看板には待合室と書いてあり、僕は待たなければいけないのだろう。しかし、少年はドンドン連れて行かれることからここでお別れのようだ。


「どのくらい待っていればいいのでしょうか?」

「少しの間だと思います。アナウンスでお呼びしますのでそれまでお待ちください。」

「移動はしてもいいんですか?」

「外に行かなければどこに居ても大丈夫ですよ。左奥の方に購買がありますので、小腹が空いているようでしたらお勧めです。それでは私はこれで失礼します。」

「ありがとうございます」


 言いたい事は全部言い終わったみたいで早歩きでいてしまった。しかし病院の中に購買があるなんて時代は変わったね。ここにいても暇だし行ってみようかな


 待合室には椅子があるだけで暇を潰せそうなものは無いので、病院の中をすこし探索してみる事にした。


「それにしても人が多いね。」


 勧められた購買に行くために歩いているのだが、病院だからなのか人がすごく多い。歩きずらいとまでは行かないが、視界には常に4,5人いる感じだ。


「そうですね。特に老人が多いです。」


 フードに入っていたピノは起きていたのか、医者がいなくなった後直ぐに出てきた。


「本当だね。動く事もままならない人が沢山いるよ。」


 ピノが言った通り高齢者が沢山いる。医術の技術が上がったからなのか体がしわくちゃになっても、生きて行けるようになったのだろうか。しかし動く事もキツイそんな体で生きていくのは辛くないのだろうか? 

 僕は研究が出来なくなったら死にたいと思っているから、脆い体を延命までして生きたとは思わないのだけど。


「今は働くことが出来なくなった人を川に流すとかは無いのかな。あれ、理論的で倫理感なくなってるから好きなんだけど。」

「日本にも昔はあったみたいですよ。60くらいの老人を山に捨てる法が。」

「へ〜あったんだ。……あれ、ピノこの2000年の間に日本に降りたの?」

「いえ、青さんに教えてもらったんです。」


 【青】様はふらふらといろんなところに行くので様々な情報を持っているのだが、そんなことまで知っているのか。それに僕が知らない間にピノに合っていたんだね。

 せっかくならお茶でも誘ってくれたらよかったのに。


「姥捨て山という物語もあるみたいですよ。ですが今ではメジャーな悪法らしいです。物語でも最終的に老人の知恵が役に立って法が改正されますから。」

「へ~、魔本にも同じようなのが乗っているよ。」

「どんな内容なんですか。」


 魔本は人体実験がよく行われていた時代に作られた本で、人の皮を使っていることが多いから、内容も基本的に気味が悪い物が多い。

 だけど、作っていた状況や内容も合間って希少性や神秘が強い為、魔術に使用する触媒としては最高級に位置する。


「基本的には一緒だよ。使い物にならなくなるであろう40歳の老人を川に流したりして処分するんだ。だけどその真実の理由は違うって言う謎解きなんだ。」

「謎解きですか?」

「そう。だって魔本が作られたのは全ての人が魔力を持っている時代だよ。萎れた老人であっても最低限の魔力があれば農作業は出来る。」

「それなら口減らしに殺す意味はないのでは?」

「だから、使い物にならなくなったと言うのはウソなんだ。本当は民を洗脳するため。子供のころから「王様が言う事は全て真実」だと言い続けて従順な民を作るんだ。

だけど、王様が即位する前から生きている人たちは、自我を確立していて洗脳なんか出来ない。しかし、本来はもっと生きるであろう老人たちを殺すことで、洗脳されていない人を減らしたんだ。」


 この王様の凄い所は行動の全てに理由と数字をつけていたところだ。例えば老人が農作業をして採れる作物の量と、老人が消費する量を比べたんだ。このとき1人の老人に焦点を当てるのではなく、全ての老人の統計で話した。

 もちろんその統計の中には魔力が低くて農作業が出来ない人や、体が動かなくなるまで生きた人のデータも入っている。


 するとどうなったか?


 計測するデータが老人のみなのだから、消費する量の方が多くなってしまった。


 今までこのような悪法を作った王様は多いのかも知れない。しかしこの王様の凄い所は都合がいい真実を話したこと。老人がいなくなればもっと贅沢出来るようになるかも知れないと言う夢を語ったことだ。

 しかし、最初はこの法に意義を見出した人は多かったかもしれない。


 身内を殺すなんて出来ない人は多いからだ。しかし時代が進むにつれてとある変化が起きた。


 国力が上がっていたのだ。ただの平民であれ3食食べることが出来て、他国に攻められたとしても栄養満点の食事によって培われた肉体で跳ね返して行った。さらに余った食料を売る事で金銭が手に入り、新たな技術まで手に入る。


 実績ができたのだ。


 全ての人が魔術を使える時代とは言え、その時はまだ魔術の技術は進んでいない。子を売り食料を手に入れ、自分を売り戦争に出て、臓器を売り明日を待つ。

 それが当たり前の時代に、3食食べることが出来たんだ。


 自然に民たちは思う訳だ「王が言う事は全て真実」と。お爺ちゃんは老人を殺すのには反対していた。しかし真実は目の前の食料に書いてあった。間違っていると教えてくれる人はいなくなっていた。


 王様はこの悪法によって3つの力を手に入れた。

 一つは、何にも負けない戦力

 二つは、従順な国民

 三つは、最先端の技術


 たった一手によって3つもの力を手に入れた。

 これが【魔本 賢明な詐欺師】の中に書いてある物語の一つだ。





11話目


「ここが言っていた購買かな?」

「そうみたいですね。いろんな物を売っているようです。」


 何を売っているのか見てみるために覗いてみる事にした。しかしそこには商品を選んでいる人が2〜3組くらいいるので遠巻きに見る事にする。

 何も買う気が無いのに邪魔をするのはよろしくないからね。


 その事はピノもわかっているようで、僕の肩に乗って見ていた。


「なんか袋に入っているものしかありませんね。」

「そうみたいだね。でも袋に絵が書いてあるみたいだからそれで入っているのが分かるんじゃない?」

「不便ですね。本当に入っているのか分からない物は買いたくないです。」


 なぜ全ての商品を袋に入れているのだろか。そんな事をしたら欲しい量を買う事が出来なくなってしまう。

 特に扉付きの棚に入れてある飲み物とか、色がグロテスクで一本飲み切れる気がしない。

 

 量を減らして貰わなきゃ買う気にはならないよね。


「今はこんな風に売っているんだね。」

 

 それに一つ気付いた事が有るのだが、その売店には果実や野菜が売っているようには見えない。袋詰めされているから見えていないだけなのかもしれないが、それにしても野菜類が入りそうには見えないし、それなら何を売っているのだろうか……

 購買と言っていたから食品だけが売っているわけではないと言うのは分かるのだけど、もしかしたら食品は売っていないのかも知れない。


 それなら納得いくところ多々がある。


 それに今気づいたのだが、脇に新聞と書いている紙があった。紙いっぱいに文字が書かれているようで手に取ってみる事にした。


「凄いね。一面文字だらけだ。これが何枚もあるなんて……。印刷技術は相当上がっているね。」

「これだけ正確なら魔術陣を保存しておくのにもいいかもしれません。」

「だね。魔術が使えるかは分からないけど、暴発はしないから保存には最適だ。」


 文字の多さから手に取ってみたが、思っていたよりも文字が小さく潰れていない。それどころか、読めない文字は無くて技術力の高さが疑われる。

 そのせいか、少し読んでみたいと言う風に思った。今まで本は沢山よん出来たけどそれらは全て人の手で書かれたものでほぼすべてが原書と呼ばれる世界に一つしかない本だ。


 だからここまで複製された文章には興味が出てきた。


「マスター立ち読みは怒られますよ。」


 しかしお金を払わずに読むのは駄目だろう。読むには買うしかない。

 だがここで一つ問題がある。


 僕たちはお金を持っていないんだ。

 現代でどの様な硬貨を使用しているか分からないが、物々交換が出ない限りはこの新聞を買う方法が無い。だから遠目で購買を見ていたんだ。


 塔から2000年ぶりに降りてきたのでしょうがないと思うところはあるが、買うことが出来ないのはもやもやが残る。しかし諦めるしかないだろう。

 だが、ここで何もしないのは人間ではない。


 もちろん盗んだりはしない。犯罪者にはなりたくないからね。でもとある抜け道があるんだ。見えるところに置くのであれば読めると言う事。

 長々と立ち読みをするのはダメだが僕は魔術師だ。


 魔術を使えば簡単に複製が出来る! 


 思い立ったら吉。

 ローブの中にある杖を取り出して新聞に魔術をかけようとする。もちろん周りの人たちには見えないようにコソコソとやるんだ。 

 悪い事だと分かってはいるが、好奇心の方が勝ってしまう。


「具現化……」 


 しかしその瞬間僕は後ろから声をかけられてしまった。


「なんで厄介ごとが立て続けにおこるのかな。はぁ、そこの魔術師は杖を降ろしなさい。」


 現代では存在しないはずの魔道師という言葉をかけられたので、反射的に振り向いた。魔術を使おうとしていた杖を隠そうともせずに。

 そこにはため息をつきながら杖を凝視している女性がいた。


「そんな魔力を使ったら周りの人たちが気圧されちゃうでしょ。」

「あ…あぁ、直ぐにやめるよ。」


 その女性が言ったように周りにいた人たちは会話を止めて僕を見ていた。

 そこまで魔力を使った気はしなかったけど、考えていたよりも影響を与えてしまっていたのかとしれない。


 流石にここまで注目をされてしまっては、複製を中断するしかないので有無言わずに作りかけの術式を揉み消す。

 複製する以上に魔力を消費してしまったが、気にするほどではない。


「やっぱり神代なのね。」

「神代?」


 女性は意識付けるためなのかポソっと聞こえないようになにかいった。しかし女性と僕との間は一歩程度で、さっき魔力で威圧してしまったから虫の羽音さえ聞こえてしまう。


 そんな中で言ったものだから聞こえてしまった。


「……私は桜木巴よ。あなたのことが気になるらしい、ついてきてもらってもいいかしら。」


 少し眉をひそめただけで説明する気はないようだ。


「僕はアルトさ。付いていきたいのは山々なんだけど、呼ばれていてね。済まないがあっちを優先させてもらうよ。」

「魔術師のあなたが病気にでもなったの?そんだけ魔力があれば病原菌なんて死滅しちゃうんじゃない。」

「いや、とある少年を治したんだけどね。どうやったのか知りたいんだって。」

「何を?」

「個性の暴走? っていっていたよ。」


 すると巴さんは何か悩んだように首をかしげた。一般人が言っている位だから、有名な症状だと思っていたけど、知らないのかな?


「えっと、個性の暴走っていうのはね……」

「ストッッップ!!! ここでそれを話さないで”!」

「え、急に叫んでどうしたんだい。君のために説明しようと思ったのに。」


 しょうがなく説明しようとした瞬間に大きな声を出して僕の言葉を遮った。


「今ここでは言わないで! ちょっとこっちに来なさい。」

 

 すると焦っているのか、アルトの手を引いて連れて行こうとした。しかしここらへんで待っていないと呼ばれた時に困ってしまう。

 引っ張られているがその場にとどまろうと踏ん張る。長い間運動らしいことはしていないが、女1人に動かされるほど弱ってはいない。


「ここで待っていなければいけないんだけど。」

「大丈夫よ。元々貴方と話をするのは私だったんだから、呼ばれるのが少し早くなったと思っとけば良いでしょ。」

「そうなんだ。それなら早く言ってほしかったな。」


 巴さんはここの関係者だったみたいだ。そんな事はまったく知らなかった僕は考えもなしにその場にとどまろうとしていたみたい。


「……早く行くわよ。」

「行くのはいいんだけど、この手を放してくれない? 痛いんだけど。」

「貴方は逃げるかも知れないでしょ。」

「そんなことしないよ」


 雑談をかわしながら、アレン君が行った方とはまた違う方へ連れてかれるのであった。



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